この論文の研究対象は、位相群とそれらの間の代数的射が位相的な性質とどのように関係しているかを、二つの異なった複雑性をもった位相群に対して組織的に調べようとするものである。 この種の研究の対象の背景には、「数学」という体系を、数学の諸概念や定理の全体を、AならばBという関係での順序関係による部分順序体系とみて、その構造を研究しようという視点がある。 このような視点から、数学における定理や、証明の過程で本質的な役割を演ずる諸概念の論理的な役割や構造を、具体的な数学の分野に焦点を当てて研究しようという意味もある。この研究では群構造の純代数的側面と位相的側面の関係を対象としている。 論文の表題はFinite Images,Characters and Disconnectedness of Topological Groups(位相群の有限像、指標および不連結性)である。 二つの複雑性の異なる位相群の間の代数構造を保つ写像が、いかなる位相的構造を保つか、代数的射はどのようなものに限るかなどを中心に研究している。 異なる複雑性の代表的例は、有限と無限、可算と連続体の無限、離散と連結性等である。その中でも特に像が有限になる群とその射の構造もここでの大切な研究対象である。 終対象である像が小さいほどその核は大きくなる。ある種の位相群では大きな部分群は自動的に開部分群になるということが知られている。つまり、連続とは限らない準同型が連続準同型になる条件や、連続とは限らない準同型の有限像は連続準同型の像になっているという性質(Finite Quotient Property;FQP)などである。 最初の章では、当該研究に関連した群および群の間の写像に関連するこれまでの研究の背景と、以下の章での展開のための諸概念の導入の後、A,Bがともに有限巡回群の直和であるとき、 「AがBの部分群であることと、AがBの商と同型であることは同値である」という性質を証明している。 この証明には、基数不変量と集合の可算列の間の添え字と両立する単射の存在に関する必要十分条件が用いられ、この条件を濃度の関係式として得ている。 次の、章ではFQPの成立するための十分条件を指標という観点から与え、その応用として 「べき指数有限かつ十分多くの指標をもつ位相アーベル群はFQPをもつ」という性質を証明している。これから任意のコンパクトアーベル群はFQPをもつことが解る。 また、これらの諸結果はある意味で最良の結果であることを、具体的に群を構成して示している。べき指数有限の群に対しても「任意の指数有限の部分群が開であること」(Finite Index Property;FIP)、同ポーランドアーベル群、非可換コンパクト群のそれぞれについて反例を構成している。 次に、位相群の連結性と不連結性に関する諸概念、つまり位相群のweight,cellularity,characterなどの奇数不変量との関連から、例えば、不変な非アルキメデス距離を保つ位相群は非アルキメデス的であるが、位相と両立する距離を不変に保つとは限らないことを示し、Ranganの誤りを指摘している。 また、非アルキメデス的、開部分群が十分多い、0次元、完全不連続、などは一般にすべて異なる概念であるが、局所コンパクト群に関してはすべて一致することが知られている。 これらの概念に関して、十分多くの開部分群をもち0次元であるが非アルキメデス的でない例、0次元であるが十分多い開部分群を持たない例、十分多い開部分群をもつが0次元でない例、完全不連結であるが0次元でなく十分多くの開部分群をもたない例をポーランドアーベル群の中で構成している。 次章では、「任意の閉部分群が双対閉である」という性質に関連して、この性質が積で保たれるかという問題を考察している。Nobleは肯定的であろうと主張しているが具体的な証明をあげておらず、肯定的かどうかも問題であるという。 モデルの理論の応用として、Hurshovski,Evans-Hewittなどの結果の拡張として、可算範疇的な構造で、自己同型群がFinite Quotient Propertyを持たないものを与えているが、Finite Index Propertyなどに対してもこれらの手法が有効であることを示したというのもが本論文の内容である。 当論文提出者は修士の段階から、無限の対象の間にある関係や関数について、例えば選択公理を用いた存在証明にも、可能な限り具体的構成方法を求め、構成手続きの複雑性を問題にしてきた。 この対象は今後の数学の中心問題の一つである。上記の群構造と位相の関係もこういった問題意識からきたものであり、それに対して深い具体的な結果を与えている。よって、論文提出者東川雅志は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。 |