学位論文要旨



No 112908
著者(漢字) 佐藤,智史
著者(英字)
著者(カナ) サトウ,チフミ
標題(和) 量子SO(3)不変量としてのSeifert fibered有理ホモロジー球面のCasson-Walker不変量
標題(洋) Casson-Walker Invariant of Seifert Fibered Rational Homology Spheres as Quantum SO(3)-Invariant
報告番号 112908
報告番号 甲12908
学位授与日 1997.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第79号
研究科 数理科学研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 河野,俊丈
 東京大学 教授 松本,幸夫
 東京大学 教授 森田,茂之
 東京大学 教授 坪井,俊
 東京大学 教授 矢野,公一
内容要旨

 ReshetikhinとTuraevは、向きの付いた閉3次元多様体Mの,量子SU(2)不変量(M)を定義した。KirbyとMelvinは、この不変量が 3(M)との積に分解されることを示した。ここで、は3以上の素数であり、は量子SO(3)不変量と呼ばれている。Lickorish[3]はlinear skein theoryとTemperley-Lieb代数という概念を使って(M)を再定義した。

 Seifertによれば、向きづけ可能な底空間を持つ、向きづけ可能なSeifert3次元多様体は次のパラメーターのシステムよって記述できる。

 

 これらの記号の意味は本論文を参考にしてもらいたい。S2上のSeifert fibered有理ホモロジー球面を(Oo0|b;(1,1),…,(n,n))と表わす。HをH1(M;Z)の位数とし。1,…,nを2以上の互いに素である整数とすると、は次の関係式を満たす。

 

 ここで(E)=E/|E|である。EはSeifert fibrationの有理Euler数E=b+j/jである。

 我々は、Lickorishの定義に基づいて、S2上のSeifert fibered有理ホモロジー球面の量子SO(3)不変量の公式を与える。量子SO(3)不変量は3次元多様体のblackboard framringから得られる。Singular fiberのsurgery表現をblackboard framingの表記法に変える際に連分数展開を行ったため、定義より得られる公式のの個数は多くなっている。多数のを消すために、Gauss和やDedekind和などのいくつかの関係式を使った。pをある整数としたときに、はp≡1(mod )を満たす整数である。E=H(E)/(1n)=b+(j/j)、(E)=E/|E|、とする。s(j,j)はDedekind和である。また、である。Uの元u=(u3,u4,…,un)に対して、|u|をその成分の和u3+u4+…+unとする。

 定理1[8](Oo0|b;(1,1),…,(n,n))をS2上のSeifert fibered有理ホモロジー球面とする。の量子SO(3)不変量は以下のようになる。

 :

 ここで、HはH1(;Z)の位数、は奇素数、()はLegendre符号、である。

 他方、Cassonは、整数ホモロジー3次元球面のある不変量を提唱した。この不変量はCasson不変量と呼ばれている。Walkerは、Casson不変量の定義を、有理ホモロジー3次元球面にまで拡張した。この不変量はCasson-Walker不変量と呼ばれている。Seifert fibered整数ホモロジー球面のCasson不変量の公式は、福原氏、松本氏、坂本氏[1]とNeumann,Wahl[6]らによって与えられている。また、Lescop[2]はSeifet fibered有理ホモロジー球面のCasson-Walker不変量を計算した。村上斉氏[5]は、有理ホモロジー3次元球面Mと奇素数に対して、の整数係数多項式になることを示した。∈Z[q]は以下のように整数係数のq-1にベキ級数展開できる。

 

 ただし、

 

 が0であることに注意すると、0m-2のとき(mod)∈Z/Zは、より決まるから、したがってMの位相不変量となる。大槻氏[7]は、Mの位相不変量の列m(M),m=0,1,2,…が存在してmax(2m+2,H)より大きい任意の奇素数についてm(M)とを法にして合同であることを示した。{m(M)}はOhtsuki不変量と呼ばれている。また、村上斉氏[5]は以下のことを示した。

 

 ここで、CW(M)はCasson-Walker不変量である。この結果は、定理1より、MがSeifert fibered有理ホモロジー球面の場合にも成り立つ。また、計算の応用として、我々は2次のOhtsuki不変量の公式2()を求めた。

 定理 2 [8](Oo0|b;(1,1),…,(n,n))をS2上のSeifert fibered有理ホモロジー球面とする。の2次のOhtsuki不変量は以下のようになる。

 

 ここで、HはH1(;Z)の位数を表し、E=H(E)/(1n)=b+(j/j)、(E)=E/|E|である。XとYは次の関係式を満たす。

 

 s(,)はDedekind和である。

 公式は一見すると複雑な形をしているが、1次元ホモロジー群の位数、有理Euler数、特異ファイバーjとDedekind和の、これまで知られているいくつかの位相不変量の演算によって構成されている。LinとWang[4]は、整数ホモロジー3次元球面の2次のOhtsuki不変量2が3の整数倍に成ることを示した。我々も、定理2より、整数ホモロジー3次元球面であるいくつかのBrieskorn多様体((2,3,5),(2,3,7),(2,7,13),(2,11,17),(2,11,19),(2,11,21),(2,13,21),(2,15,29),(2,19,29),(2,19,37),(3,4,7),(3,5,13),(4,5,19),(4,7,9),(4,7,27))について2()∈3Zを確かめた。その際、コンピューターの数式演算処理ソフトであるMathematicaを利用して計算をおこなった。またLinとWang[4]は、整数ホモロジー3次元球面のm次のOhtsuki不変量mが6/m!の整数倍であることを予想した。我々も、mが1から10までのとき、いくつかのBrieskorn多様体((2,3,5),(2,3,7),(2,7,13),(2,11,17),(3,4,7))についてm()∈(6/m!)Zを導くことができた。

参考文献[1]S.Fukuhara,Y.Matsumoto,K.Sakamoto:Casson’s invariant of Seifert homology 3-spheres,Math.Ann.287(1990),275-285.[2]C.Lescop:Invariant de Casson-Walker des spheres d’homologie rationnelle fibrees de Seifert,C.R.Acad.Sci.Paris,t.310 Serie I(1990),727-730.[3]W.B.R.Lickorish:The skein method for three-manifold invariants,J.Knot Theory and Its Ramifications No.2,2(1993),171-194.[4]X.-S.Lin,Z.Wang:On Ohtsuki’s invariants of integral homology 3-spheres,I,preprint.[5]H.Murakami:Quantum SO(3)-invariants dominate the SU(2)-invariant of Csaaon and Walker,to appear in Math.Proc.Cam.Phil.Soc.[6]W.D.Neumann,J.Wahl:Casson invariant of links of singularities,Comment.Math.Helvetici 65(1990),58-78.[7]T.Ohtsuki:A polynomial invariant of rational homology 3-spheres,to appear in Invent.Math.[8]C.Sato:Casson-Walker invariant of Seifert fibered rational homology spheres as quantum SO(3)-invariant,to appear in J.Knot Theory and Its Ramifications.
審査要旨

 1988年にWittenにより、Chern-Simonsゲージ理論に基づく、3次元多様体の位相不変量が導入された。Mを有理ホモロジー3球面とするとき、SO(3)不変量Zk(M)は、=k+2が奇素数のとき、112908f13.gifに値をもち、そのq-1のべきについての展開の係数から、Mの位相不変量が得られることが、大槻知忠により知られている。これらの位相不変量はChern-Simons摂動理論との関連で活発に研究されている。特に、一次の項の係数は、1次元ホモロジーの要素の個数と、MのCasson-Walker不変量で表されることが、村上斉によって示されている。

 論文提出者は、Seifert fibered rational homology 3-sphereとよばれるクラスの3次元多様体について、大槻によって定義された高次の不変量を計算した。とくに、1次の不変量の計算から、上の3次元多様体のCasson-Walker不変量の公式が得られるが、これは、最近Lescopによって得られた結果の別証明を与えている。また、2次の不変量について、デデキント和などを用いて、具体的な式を得た。証明には、位相幾何学のみならず、初等数論の手法を用いている。さらに、このような方法を用いて、ある種のBrieskorn多様体について、上の不変量のdivisibilityに関するLin-Wangの予想を証明した。

 ここで得た、Witten不変量の数論的な展開から得られる一連の位相不変量は、技術的に計算が困難で、論文提出者の結果は、この方面での初めての組織的な計算といえる。結果は、この分野に多くの指針を与えるものであり、よって、論文提出者佐藤智史は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。

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