学位論文要旨



No 112912
著者(漢字) 松浦,篤司
著者(英字)
著者(カナ) マツウラ,アツシ
標題(和) エタールホモトピー群に対するレフシェッツ超平面切断定理
標題(洋) The Lefschetz hyperplane section theorem for etale homotopy groups
報告番号 112912
報告番号 甲12912
学位授与日 1997.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第83号
研究科 数理科学研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 織田,孝幸
 東京大学 教授 坪井,俊
 東京大学 教授 桂,利行
 東京大学 助教授 斎藤,毅
 東京大学 助教授 寺杣,友秀
 東京大学 助教授 斎藤,秀司
内容要旨

 複素数体上のn次元射影空間をPとする。XをPの連結で非特異な閉部分代数多様体とするとき、古典的なレフシェッツ超平面切断定理は次のように述べることができる:

 定理(1)Xの特異点をすべて含む超平面H及びi<nなる整数iに対し、相対ホモロジー群は

 

 となる。

 (2)さらに相対ホモトピー群についても、i<nなるiに対して

 

 となる。

 M.Raynaudはエタールコホモロジーに対する類似の結果を証明しており、これはエタール位相に関して上記定理の(1)に相当する。本論文では、高次エタールホモトピー群に対して、(2)に対応する結果を証明する。

 証明のアイデアは、ホモトピー群に関する結果をコホモロジー群の定理に帰着させることである。すなわち、一種のWhiteheadの定理を示すことが主眼となる。

 古典的なWhiteheadの定理では、位相空間の連続写像がホモトピー群の同型を導くとき、ホモロジー群の同型をも導くことを主張している。ところが、逆にホモロジー群の同型からホモトピー群の同型を結論付けるためには一般にそれらの位相空間が単連結であるという仮定が必要となる。

 そこで、まずWhiteheadの定理を単連結でない場合に拡張し、さらにその拡張された結果を副対象の圏に拡張する。これは、エタールホモトピー群は1つの群ではなく、群の副対象となっているからである。

 我々の必要とするWhiteheadの定理の一般化は次のとおりである。Cを群のセール類とするとき^で副C-完備化を表わすと、

 主定理1 n2とする。f:X→Yを基点つき副CW複体X,Yの間の連続写像とするとき、次の3つは同値である。

 (1)i<nなる任意のiにたいして

 

 であり、

 

 は全射。

 (2)^であり、任意の係数加群M∈Cに対して

 

 はq<nのとき同型で、q=nのとき単射。

 (3)^で、対応するC-被覆(すなわち、1(X)および1(Y)への逆像に対応するXとYの被覆)の射

 

 および任意の係数加群A∈C(但し、基本群の作用は自明とする)に対して、

 

 はq<nのとき同型で、q=nのとき単射。

 この定理を用いることにより、エタールホモトピー群の場合のレフシェッツの定理はエタールコホモロジーの場合に帰着できる。

 本論文の主結果は次のとおりである。

 主定理2kを代数閉体とし、k上のn次元射影空間をPnで表す。Xをd次元の連結な非特異閉部分代数多様体とする。Xの特異点をすべて含む超平面Hにたいし、Y=X∩Hとおく。d3のとき、包含写像により誘導される準同型

 

 はi<d-1のとき同型でi=d-1のとき全射になる。

 なお、kの標数を含まない素数の集合Lに対し、,はそれぞれXとYのエタールホモトピー型の副L完備化を表す。及びはこれらのホモトピー型の高次元副ホモトピー群である。

審査要旨 論文の内容の概略:

 複素数体上のd次元射影代数多様体Xが与えられ、その超平面による切断Yを考える。このとき、古典的なレフシェツの定理は、対(X、Y)の相対ホモロジー群と相対ホモトピー群がいずれも、次数がdに満たない部分で消滅することを主張する。

 表題の論文は、この結果を任意代数閉体上の射影代数多様体のエタール副ホモトピー群に拡張することを主結果として証明する。

 著者はまず、代数多様体のエタール・ホモトピー型に関する最初の研究であるM.ArtinとB.Mazurの仕事を見直し、彼らが副ホモトピー圏に対して証明した、ホワイトヘッドの定理を、おそらくは、最善の形にしてより強化した結果として証明する。これにより、エタール・ホモトピー群に関する結果を証明することは、エタール・コホモロジー群に関する主張を証明することに帰着される。

 このホワイトヘッドの定理の拡張の証明は、障害類の理論を主として用いるものであり、Artin-Mazurの元の証明に沿っているが、ホワイトヘッド定理を強化した点に著者の工夫が見られる。

 さて、第2段階で、著者はM.Raynaudのエタール・コホモロジーに関するレフシェツ型定理に関する結果を利用し、上記の結果と併せて次を得る。

 主定理:Xを代数的閉体k上のd次元射影空間、YをXの一般の超平面による切断とする。Lをkの標数pを含まない素数の集合とし、(X)etと(Y)etをそれぞれのエタール・ホモトピー型の副L完備化する。このとき埋入i:Y->Xから誘導される次数kの副ホモトピー群の間の準同型は、kがd-1未満のとき同型で、k=d-1のとき全射である。ただしdは3以上とする。

審査会の意見:

 上記の論文はホワイトヘッドの定理の類似を最適に改良し、さらにそれを代数多様体の副ホモトピー群に対するレフシェツ超平面型の定理の導出に応用して、2つの主結果を得ている。著者によって得られたこの二つの結果はいずれも新しいもので、現在取り組む人が少ないこの分野での貴重な進展と思う。

 よって、論文提出者松浦篤司は、博士(数理科学)の学位を受けるのにふさわしい充分な資格があると認める。

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