本研究は成長期の顎裂閉鎖における骨移植が顎成長に及ぼす影響を明らかにするため、家兎顎裂モデルを用いて、骨欠損部の修復に用いた自家骨および人工骨補填材が上顎骨成長に及ぼす影響に関して、実験的研究により検討を行ったものであり、下記の結果を得ている。 1.組織学的観察では、骨欠損部において、新鮮自家骨(骨髄液、皮質骨細片、骨ブロック)移植により早期に新生骨の形成または骨のcreeping組織像がみられ、既存骨との骨性癒合像がみられた。一方、HAP・TCP顆粒状タイプの埋入群では、顆粒周囲に新生骨がみられ、次第に顆粒間隙に新生骨梁が入り込み、骨修復が完成していた。骨形成過程において、軟骨組織像がみられず、膜性骨化による骨形成様式が見られた。 2.骨欠損部周囲の骨膜から新生骨の形成が認められた。顎裂閉鎖においては骨形成能を有する骨膜で可能な限り顎骨欠損腔面を覆うことが重要であることを確認した。 3.実体測定では各群(非移植群、人工骨補填材埋入群、骨髄液移植群、皮質骨細片移植群、骨ブロック移植群)において上顎骨の成長発育を認めたが、骨欠損部と健常側とは上顎骨の成長の差が認められた。骨欠損側においては、骨移植群(皮質骨細片移植群と骨ブロック移植群)において上顎骨成長抑制効果が大きく認められ、自家骨ブロック移植群における抑制作用が最大であった。軟X線写真による観察での上顎骨矢状中心線の偏位角は、骨ブロック移植群がもっとも大きく、非移植群との間に有意差が認められた。 4.移植材料の種類および骨移植材の形態などにより骨欠損部における修復期間の相違が認められた。 上記の結果に基づき、今後臨床での顎裂閉鎖における骨移植に関しては、患者の移植年齢などを総合的に検討した上で移植材料、骨移植材の形態を決めていくことが重要と考えられる。すなわち、成長期の患者で、犬歯萌出前に顎裂部への骨移植術が行われる場合では、顎骨成長への影響を考慮し骨ブロックの移植術を避けて、骨伝導能を持つ人工骨補填材のような附形材と骨誘導能のある骨髄液あるいは海綿骨との混在移植術が行われれば良好な治療結果が得られると考えられる。一方、成人の患者に対する顎裂閉鎖移植への骨移植術が行われる場合では、成長抑制を考慮する必要がない。このため、骨欠損部を早期に閉鎖し、歯槽堤の形態再建および口鼻通道の閉鎖を行うために、良好な骨誘導および骨伝導能を持つ骨ブロック移植術が第一選択ではないかと考えられる。 以上、本論文は上顎骨の顎骨欠損部において、新鮮自家骨(骨髄液、皮質骨細片、骨ブロック)、人工骨補填材HAP・TCP顆粒を移植した後の組織学的変化、骨形成過程を観察し、それぞれ骨伝導能および骨誘導能による骨新生を促進する作用が異なり、上顎骨成長発育に及ぼす抑制的な影響にも差があることを家兎を用いた動物実験により明らかにした。 本研究は臨床での顎裂閉鎖における骨移植に関しては、患者の移植年齢などを総合的に検討した上で移植材料、骨移植材の形態を決定する上で重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |