論文提出者松下大介は同時特異点解消の研究をした。 複素曲面のデュヴァル特異点の変形は次のような同時特異点解消を持つことか知られている:デュヴァル特異点の変形族が与えられると、底空間の適当な分岐被覆が存在し、もとの変形族を底変換した族の適当な特異点解消が各ファイバーの極小特異点解消を与えるようにできる。この事実を使ってイギリスのウオーリック大学のマイルス・リード氏は3次元の標準モデルが極小モデルを持つことを示した。これは3次元極小モデル理論の初期の重要な結果である。また3次元のフロップの存在を示すのにも使われた。 デュヴァル特異点とは2次元のゴレンシュタイン有理特異点のことであるので、論文提出者松下大介はこれを高次元に拡張することを試み、3次元のゴレンシュタイン有理特異点の変形の同時特異点解消の可能性を研究した。この研究は4次元の極小モデル理論を構築するために重要であると思われる。 彼はまず同時特異点解消を高次元化して同時末端特異点化という概念を定義した。そして3次元のゴレンシュタイン・トーリック特異点の変形を考察し次のような結果を得た。これらの特異点は均質トーリック変形というトーリック幾何を使って記述できる変形をもち、これの全空間の極小モデルをとることによって同時末端特異点化の有無を判定できる。特に、同時末端特異点化ができない例を構成した。さらに応用として向井のフロップの一般化もえた。 よって、論文提出者松下大介は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。 |