学位論文要旨



No 112900
著者(漢字) 赤堀,次郎
著者(英字) Akahori,Jiro
著者(カナ) アカホリ,ジロウ
標題(和) 数理ファイナンスに関係する確率論の諸問題
標題(洋) SOME PROBLEMS OF STOCHASTIC CALCULUS RELATED TO METHEMATICAL FINANCE
報告番号 112900
報告番号 甲12900
学位授与日 1997.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第71号
研究科 数理科学研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 楠岡,成雄
 東京大学 教授 舟木,直久
 東京大学 教授 落合,卓四郎
 東京大学 助教授 長田,博文
 大阪大学 教授 小谷,眞一
内容要旨

 本論文においては(i)Ritchken and Sankarasubramanian[17][18]型の金利期間構造のモデルと、(ii)-パーセンタイル・オプションの価格の数学的側面が議論される。(i)に関して、より一般的なモデルを与え、その数学的構造を明らかにし、(Proposition1.4)さらに、関係する確率積分方程式の解の爆発条件があたえられる(Theorem3.1,4.2)。これはモデルの妥当性に深く関係する(Remark1.5,1.6)。(ii)に関しては、ドリフトのついたブラウン運動にかんする逆正弦法則をもとめている(Theorem5.1)。それを用いて、-パーセンタイル.オプションの価格が決定される(Theorem6.1)。

 以下では(,F,P,{Ft}t∈[0,∞))を適当な確率空間の4つ組みとし、同値マルチンゲール測度とよばれるP*の存在を仮定し、(ある種の経済学的均衡の概念と同値であることが知られているc.f.Harrison and Pliska[8],Duffie[6])WをP*-ブラウン運動とする。

 t,t∈[0,∞)(連続正値{Ft}t∈[0,∞)-適合過程)を瞬間的短期金利としたとき、満期がTである債権の時刻tでの価格p(t,T)は、

 Propsition1.1.

 

 ここで、E*(・)はP*に対する期待値

 で与えられるが、このとき、右辺の条件つき期待値がrt(と幾つかの状態変数)の簡単な関数でかかれていることが望ましい。これはrtをマルコフ過程とすることが1つの解決法であるが、本論文では単に連続マルチンゲールを基礎に次のようなモデルを考えた。

 

 

 

 すると

 Proposition1.4.

 

 を得る。

 (ただしここで,はdeterministicな過程である。)

 (0.2)の式を方程式で与えようとすれば、例えば

 

 となるが、(x)のx無限大でのオーダーが、より大きいと、(0.6)のドリフト項がlinear growth conditionを破ることになる。しかし、数理ファイナンスにおいてはそういうものがよく扱われるので、詳しく調べる必要がでてくる。結果は、

 Theorem3.1.とする。のとき、(0.6)の解は確率1で爆発する。

 Theorem4.2.とする。ここでL(x)はslowly varying functionである。

 

 

 ただし、ここでeは、Xの無限大への到達時刻、すなわち爆発時刻である。

 Theorem3.1の証明は、

 

 というスケール変換を用いて1次元マルコフ型の評価に持ち込むことによってなされる。

 Theorem4.2の証明は、

 (x)2(x)とし、の逆関数をAt、すなわち、

 

 として、Atによる時間変更をXに対して施した確率過程Ytを考えることによってなされる。

 すなわち、である。このとき、

 

 であり、(0.9)の右辺第2項はFAtに適合したブラウン運動であることにより、結局、Yは、

 

 の解となる。(ここでBは新しいブラウン運動である。)

 この方程式を変形して、

 

 とし、Bをノイズとみなして、常微分方程式だと思うことにする。以下、そもそもslowly varying functionは、無限大の近傍でのみ決まるのであるから、law of iterated logarithmとあわせて、比較定理を繰り返し用いることにより、Theoremを得る。

 本論文の後半は-パーセンタイル・オプションの公正な価格についてである。そのなかで最も基本的な定理は、

 Theorem5.1.

 >0に対して、

 

 ここで、は正規分布の末尾の分布関数、すなわち

 

 である。

 証明はFeynman-Kacの公式を用いてなされる。また、これを直接-パーセンタイルの分布に書き換えると、

 Theorem8.1(Dassios[4]).

 

 という表現を得る。これについて若干の考察が本論文セクション7と8で与えられている。

審査要旨

 本論文では数理ファイナンスに関する2つの話題(i)金利のモデルと期間構造(ii)-quantileオプションの価格を論じている。

 まず金利モデルについての結果を述べる。(,F,P,{Ft}t∈[0,∞))を標準的な仮定を満たすフィルター付き確率空間とする。{Mt}t∈[0,∞))を連続マルチンゲール、t,t,t∈[0,∞)は連続でdeterministicな関数とし、、

 112900f22.gif

 と定める。この時次の事実が成立する。

 定理1適当な可積分条件の下で

 112900f23.gif

 確率測度Pをリスク中立確率と考え、tをspot rate processと考えたとき、満期がTであるゼロクーポン債券の価格p(t,T)は

 112900f24.gif

 と表される。よって上記の定理よりlog p(t,T)はと[M]tの簡単な関数となるので、実務上有用なモデルと考えられる。

 このようなモデルは特殊な場合がRitchken-Sankarasubramanianにより与えられていた。しかし、彼らの結果は可積分性のチェックが十分でない。上の特別な場合として次のような確率積分方程式を考える。

 112900f25.gif

 ただし、Wtはブラウン運動。この時、次の結果が成り立つ。

 定理2112900f26.gifとする。112900f27.gifのとき、(1)の解は確率1で有限時間に爆発する。

 定埋3(x)≡(xL(x))1/2とする。ただし、L(x)は適当な条件を満たすslowly varying functionである。この時次のことが成立する。

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 ならば、(1)の解は確率1で有限時間に爆発する。

 112900f29.gif

 ならば、(1)の解は確率1で爆発しない。

 爆発が起こるときは可積分条件が崩れるので、モデルとして不適当である。上記の結果はこのような数理ファイナンス上の意味があるが、数学的結果としてもぎりぎりの条件を出しているので興味深いものである。

 本論文の後半は-quantileオプションの価格について論じている。主要な結果は以下の通り。

 定理4>0に対して、

 112900f30.gif

 ここで、は正規分布の末尾の分布関数、すなわち

 112900f31.gif

 である。

 上記の結果を用いて-quantileオプションの価格及びヘッジ戦略を決定している。

 以上のように本論文は独創性のあるきわめて質の高いもので、論文提出者赤堀次郎は博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/54598