I.はじめに アメリカでは増加しつつある青少年の薬物使用を抑えるため、彼らがなぜ薬物使用に至るのかについて様々な理論的な検証が行われている。その中で、Strain Theory1)、Social Control Theory2)、Differential Association Theory3)の3つの理論に基づいた研究が多くみられる。
注1)逸脱行為は内的圧力、または情緒的な葛藤の表出であり、環境の不適応、欲求不満の産物であるとされる。
2)家族や学校などの伝統的な社会集団による紐帯(BOND)が断ち切られたり、緩められたりした時に、人間は逸脱行為の自由を得るとしている。
3)犯罪行動が学習されるか否かの分化は、犯罪分化との接触の頻度・期間・時期・強度やそのグループとの親密度などによって決定される。
これらの3つの理論は犯罪の原因論として用いられてきたが、最近は薬物使用の原因論としても有効とされている。
一方、韓国や日本では青少年の薬物使用率の増加や低年齢化、使用薬物の多様化といった問題が指摘されているにもかかわらず、一般生徒に対する薬物使用の実態把握や理論的根拠に基づいた研究はほとんど行われていない。家族構造や規則・規範に対する価値基準などの、儒教文化がもたらす社会文化的な背景がアメリカと異なるアジアの韓国や日本においても、これらの理論が青少年の薬物使用を説明するのに有効であるかについては明確にされていない。
そこで、本研究では、以下の3点を目的とした。1)韓国および日本の高校生における薬物使用の実態を把握する。2)薬物使用と飲酒・喫煙との関係を明らかにする。3)3つの理論の中心概念に対応した尺度を用意し、韓日における独自の薬物使用の予測モデルを作成する。3つの理論の中心概念をそれぞれ、以下「STRAIN」「SOCIAL CONTROL」「DA」と示す。
2)と3)の目的に関しては、以下の4つの仮説を設定した。
1)飲酒や喫煙は薬物使用のGateway Drugである。
2)青少年の薬物使用を説明する最も強い影響要因は「DA」である。
3)「STRAIN」や「SOCIAL CONTROL」は薬物使用に至る直接的な要因ではなく、青少年が「DA」に向かうこと(薬物使用に寛大な雰囲気や環境におかれること)の影響要因である。
4)「DA」によって薬物使用に至るのは、「DA」に接することにより、薬物使用を容認するBeliefを身につけるからである。
VI.結論 1.韓国では、この一年間の薬物使用者は104名(2.2%)、日本では255名(6.1%)であった。韓日とも薬物使用を誘われた経験がある者の約70.0%が誘われてすぐに使用していた。薬物の開始時期は韓国では中学校3年生、日本では中学校1年生の時が最も多かった。
2.韓日とも薬物使用群のほうで飲酒・喫煙頻度が、ともに有意に高く、さらに、薬物より先に飲酒、または喫煙を経験したことが明らかになった。
3.飲酒・喫煙・薬物使用を説明する強い影響要因は「DA」であることが明らかになった。
4.韓日独自の薬物使用に関わる予測モデルの作成
(a)GFI、AGFI、CNは妥当なモデルの条件を果たし、高い適合度が認められた。
(b)韓日とも「SOCIAL CONTROL」や「STRAIN」から薬物使用への因果関係は認められず、薬物使用に至る主な経路としては、これらの要因が「DA」を介し影響していることが認められた。また、「DA」から薬物使用に至るのは、主には直接的な経路であるが、一部はさらに「BELIEF」を介して使用に至るという間接的な経路であった。しかし、韓日の相違点は、韓国でのみ「STRAIN」から「DA」を介し「DRUG USE」に至る因果関係が、認められた点である。
図1.韓国の薬物使用の予測モデル図2.日本の薬物使用の予測モデル