実rankが1より大きいRiemann対称空間の帯球関数が満たす不変微分方程式系の動径成分は、多変数の超幾何微分方程式の代表例と考えられる。それに含まれるパラメータは、ルートの重複度などのため、特殊値しか取らないが、A型の場合は関口(次郎)により、一般の場合はHeckman-Opdamにより、パラメータの連続化がなされて、Heckman-Opdamの超幾何微分方程式と呼ばれ、解に関する研究など現在研究が盛んである。 このうちでLaplace-Beltrami作用素に対応するものは の形をしており、Heckman-Opdamの微分作用素は、互いに可換であるので、Shorodinger作用素Hが完全積分可能であることを言っている。 一方、Calogero-Moser-Sutherland系に始まって、数理物理の立場から完全積分可能な量子系の研究が行われてきたが、完全積分可能なShoodinger作用素Hは、ルート系に付随して構成がなされてきた、という歴史がある。また、一般にV(x)は、楕円関数、あるいはそれが退化した三角関数や有理関数で表すことができると考えられてきた。 落合-大島-関口(英子)は、古典型Weyl群Wで不変な一般の完全積分可能量子系を研究し、以下の(C1)-(C2)を満たすShorodinger作用素Hをすべて分類して、V(x)をWeierstarssの楕円関数で具体的に表した。 Wはに自然に作用するAn-1,BnまたはDn型Weyl群とする。 (C1)互いに可換なn個の上のW-不変微分作用素P1,…,Pnが存在し、Hはそれらが生成する環に含まれる。 (C2)Pjの最高階の部分は定数係数で、それらは定数係数のW-不変微分作用素全体のなす環を生成する。Pjの係数は、原点を含むある連結複素開近傍のZariski開部分集合上に正則に拡張される。 さらに、各Pjが形式的自己共役という条件のもとで、HからP1,…,Pnの生成する環が本質的に一意に定まることを示し、各Pjの具体型を与えた。 これに対し、谷口健二は提出論文において、上で分類されたShorodinger作用素Hと可換な微分作用素の研究を行い、2つの重要な結果を得た。 定理1.Hのポテンシャル関数が、有理関数に退化していない、すなわち、非自明な周期関数で表されているとする。Hの定義域の連結開集合で定義されたHと可換な微分作用素Pは、An-1またはDn型のときn階以下、Bn型のとき2n階以下ならば、P1,…,Pnで生成する環に含まれる。 この定理の証明は、Pの最高階から2階下の項までを、具体的な積分を行って決定し、ポテンシャル関数の極における留数を調べることによって、最高階の部分がW-不変になることを示す、という方法でなされた。 「Hの積分は、P1,…,Pnで生成されるか」という問題に対し、階数については技術的な理由からの制限付きではあるが、肯定的な結論を得た。 一方、有理的なV(x)については事情が異なり、次が示されている。 定理2.WがAn-1型で、V(x)が有理関数、すなわち、 とする。k次対称式q0(x)に対しQj=(adH)jq0(x)(j=1,2,…)によって定まる微分作用素は、Hと可換になる。特にHと可換な2階以下の微分作用素は、このQの形で具体的に表せる。 この定理2によって、An-1型で自己共役性の仮定を落とした場合にも、(C1)-(C2)を満たすPjを決定することができ、n=3では新しいものが現れるが、n>3では分類されたものに限ることが示される。 Hの積分を、上記のQのような形で具体的に与えたことは、今までにない注目すべき結果であり、「積分が全てこのような形で書けるか?」ということや、「この結果のA型以外への拡張は正しいのかどうか?」など、今後の研究の発展の指針も与えている点でも高く評価できる。 よって、本論文提出者谷口健二は博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。 |