学位論文要旨



No 112913
著者(漢字) 松下,大介
著者(英字)
著者(カナ) マツシタ,ダイスケ
標題(和) トーリック特異点の同時特異点解消
標題(洋) Simultaneous minimal model of homogeneous toric deformation
報告番号 112913
報告番号 甲12913
学位授与日 1997.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第84号
研究科 数理科学研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 川又,雄二郎
 東京大学 教授 堀川,穎二
 東京大学 教授 桂,利行
 東京大学 助教授 寺杣,友秀
 東京大学 助教授 小木曽,啓示
内容要旨

 本論文では同時特異点解消の問題について考えた。f:X→Sを平坦写像としたとき、双有理写像:Y→Xでfo:Y→Sが平坦写像であり、かつのfoの全てのファイバーがfのファイバーの極小特異点特異であるようなものを構成出来る場合fは同時特異点解消出来るというが、fのファイバーが高々Du Val特異点のみを持つとき、適当な有限被覆S’→Sに対して基底変換をしたf’:X×sS’→Sが同時特異点解消出来ることは3次元極小モデルプログラムの種々の基本的な定理の証明の鍵となった事実である。そこでこの問題の高次元化を考えることは自然であり、3次元極小モデル理論からすると、対応する問題としては、f:X→Sを平坦写像とし、各ファイバーは高々標準特異点を持つものに対して、適当な有限被覆S’→Sで基底変換をしたものf’:X×sS’→S’に対して双有理写像:Y→X×sS’が存在してf’oのファイバーはf’のファイバーの極小モデル、つまり末端特異点のみもち、ファイバーの標準因子はで潰される曲線と正の交点数をもつようなものが構成可能か、というものが考えられる。このような双有理写像及び、有限被覆S’→Sが存在するときfは同時terminalization可能と呼ぶことにする。最近、K.Altamnnによってhomogeneous toric deformationと呼ばれるtoric多様体の間の平坦写像f:X→Sが構成されたが、この平坦写像は多くのtoric多様体を中心ファイバーに持つ平坦写像を記述することが出来、特に孤立Gorenstein toric特異点のversal deformation spaceを記述することが出来る。そこで、このhomogeneous toric deformation f:X→Sについて同時terminalizationが可能かどうか考えた。このhomogeneous toric deformationはtoric多様体の完全交叉とその射影として捉えることが出来、有限被覆S’→Sに対して基底変換をとったものX×sS’もtoric多様体の完全交叉及びその射影として記述出来る。そこで囲蕘空間であるtoric多様体の極小モデルを取ることによってファイバーの特異点がどこまで解消可能か調べ、3つの結果を得た。まず平坦写像f:X→Sでファイバーが高々標準特異点しかもたないもので、どのような基底変換を行っても同時terminalizationは不可能な例をファイバーの次元が3以上の場合に構成した。さらに同時terminalization可能な十分条件を与えた。また、囲蕘空間の極小モデルは一意ではなく、それらはflopと呼ばれる双有理変換で結ばれるが、これらの極小モデル達を適当な超曲面で切ることによって、4次元のflopで向井変換の一般化と見なせる例を構成することが出来た。

審査要旨

 論文提出者松下大介は同時特異点解消の研究をした。

 複素曲面のデュヴァル特異点の変形は次のような同時特異点解消を持つことか知られている:デュヴァル特異点の変形族が与えられると、底空間の適当な分岐被覆が存在し、もとの変形族を底変換した族の適当な特異点解消が各ファイバーの極小特異点解消を与えるようにできる。この事実を使ってイギリスのウオーリック大学のマイルス・リード氏は3次元の標準モデルが極小モデルを持つことを示した。これは3次元極小モデル理論の初期の重要な結果である。また3次元のフロップの存在を示すのにも使われた。

 デュヴァル特異点とは2次元のゴレンシュタイン有理特異点のことであるので、論文提出者松下大介はこれを高次元に拡張することを試み、3次元のゴレンシュタイン有理特異点の変形の同時特異点解消の可能性を研究した。この研究は4次元の極小モデル理論を構築するために重要であると思われる。

 彼はまず同時特異点解消を高次元化して同時末端特異点化という概念を定義した。そして3次元のゴレンシュタイン・トーリック特異点の変形を考察し次のような結果を得た。これらの特異点は均質トーリック変形というトーリック幾何を使って記述できる変形をもち、これの全空間の極小モデルをとることによって同時末端特異点化の有無を判定できる。特に、同時末端特異点化ができない例を構成した。さらに応用として向井のフロップの一般化もえた。

 よって、論文提出者松下大介は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。

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