本研究は、農村において介護と農業を継続する介護者に焦点を当て、介護者が介護と農業を継続する意義とその戦略についてエスノグラフィを主たる方法論として解明し、地域看護学の重要なテーマである在宅介護の有効な展開に寄与することを目的とした。 農村介護者、保健医療福祉担当者、住民との面接調査、参加観察、既存の資料から収集した情報の分析の結果、<百姓としての義務>、<農業は張り合い>、<親の介護は当たり前>、<労働価値>、<性別役割規範>、<村集団からの規制>、<生活互助機能と農業形態の変化>、<介護と農業の組み込み戦略>、<家族の機能>、<農業という仕事の形態>、<老人の状態>、<介護者の介護力>、<生活の工夫>、<やり抜く行為への価値づけ>、の14のカテゴリと、<やらざるを得ない現実に対処するための行為への意味づけ>、というテーマを抽出し、カテゴリ間の関係性から、下記の結果を得ている。 1.農村介護者にとって、農業は<百姓としての義務>であり、かつ<農業は張り合い>であった。また<親の介護は当たり前>と捉えており、農村介護者は、介護と農業を共に深く内在化していた。 2.<労働価値>、<性別役割規範>、<村集団からの規制>、<生活互助機能と農業形態の変化>といった村に関するカテゴリは、農村介護者が介護と農業をやらざる現実をつくり出し、その内在化を進め、行動を規制していた。 3.農村介護者の<農業は張り合い>といった農業への志向性が、介護と農業の強い動機づけとなっており、農業は、介護と農業の継続を可能にする要因であった。 4.農村介護者が介護と農業を継続する方法として、時間と仕事量を見積もりながらいくつかの戦略を工夫して用い、介護者の生活時間に介護と農業を組み込む、<介護と農業の組み込み戦略>が明らかとなった。またこの戦略には、前提条件かつ関連要因として<家族の機能>、<農業という仕事の形態>、<老人の状態>、<介護者の介護力>がみられた。 5.<介護と農業の組み込み戦略>は、介護者にとって、やらざるを得ない現実に対処するための<生活の工夫>であり、介護者は、このような<生活の工夫>をしながら、やり抜くその行為に価値を置くことによって、複数の役割を継続していた。それは、組み込み戦略に代表される生活の工夫は自らの判断と行為に基づく主体的な行為であり、この自らの主体性が発揮できる行為に価値を置くことによって、介護者は意味ある自分を見出すことができるためであると考えられた。 以上、本論文は生活の中で生じる経験に関するデータから帰納的に探求し、農村介護者に特有な介護と農業の継続方法や、その意味を明らかにした。本研究は、系統的な分析がほとんどなされてこなかった農村の家族介護研究に、行動面と意識面を具体的に関連づけることにより、重要な視点を提示するとともに、方法論としてエスノグラフィを取り入れることにより、地域看護研究の幅を広げる意義は十分認められ、学位の授与に値するものと考えられる。 |