本研究は外来における処方オーダーエントリシステムにおいて、医薬品の適正使用を目指し重複処方薬剤の実態調査および重複処方を警告するシステムの導入と評価を目的として行われた。まず予備調査により重複処方薬剤の実態を把握し問題点を明確にした。次に調査結果から、重複された処方薬剤の危険性及び重複処方に対する警告必要の有無の判断を行った。そして、重複処方薬剤をより正確に検出するための手法を検討し警告システムを構築した。この警告システムは、重複された医薬品の薬理作用の警告ではなく、重複のあることを医師に示し、その処方薬剤についての判断は医師が行うものであり、不適正な処方を予防することである。構築したシステムを現在の処方オーダーエントリシステムに支援機能として追加し導入前後の評価を行い、下記の結果を得ている。 1.重複処方薬剤の検出手法について、現在使用されている薬品コード及び薬効分類コードでは正確に対応できないことが明らかとなった。検出の感度と精度を高めるため、同一成分あるいは同一系統の薬剤であることをチェックする体系的な分類コードを設定する必要性のあることが示唆された。本研究では一般名別の成分コード及び系統別の系統コードを独自に設定し使用したことにより重複処方薬剤の検出に対し効果のあることが判明した。 2.患者が複数診療科に受診している場合、同一成分、同一系統薬剤の重複は危険であることが臨床医の判定で明確となった。特に、ベンゾジアゼピン系薬剤の重複例を見ると、臨床医の判定により、80%以上の医師が危険とした重複例(トリアゾラム&ブロチゾラム)は2件あり、75%以上の医師が危険とした重複例(トリアゾラム、ブロチゾラム、ニトラゼパム)は17件検出された。このようなリスクの高い重複例は決して多くはなかったが、医師の処方設計時に不適正な処方を予防するためには、複数診療科で併用された重複処方薬剤に対する警告支援システムの必要性が示唆された。 3.今回構築した警告システムは、予備調査で重複の発生頻度が高かった循環器官系用薬と中枢神経系用薬の二系統薬剤について行っている。患者の併科受診時においてすでに同一成分薬剤、同一系統薬剤が他診療科で処方されているという情報を提供することにより、医師の処方設計を支援する情報となり、リアルタイムで医師に医薬品の使用情報を提供することの有効性が明らかとなった。また、本警告システムの導入により重複処方薬剤が導入前と比べて明らかに減少し(循環器官系用薬11.2%対5.1%、中枢神経系用薬8.6%対4.6%)、この警告システムが重複処方薬剤の発生率の低下に効果のあることが明らかとなった。 4.本研究での調査分析により、他診療科処方を参照できる同一病院においても無視し得ない重複が生じていたことが明らかとなった。このような重複処方薬剤は、一般に病院内さらには病院間で多く発生している現象と思われ、本研究により警告システムの有効性を明らかにしたことは、今後病院間あるいは調剤薬局間での同様なチェックの重要性が示唆された。さらに医薬品の適正使用のためには、医師の診療時にリアルタイムで支援する医療情報システムを構築し、医師の処方設計に際して医薬品情報を提供することの有用性が示された。 以上、本論文は、医薬品の適正使用を合理的に形成し、処方オーダーエントリシステムにおいて、医師の診療時に重複処方薬剤の情報をリアルタイムで提供するシステムを確立したものであり、医療情報システムにおける医薬品情報の提供・支援として、臨床医療の場に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |