学位論文要旨



No 112901
著者(漢字) 石川,佳弘
著者(英字)
著者(カナ) イシカワ,ヨシヒロ
標題(和) SU(2,1)の標準表現に対する一般化ホイタッカー関数
標題(洋) The generalized Whittaker functions for the standard representations of SU(2,1)
報告番号 112901
報告番号 甲12901
学位授与日 1997.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第72号
研究科 数理科学研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 織田,孝幸
 東京大学 教授 大島,利雄
 東京大学 助教授 小林,俊行
 東京大学 助教授 斎藤,毅
 東京工業大学 教授 黒川,信重
内容要旨

 この論文に於いて,筆者は符合(2,1)の実ユニタリー群SU(2,1)の標準表現に対する一般化ホイタッカー関数の明示公式及び,一般化ホイタッカー模型の一意性を示した.以下その動機と詳細を述べる.

 保型形式の研究に於いて,そのフーリエ展開は基本的かつ重要な役割を担っている.しかしながら,現状の多変数保型形式論に於けるフーリエ展開の理論は未だ満足のゆくものから程遠い.

 Gを簡約群,Fをその上の保型形式,それを含むGの保型表現をとする時,Fのフーリエ展開を考察する事は表現論的には,のNへの制限|Nの既約分解を研究することである.ここで,Nは,Gの放物型部分群の冪零根基を表す.Fのホイタッカー関数とは,Nの指標に対してHomN(|N),あるいはフロベニウス相互律によりのGへの誘導表現を使ってこれと同型な絡空間HomG(,)を考え,それに属する絡作用素(ホイタッカー汎関数と呼ばれる)の像を指す.その像全体の張る空間をのホイタッカー模型と呼び,dimCHomG(,)=1が成り立つ時,のホイタッカー模型は一意であると言う.しかるにのNへの制限|Nの既約成分にはNが可換群でない限り,一般には指標以外にも高次元の表現が現れる.従って,保型形式Fの完全なフーリエ展開の記述は,ホイタッカー関数のみでは望むべくもない。そこで,素朴な問題設定として,Nの任意のユニタリー表現に対して,HomG(,)を研究する事が考えられる.

 筆者はGがSU(2,1)の場合にこの問題を考察した.この時,放物型部分群は同型を除いて唯一つであり,その冪零根基Nは三次元ハイゼンベルグ群に同型となる.従ってそのユニタリー表現の同型類の代表は,ストーン・フォンノイマンの定理により,指標を除いては,中心指標sで決定される無限次元表現で尽くされる.指標に対しては,織田・古関両氏の研究でホイタッカー関数の明示公式が得られている[K-O].残る問題は,無限次元表現の場合である.しかし,今の場合HomG(,)を考察するのは,正しい方針ではない.実際,この空間は一般に無限次元であり,一意性は成り立たない.問題の正しい定式化には,Nを含む少し大きな群Rを導入し.被約ゲルファント-グラーエフ表現を考察する必要がある.

 Pのレヴィ分解をL.Nとする.LはNへ共役で作用しており,その作用は,Nのユニタリー表現の同型類のなす集合へ自然に延びる.SをLに於けるNの中心Z(N)に自明に作用する最大の閉部分群とすると,は中心指標sのみで決まるので,Lに於けるその固定化群はSに一致する.ここで,半直積S.NをRとおき,Nの無限次元表現をRへ自然な方法で延長した表現をとする.HomG(,)を一般化ホイタッカー汎関数の空間,その元の像Wを一般化ホイタッカー関数と呼ぶ.この論文に於いて筆者は山下氏の結果[Ya]をもとに[K-O]に従い具体的に一般化ホイタッカー関数Wの動径成分W|Aの満たす微分方程式を導出した.これを解くことにより,が離散系列表現の時はの極小K-タイプに属するWの,が主系列表現の時はその"角の"K-タイプに属するWの動径成分W|Aの明示公式を得,同時に一意性定理を証明した.ここにKはGの極大コンパクト部分群,Aはベクトル群を表す.

 のK-タイプ,即ち次の分解に現れるKの表現とする.

 

 但しはKの既約表現の同型類のなす集合を表す.この時,K-同変埋め込み:により,

 

 とK-タイプを指定し,次の同型

 

 但し

 

 に注意する.S(R)は表現のC-ベクトルの全体としてシュワルツ関数の成す空間である.K-タイプがである一般化ホイタッカー関数Wは上の空間に属しており,その動径成分W|Aのみで決定される.この動径成分W|Aは定数倍を除いて次のように与えられる.

 主定理W|Aを,SU(2,1)の標準表現に対するK-タイプの一般化ホイタッカー関数の動径成分とする.

 i)が離散系列表現の時.の極小K-タイプとし,そのブラットナーバラメターを(1.2)とする.

 i-1):大きな離散系列表現の場合

 

 但し,とmはk,s,1,1,…で記述されるパラメター.

 i-2):正則離散系列表現の場合

 

 但し,s<0.

 i-3):反正則離散系列表現の場合

 

 但し,s>0.

 ii)が主系列表現の時.の"角の"K-タイプとする.

 

 但し,とmはk,s,v,…で記述されるパラメター.

 ここで,{hn:n∈N}と{k:k=0,…,1-2}は,各々の表現空間の基底を表す.

 また,hnはエルミート関数を,はRe(m-+)>0かつx>0に於いて

 

 という積分表示を持つ古典的なホイタッカー関数を表す.変数arはAの元

 

 である.

 系動径成分が緩増加であるベクトル全体のなすの部分空間をとする.*からへの(gC,K)-加群としての絡作用素全体の成す空間の次元は1以下である.

[K-O]Koseki,H.and Oda,T., Whittaker functions for the large discrete series representations of SU(2,1)and related zeta integral, Publ.RIMS Kyoto Univ.,31(1995),959-999. [Ya] Yamashita,H.,Embedding of discrete series into induced representations of semisimple Lie groups II:Generalized Whittaker models for SU(2,2),J.Math.Kyoto Univ.,31-1(1991),543-571.
審査要旨 論文の内容の概略:

 保型形式の理論において、保型形式のFourier展開は疑いもなく基本的な重要な役割を果たす。それにも関わらず、これに関する基本的な研究は、比較的次元の小さな実Lie群に対してでさえ、完成されていない。

 著者は、この問題を群SU(2,1)について考える。問題の主要部分は、SU(2,1)の標準表現の一般化されたウイッタッカー関数を調べるという、表現論の問題に帰着する。この関数の明示公式を、併せてある種の重複度1定理を得るという決定的な結果を得たのがこの論文の主結果である。

 式による詳細な定式化は本論文にゆずるが、主結果を得る基本的な手段は次の通りある。

 著者は、まず離散系列表現を論ずる。この場合、表現の極小Kタイプに注目し、W.Schmidによって有効に用いられた微分作用素を使って、問題の一般化されたウイッタッカー関数の動径部分の満たす微分方程式を導出する。これが一変数の合流型の2階の微分方程式と同値であることを見、問題の関数の明示公式を得る。主系列の場合は同様に、カシミール作用素に注目して、同種の方程式を得る。

審査会の意見:

 本論分は、半単純Lie群の極大べき単部分群の、無限次元表現に対して始めて具体的に、(一般化された)ウイッタッカー関数と模型を問題にして得られた新しい結果である。

 とりわけ、絡空間の重複度が1になる場合を精確に決定した結果は注目すべきである。保型形式のFourier展開の理論に新たな視点をもたらし、これを基礎として今後応用も期待される。

 よって論文提出者石川 佳弘は、博士(数理科学)の学位を受けるのにふさわしい充分な資格があると認める。

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