本研究は、骨修復過程において重要な役割を果たしていると考えられる細胞増殖因子のひとつであるbasic fibroblast growth factor(b-FGF)を用い、長管骨とは発生形態が異なる膜性骨である頭頂骨に対するb-FGFの効果を明らかにするために、ラット頭頂骨円形全層骨欠損モデルにフィブリン糊とともに手術時単回局所投与を試みたものであり、軟X線写真、contactmicroradiogram、組織学的所見から下記の結果を得ている。 1.ラット頭頂骨欠損部に、b-FGFを手術時単回局所投与した結果、術後2週目、術後4週目に有意な骨新生量の増加を認めた。一方、術後8週目、術後12週目では、対照群であるフィブリン糊単独投与群とb-FGF投与群との間に骨新生量における差が認められなくなっていた。 2.b-FGF手術時単回局所投与において骨新生量の増加が有意に認められた術後2週目、4週目における最小有効投与量はそれぞれ0.0lgであった。この結果を長管骨に関する研究と比較すると、膜性骨においてはより微量なb-FGF投与量で骨新生を促すことが明らかとなった。 3.b-FGF投与による骨新生が認められた部位は骨欠損部断端であり、軟骨組織を認めない骨化過程を示し、本来の頭頂骨の骨化様式である膜内骨化の過程により、骨修復を促す事が示された。 以上、本論文においては膜性骨である頭頂骨欠損部におけるb-FGFの骨新生効果を検討した結果、b-FGFは骨欠損修復過程の初期に作用し、頭頂骨では長管骨と比較すると微量で骨新生量を増加させる効果があり、本来の頭頂骨の骨化様式である膜内骨化の過程を変化させずに骨修復を促す事が示された。 本研究より得られた結果は、膜性骨の骨修復に対するb-FGFの作用の特異性を理解する上で非常に有意義であり、従来より報告されてきたb-FGFの長管骨に対する骨新生能と比較検討を行う上で重要と思われる。また臨床で用いられているフィブリン糊を担体としたb-FGFの手術時のみの局所投与で骨修復を促したことから、臨床応用の可能性も高いと示唆されるものと思われ、学位の授与に値するものと考えられる。 |