本研究第1部は、急速に上肢運動が発達する幼児期の子ども達(3歳から6歳)を対象に、(a)上肢(肩、肘、手首)の回内・回外運動(b)目と手の協応性の発達、が反映され上肢運動の分化と優位手の発達の指標となる検査として、〈糸巻き検査〉を開発した。上肢運動における左右の機能分化と優位手が決定してゆく経過を横断的に検討し、下記の結果を得ている。 1.年長児ほど有意に速く糸を巻きとることが出来た。 2.女児が男児より、有意に速く糸を巻きとることが出来た。 3.右手が左手より有意に速く糸を巻きとることが出来た。 4.両手課題「課題1」の右手は、開眼時が閉眼時より有意に速く糸を巻きとることが出来た。利き手は右利きが81.6%で、年齢、性差は認められなかった。側性化指数は右手の指数60%以上が81.8%であった。利き手の違いによる、上肢運動の優位性に差は認められなかった。 第2部では、第1部の健常幼児の発達を基準として、ダウン症児の上肢運動発達の分化と優位手の発達との関連を発達学的にとらえること、またダウン症の特異的差異を明らかにすることを目的として検討し、下記の結果を得ている。 1.糸巻き検査の結果、13歳-18歳群および19歳以上の群では、7歳-12歳群より有意に速く糸を巻きとることが出来た。 2.7歳-12歳群では、(a)女児は男児より有意に速く糸を巻きとることが出来た。(b)両手課題「課題1」の開眼時は、右手が左手より有意に速く糸を巻きとることが出来た。(c)片手課題「課題2」の右手は開眼時は閉眼時より有意に速く糸を巻きとることが出来た。(d)年齢による遂行速度の差は認められなかった。13歳群と19歳群では、性差、左右差、開眼閉眼による差は認められなかった。 3.利き手の検査の結果、ダウン症は健常幼児群より両利きの割合が有意に高かった。利き手と優位性の一致率を調べるため、利き手とSAIを比較した。閉眼時、右手優位でかつ両利きの健常幼児は10%であったが、ダウン症は26.7%であった。ダウン症は右手優位で両利きの群が有意に多く、両群で有意差が認められた。 以上、本論文は健常幼児の発達を基準として、ダウン症児の上肢運動発達の分化と優位手の発達との関連を発達学的に明らかにした。ダウン症の特異的差異を明らかにしたことは、彼等の発達評価に重要な貢献をなると考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |