第1章 研究背景および目的 現在、省エネルギー、環境保全の面からセラミックスガスタービンやセラミックスエンジン等の技術が開発されている。SiCは代表的な非酸化物セラミックスであり、新しい高温、高強度構造用セラミックス材料として注目を浴びている。しかしながら、実用化する際の最大の障害は共有結合物質特有の難焼結性にある。一般にセラミックス粉体の焼結性は一次粒子径が低下するほど上昇するから、SiCの焼結性を高めるためには、高純度で粒径の小さな球状の微粒子を用意する必要がある。従来行われている構造用セラミックスSiCの合成方法は、アチソン(Acheson)法等の固相反応によるものが主流であるが、この方法では高純度で単分散に近い球形粒子を得ることは難しい。これに対して高純度で粒形の揃った結晶性の良い粒子を合成するのに最も適しているのはCVD法である。しかし、CVD法の原料ガスであるシラン系ガス等は非常に高価で、しかも安全性に多くの問題がある。そこで、本研究ではこれらに比べ、安価で安全なSi源であるSi,SiO2を用い、工業的に実用化が容易であるCH4/O2高温火炎によるSiCの合成プロセスを提案し、そのための基礎研究として、Si,SiO,SiO2(SiOx(x=0,1,2))の三種類のSi系粒子を用いたSiC超微粒子の合成に関する検討を行うことを目的とする。 本論文は以下のように三つの部分によって構成されている。 PART ISi系粒子を用いたSiC超微粒子の合成の可能性第2章火炎法によるSiO2粒子の超微粒子化 実験装置は原料供給部および反応部によって構成される。SiO2粒子は流動層を用いて連続供給された。燃料であるCH4はバーナーを通して直接導入された。バーナーは、酸素予熱するために約1600Kに加熱した電気炉へセットされた。着火後、酸素流量を変えることによって2500Kの高温火炎が実現できた。生成した粒子は真空ポンプの吸引によって上部のフィルターで捕集された。 火炎中における粒子の蒸発可能性を確認するためにTEMを用いて分析を行った。その結果、粒径が50〜100mのSiO2粒子を導入した場合、平均粒径数十nmの球形超微粒子が捕集された。このことから、燃焼火炎中へSiO2粒子を導入することにより粒子が気化して超微粒子化することが確認された。 第3章Si系粒子を用いたSiC超微粒子の合成 まず、SiOx(x=0,1,2)/CH4反応系に対してComputer programを用いて熱力学平衡計算を行った。その結果,本実験系の高温域である2000K付近においてこれらの化学種から-SiCが生成する可能性が示唆された。 次に、LaCrO3発熱体を用いて高温(2073K)電気炉装置を作製した。Si系粒子を用い、電気炉の中でそれぞれCH4と反応させ、SiC超微粒子の合成を試みた。さらに、H2を反応系に添加し、その添加効果について実験的検討を行った。その結果、捕集されたサンプルのXRDパターンより、Si種のピークとしてSi(JCPDS:No.27-1402)およびSiC(JCPDS:No.29-1129)のみ検出できた。SiCの平均結晶子径はScherrer式より、SiOx(x=0,1,2)原料粒子に対してそれぞれ18.3,27.4,28.9nmであることが求められた。本実験系において、Si系粒子とCH4がAr雰囲気中で反応したことにより、粒径がほぼ均一なSiC超微粒子が合成可能であることが確認できた。また、H2の添加効果を考察したところ、SiO/CH4/H2反応系よりSiCの選択率が95±5%に達した。H2の添加効果としてCH4のすすへの熱分解を抑制し、合成反応に関与するC系化学種CxHyの濃度を増加させる役割をを果たしたことが考えられる。 PART IISiC超微粒子の生成メカニズム第4章SiOx(x=0,1,2)/C2H2系よりSiC超微粒子の合成 合成反応メカニズムを解明するために、C2H2を直接反応場に導入した。まず、SiOx(x=0,1,2)/C2H2反応系に対してComputer programを用いて熱力学平衡計算を行った。その結果、本実験系の高温域である2000K付近においてこれらの化学種から-SiCが生成する可能性が示唆された。 次に、Si系粒子を用い、高温電気炉の中でそれぞれC2H2と反応させ、SiC超微粒子の合成を試みた。さらに、C2H2供給時間を変えることによってC2H2/SiOxモル比の依存性を実験的に検討した。その結果、フィルターによって捕集されサンプルのXRDパターンより、Si種のピークとしてSiおよびSiCのみ検出できた。SiCの平均結晶子径はScherrer式より、SiOx(x=0,1,2)原料粒子に対してそれぞれ25〜32,26〜33,28〜35nmであることが求められた。本実験系においてSiOx/C2H2反応系により、粒径がほぼ均一なSiC超微粒子が合成可能であることが確認できた。特に、C2H2/SiOxモル比の依存性を考察したところ、SiO/C2H2系からSiCの選択率がSi/C2H2系およびSiO2/C2H2系より大きい傾向を示した。このことから、SiOはSiCの合成反応に対して他のSi系化学種と比べて重要な役割を果たしていると考えられる。 第5章SiC超微粒子の合成メカニズムについての考察 まず、2000Kの温度の場合でCH4,C2H2およびCH4/H2系の熱分解に対してComputer programを用い、速度論的計算を行った。その結果、すすの生成を考慮しない場合、三つの系とも滞留時間0.001s後、他の化学種と比べてC2H2の濃度が最大となっていることがわかった。LaCrO3発熱体を用いて大型高温電気炉装置を作製し、CH4,C2H2およびCH4/H2の熱分解実験を行った。その結果、C2H2,CH4/H2の熱分解により得られたC2H2の濃度は、CH4の場合よりそれぞれ1.5、3.0倍であった。上記第3章において、H2のSiO/CH4反応系への添加によりSiCの選択率が大きくなったことを合わせて考慮すると、SiC合成反応に関与しているC系化学種CxHyはC2H2が有力あると考えられる。 次に、大型高温電気炉装置を用いてSiOx(x=0,1,2)粒子を蒸発させ、得られた超微粒子に対して1500℃、2時間、完全不活性雰囲気で結晶化実験を行った。さらに、SiOx/C2H2反応系より得られたSiC超微粒子に対してHF洗浄処理のICP分析法およびXRD検量線法による定量分析も行った。これらの実験結果によりSiC合成実験ではSi系,SiO系の場合、Si,SiCが主生成物であり、SiO2系の場合、Si,SiCの他にSiO2が含まれる可能性があると考えられる。 以上の計算および実験結果より、本実験系でSiC超微粒子の生成メカニズムについての考察を行った。 PART III火炎合成法へのアプローチ第6章SiCの生成速度について 大型高温電気炉装置を用いてSi/C2H2系およびSiO/C2H2系に対する滞留時間および温度の影響をそれぞれ調べた。 まず、2000Kの高温場において滞留時間がそれぞれ0.117s,0.351sおよび0.585sの時にSiCの合成反応をさせ、生成したSiCの選択率の滞留時間依存性を測定した。次に、滞留時間に対応する反応温度がそれぞれ1893K,1973Kおよび2023Kの時にSiCの合成反応をさせ、生成したSiCの選択率の滞留時間依存性を測定した。実験結果より、SiC合成反応のSiC選択率は滞留時間および温度に対して正の依存性を示した。さらに、これらの実験結果に基づいてSiCの生成速度をまとめた。その結果、Si/C2H2系の場合に、活性化エネルギー(E)=67.77kJ/mol,SiO/C2H2系の場合に、E=59.62kJ/molであることが分かった。 第7章SiCプロセスへのアプローチ まず、大型高温電気炉装置を用いて気相同伴連続供給によるSiC合成実験を行った。実験方法として小型流動層を用いてSiO粒子を反応管高温部に連続供給した。その結果、SiO/C2H2系およびSiO/C2H2/H2系でのSiC超微粒子の合成が実現した。SiO粒子が2000Kの高温場において約0.6sの滞留時間で蒸発し、さらにC2H2との反応が生じてSiC微粒子が生成すると考えられる。 次に、CH4/O2高温火炎中でSiC合成反応に影響があると推測される化学種であるCO,CO2およびH2Oの影響を考察した。Computer programを用いて熱力学平衡計算を行った。その結果、本実験系の2000K温度付近において-SiCの生成に影響があることが示唆された。さらに、CO,CO2およびH2Oの添加効果を本実験系でそれぞれ調べた。それらの実験結果により、CO,CO2およびH2OのSiC選択率に対する影響はSiO反応系の他にSi、SiO2にマイナスであることが示唆された。 第8章総括 終章において、以下のように本研究の総括的な結論を示しており、ならびに高温火炎によるSiC超微粒子の合成法について速度論および化学種の影響の観点から展望を言及している。(1)Si系粒子を用いてSiC超微粒子の合成に関する検討を行った結果、SiOx/CH4系およびSiOx/C2H2系でSiC超微粒子を合成できた。(2)複数の因子に対するSiC選択率の依存性を調べ、計算の結果とあわせてSiC生成機構についての考察を行った。(3)原料粒子の気相同伴連続供給および火炎の中で共存ガスの影響評価の実験より、実用的な火炎法でのSiO粒子からのSiC合成の可能性を示した。(4)生成速度および火炎法へのアプローチより、火炎法によるSiC超微粒子の合成プロセスが有望であることがわかった。 |