学位論文要旨



No 112904
著者(漢字) 可知,靖之
著者(英字)
著者(カナ) カチ,ヤスユキ
標題(和) 4次元代数多様体の極小モデル理論
標題(洋)
報告番号 112904
報告番号 甲12904
学位授与日 1997.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第75号
研究科 数理科学研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 川又,雄二郎
 東京大学 教授 堀川,穎二
 東京大学 教授 桂,利行
 東京大学 助教授 寺杣,友秀
 東京大学 助教授 小木曽,啓示
内容要旨

 (square bracketで指示された数字はこれに続く論文の順の番号である。)

 3次元の極小model理論(Extremal Ray理論)はReid、川又、Shokurov、森、Kollarらにより確立されたので、現在は高次元の場合が興味の対象となる。この線に沿って我々は4次元のExtremal Rayを研究した(定理1)。中でもflipping contractionは特に重要である、というのも、Shokurov及び川又-松田-松木によるTermination Theoremの御陰で、4次元でも極小modelの存在はflipの存在(flip予想)に帰着されている。そこで我々はこの予想を4次元の場合に研究し、部分的に肯定的な解答を得た(定理2、3)。

 (A)最初に、3次元の森の分類表と対比して、4次元ではextremal ray達がどの様に振る舞うかを知る事が必要である。この観点から我々は4次元のfiber-typeのextremal contractionを分類した(文献[1])。この問題はそもそも1980年代半ばにBeltrametti-Mukai-Reidにより得られた、それらのcontractionはfiberが必ずしも等次元的でない、という観察に動機付けられている。ところがそれらのfiber構造に関しては、幾つかの散発的例を除いて組織的な分類は得られていなかった。そこで我々はその様な’jumping’fiber達の局所構造を完全に決定した。

定理1.([1])

 Xをsmooth射影的4次元多様体、f:X→Yをextremal rayのcontractionで、双有理的でないものとする。もしfがfiber EであってdimE>dim X-dim Yなるものを持てば(jumping fiber)、dim E=2、dim Y=3であり、以下の事柄が成立する;

 (1)E上の任意の2点はfのnearby fiber達のlimitで連結される、

 (2)f(E)の十分小さい解析的近傍V及びU:=f-1(V)に対し、|-KU|はbase pointを持たない、そして

 (3)解析的相対Picard数(U/V)は1又は2。

 更に、Eの完全な分類がある。-

 (B)代数多様体の退化の問題を考察するとsemi-stable極小modelの概念が自然に現れてくる。3次元では角田、Shokurov、川又がsemi-stable flipの存在を証明し、これを曲面の退化の理論に応用した。そこでこれを高次元に拡張することは極めて興味深い問題である。文献[2]に於いて我々はこの問題の4次元での類似を最も単純な場合に扱った。即ち、高々terminal singularityのみを持つ4次元代数多様体Xから1次元disc△への射影的全射f:X→△であって以下の様なsemi-stabilityの条件を満たす様なものを考える;

 (a)一般のfiber f-1(t)(t≠0)は高々terminal singularityのみを持つ3次元多様体、

 (b)central fiber f-1(0):=DiはSing Xの外でnormal crossingなreduced divisor。

 目標はflipping contraction g:X→Yでこのfをfactorするものを考察することである。文献[2]に於いて我々は、以下の条件を満たす場合にその様なcontractionのexceptional lociの周りでの構造を完全に決定した:

 (c)各Diはnormalな3次元多様体で高々terminal factorial singularityのみを持ち、それらは全てXのCartier divisorになっている。

定理2.([2])

 以上の状況で、flipping locus Exc gはP2達のdisjoint unionから成る。Eをその一つとすると、次の内何れか一つが成立する;

 (I)E⊂D1∩D2、D3∩E及びD4∩Eは(異なる)直線、Dk∩E=(k5)、

 (II)E⊂D1∩D2、D3∩Eはsmoothな2次曲線、Dk∩E=(k4)、又は

 (III)E⊂D1、D2∩Eは直線、Dk∩E=(k3).

 更にgのflipが存在する。-

 特に我々は上で(II)型のcontractionはsemi-stabilityの条件(b)を破壊することを見出した。この(やや悲観的な)結果は、4次元のsemi-stable極小model programがflip及びdivisorial contractionの操作に適合する様にsemi-stabilityの概念をmodifyすることなしには機能しないということを示している。これは将来的な問題であろう。

 (C)そこで我々は一般の場合に戻ってきた、即ちnon-semi-stableな4次元flipである。これは、全空間がfiberedでない為に、より以上に難しい、実際この方向では、1989年の川又によるsmoothの場合の特徴付けを除き決定的な進展は全く見られなかった。ところが最近我々はこの問題で十分に楽観的な結果を得た(文献[3]);

定理3.([3])(4次元Flip予想、complete intersection singularity case)

 g:X→Yを4次元多様体Xであって高々isolated(rational)complete intersection singularityのみを持つものからのflipping contractionとする。|-2KY|の一般のmemberは高々rational singularityのみを持つとする。このときgのflip g+が存在する。-

 更に我々はそれらのflipの詳細な幾何学的pictureを与えた。即ち我々はそれらがblow-upで連鎖された帰納的構造を持ち、M.Reidによるものの一般化であるwidthと呼ばれるinvariantにより完全に分類されるということを証明した。また、これはReidの’Pagoda’をanti-canonical divisor(及びそのproper transform)として自然に含んでいる。これらは我々の場合のflipのmechanismに完全な理解を与えている。

審査要旨

 論文提出者 可知靖之 は4次元代数多様体の収縮写像の研究をした。

 正規代数多様体XからYへの射fは次の条件を満たすとき収縮写像とよばれる:(1)Xはたかだか末端特異点のみを持つ、(2)fは射影的で連結なファイバーを持つ、(3)Xの標準因子Kはfに関して負になる、(4)fに関する相対的なピカール数はlである。収縮写像は代数多様体の分類理論、特に極小モデル理論において基本的な対象であり、これを研究することは重要である。

 論文提出者 可知靖之 これに関し次のような結果を得た。

 (I)Xが滑らかな4次元多様体でYが3次元の場合。もしも2次元のファイバーEがあれば次のことが成り立つ:(1)Eの任意の2点はその近くのファイバーの極限になるような曲線で結べる。(2)Eの十分小さな近傍では反標準線形系は大域的切断で生成される。(3)Eの近傍の複素解析的なピカール数は1または2になる。(4)これらのことを使ってEの完全な分類ができる。

 (II)Xが半安定な3次元多様体の1パラメーター退化族の全空間としての4次元多様体でfが小さな収縮写像であるとき。さらに、退化ファイバーの各既約成分が末端特異点のみを持つカルティエ因子になると仮定すると、fの例外集合が分類されそこからfのフリップの存在が導かれる。

 (III)Xが高々孤立した完全交差特異点のみを持ちfが小さな収縮写像であるとき。さらに、2重反標準線形系が有理特異点のみを持つようなメンバーを持つと仮定すると、fのフリップが存在する。

 論文提出者可知靖之はアメリカ、イギリス、イタリアの国際学会でこれらの結果を発表し国際的にも高く評価された。

 よって、論文提出者可知靖之 は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。

UTokyo Repositoryリンク