コンパクト連結有向3次元多様体MのなかのクラスパーC=A1∪A2∪BとはMのなかの2個のアニュラスA1,A2をMのなかのバンドBでつないで得られるものである。クラスパーCに2成分のフレームドリンクLC=L1∪L2をあるやりかたで対応させる。クラスパーCの手術とは対応するフレームドリンクLC=L1∪L2の手術のことである。このような物をクラスパーと呼ぶ理由はクラスパーの手術により、Mのなかの2個の「1次元的対象」をクラスプさせることができるからである。 Mのなかのタングルに対するデイスクツリークラスパーとは、と1度だけ横断的に交わる円盤 とと交わらない円盤 (D1,…,Dk+1,V1,…,Vk-1は交わらない)をバンドB1,…,B2k-1でつないだものである。ただし、Diをつなぐバンドはちょうど1個、Vjをつなぐバンドはちょうど3個で、和は連結でなければならない。 DiとVjをあるやりかたでおきかえることにより、デイスクツリークラスパーTにはクラスパーの和CTが対応する。Tの手術とはCTの手術のことである。デイスクツリークラスパーTの手術によってできる多様体MTはMと同相である。MTをMと同一視することにより、Tの手術はタングルからMのなかの新しいタングルTを得る操作と思うことができる。この操作はTの正則近傍Nのなかで行なわれるが、Tが円盤D2と同相であることから、Nは3次元球体B3と同相である。よって、この操作は「局所的である」といっても良い。重さがkのデイスクツリークラスパーで手術することにより、Mのなかのタングルから、Mのなかの別のタングルを得る局所的操作をCk操作とよぶ。 Ck操作と、境界を動かさないアンビエントアイソトピーで生成されるMのなかのタングルの同値関係をCk同値とよぶ。 SLink(m)(m1)をm-ストリングリンクの同値類のなすモノイドとする。SLink(m)をCk同値で割って得られる集合Sk(m)はモノイドの構造を持つが、実際には次もいえる。 定理 モノイドSk(m)は群である。 MのなかのフォレストF=(;T1,…,Tl)とは、次のようなデータのことである。 1.はMのなかのタングルである。 2.T1,…,TlはMに対するデイスクツリークラスパーで、TiとTjは交わらない(i≠j)。 Fのタイプとは整数列((T1),…,(Tl))((Ti)はTiの重さ)のことである。Fの重さとは(F)=(T1)+…+(Tl)のことである。フォレストF=(;T1,…,Tl)に対してZTang(M)(Tang(M)はMのなかのタングルの同値類の集合)の元e(F)を と定義する。ただし、Sは{T1,…,Tl}の部分集合全体を走り、#SはSの元の個数を表し、[∪S]はを∪Sで手術して得られるタングルの同値類を表す。 ZTang(M)の部分加群J(k1,…,kl)(M)はタイプ(k1,…,kl)のフォレストに対するe(F)の全体で生成されるものとする。 (1はk個)とおく。このJk(M)は通常のシンギュラータングルによるヴァシリエフスケイン加群の定義において、k個の二重点を持つもので生成されるZTang(M)の部分加群と一致する。我々の定義するJ(k1,…,kl)(M)はJk(M)の一般化とみなすことができる。 この論文の目的は次の定理を証明することである。 主定理 k1とする。,’を2個の1-ストリングリンクとするとき、次の2つの条件は同値である。 1.と’はCk同値である。 2.[]-[’]∈Jk([0,1]3)。 上の2.は、任意のアーベル群に値を持つ任意のヴァシリエフ不変量で次数がk-1以下であるようなものに対して、と’が同じ値を持つということと同値である。また、1-ストリングリンクの同値類とS3のなかの結び目のアンビエントアイソトピー類との間には標準的な1対1対応があることに注意する。上の定理は、ヴァシリエフ不変量がもつ情報の1つの幾何的な特徴付けを与えているとみなすことができる。 |