本研究は、高齢者のQuality of Life(以下、QOL)に及ぼす要因として、ソーシャル・サポート(以下、サポート)が注目され、サポート受領がもつポジティブな効果が多くの研究で示唆されているが、サポート提供の側面を考慮した研究が少ない現状から、サポート授受(提供と受領)およびサポート授受のバランスがQOLに及ぼす影響を検討することを目的としたものである。上記の課題に関する先行研究がほぼ皆無の状態である韓国と日本の農村地域に居住している60歳以上の高齢者を対象に横断調査と追跡調査を行い、下記のような結果および知見が得られた。 1)サポート授受のパターンに関しては両国ともに家族中心のサポート授受が行われ、他の先行研究とも一致していた。また、サポート授受は活動能力および年齢との相関が強く、特に提供サポートに関しては活動能力が低くなるにつれサポートが減少する傾向がみられた。 2)サポート授受のQOLに及ぼす影響については、韓国ではサポート受領よりサポート提供の方がQOLと強く関連しており、サポートを多く提供している人において高いQOLがみられた。従来のサポート研究ではサポート受領がもたらすポジティブな効果のみが焦点になってきたが、本研究の結果は、サポートを提供することの方がQOLと強く関連していることを示している。これは欧米におけるいくつかの先行研究で、サポート提供が高齢者のQOLによい効果をもたらすという報告と一致する知見である。さらに、韓国では全体的な傾向として、サポート授受が頻繁な人において最も高いQOLがみられた。これは欧米におけるIngersoll-Dayton&Antonucci先行研究を支持する結果となり、高齢者が周囲の人から援助をもらうことと自らサポートを提供することとのバランスが重要であることを示唆する。 3)日本でのサポート授受とQOLとの関連では、サポート受領のネガティブな効果がみられ、他人(配偶者、子供、友人)からのサポート受領が少ない人において高いQOLを示していた。この結果は、従来の先行研究の多くにおいて示された結果とは異なり、高齢者におけるサポート受領がもつ、返報できないことに対する罪悪感、依存傾向の増大といったネガティブな側面をより強くあらわすものである。 4)初回調査でのサポート授受の影響が1年後のQOLにも同様に影響を保っており、サポート授受がQOLに対し予測的妥当性を有するかを調べるために、1年間の追跡調査を通して、初回調査のサポート授受が追跡調査のQOLに及ぼす影響を調べた。その結果、韓国と日本の両国において、サポート授受の影響は弱くなっておりサポート授受がQOLの独立した予測因子であることは証明できなかった。 本研究では、ソーシャル・サポート授受とQOLとの関連を韓国と日本の在宅高齢者を対象に検討した。その結果、従来の多くのサポート研究で示唆されているサポート受領のポジティブな効果よりも、韓国ではサポート提供のポジティブな効果が、日本ではサポート受領のネガティブな効果が確認された。この結果は、いかにすれば高齢者のQOLを高く維持あるいは増進するかを考える際に、従来より強調されてきた高齢者をどのようにサポートするかという側面より、むしろ高齢者の自立を尊重することや高齢者自らサポートを提供する機会を与えるという側面が重要であることを示唆する。高齢者の方からネットワークのメンバーに何らかのサポートを提供できる状況を作っていくことも豊かな高齢者社会をめざす時、重要になってくると考えられる。 以上、本研究は、従来までほとんど無視されていた高齢者自らがネットワークのメンバーに対しサポートを提供する側面およびサポート授受のバランスに着目し、韓国と日本を対象とし調査を行ったものであり、サポート研究に大いなる貢献をするものと認められ、学位の授与に値するものと考えられる。 |