近年、病院における介護職員の導入が進行している。本研究は1994年1月現在に承認されていた全国635ヶ所の老人病棟入院医療管理料病院の看護管理者を対象に、1994年10月から95年2月にかけて介護職員の人事・労務管理に関する質問紙調査を実施し、339ヶ所の病院から得られた回答にもとづき、介護職員の人事・労務管理の現状を明らかにし、採用・雇用、業務、教育・研修および退職の各状況について、重回帰分析またはロジスティック回帰分析を用いて関連要因の探索的分析をおこなった。その結果、以下のような知見と示唆を得た。 1:介護職員については、対象病院全体で計20種類以上もの多様な名称や呼称が用いられており、その資格、経歴、属性も多様であった。介護職員の資格・経歴・属性別に雇用有無を把握し、これに関連する要因を分析した結果、次の5点が明らかになった。 1)病床規模の大きい病院ほど、より多様な資格・経歴・属性の職員を雇用している傾向にあったが、院内化した家政婦、介護アテンドサービス士およびホームヘルパーの雇用有無のみは病床規模の大きさとは関連が見られなかった。 2)高い入管類別を採っている病院ほど、病院看護補助経験者や付添い家政婦経験者を雇用している病院が多く、高い入管類別を採用するためには、こうした従来からの病院業務経験者が活用されていることが示唆された。 3)男性職員の雇用状況については、市・区部に所在する病院や現在一般病棟とのケア・ミックス体制を採っている病院ほど、雇用している病院の割合が少なかった。 4)保母、介護アテンドサービス士、ホームヘルパーおよび男性職員については、労働条件面で何らかの好条件を備えた病院に雇用される傾向が見られたが、逆に日系外国人については、労働時間の長い病院で雇用される傾向が見られた。 5)介護福祉士や保母については、看護職員との協働関係が確立している病院や、介護職員の業務体制の自立性が高い病院ほど、これらを雇用している病院の割合が高かった。 2:介護職員の採用状況は、予定どおりまたはそれ以上の人数を採用できていると回答た病院が9割近かったが、採用状況は「予定どおり(以上)」であると回答しつつも、一方では「採用は(やや)困難である」と回答した看護管理者が約2割おり、採用者数の充足と採用の困難感は必ずしも一致しなかった。そこで、この採用困難感に関わる要因を分析した結果、次の3点が明らかになった。 1)入院医療管理料の類別が低い病院ほど、看護管理者が採用の困難さを訴える率は高くなる傾向があり、現在の採用予定の充足度はそれぞれの入管類別における相対的なものにすぎず、主観的な充足感とは一致しないことが示唆された。 2)郡・町村部に所在する病院ほど、看護管理者が採用困難感を訴える率が高く、採用の困難感には地域差が存在した。 3)介護職員の平均年齢が高い病院においては、看護管理者が採用困難感を訴える率が高く、他方、介護職員に占める男性職員の比率が高い病院や介護アテンドサービス士・ホームヘルパーの比率が高い病院では採用困難感は低い傾向が見られた。すなわち、介護職員の年齢や資格等の人材の質が、採用困難感に関わることが示唆された。 3:今後、病院側がどのような人材の採用を希望しているかを、資格・経歴・属性別に見ると、介護福祉士の採用を希望する病院が約7割と最も多く、付添い家政婦経験者や日系外国人の採用を希望する病院は1割以下と低い。各種人材の採用希望に関わる要因を分析した結果、次の5点が明らかになった。 1)介護福祉士、保母、看護補助経験者、福祉施設経験者、男性、日系外国人、介護アテンドサービス士やホームヘルパーについては、現在これらの人材を雇用している病院ほど今後もその採用を希望する病院の割合が高くなっており、雇用の経験がプラスの評価を生んでいることが示唆された。 2)同じ有資格者であっても介護福祉士と保母とでは、今後の採用を希望する病院の傾向が一致しなかった。 3)日系外国人や家政婦経験者の採用を希望する病院は全体的に少なかったが、労働時間の長い病院ほど日系外国人の採用を希望し、夜勤回数の多い病院ほど家政婦経験者の採用を希望する病院が多くなる傾向が見られた。 4)男性職員の採用を今後希望する病院は、現在雇用の少ない市・区部ほど多くなっており、今後、男性職員の雇用はいっそう拡大することが予想された。 5)介護福祉士については介護職員と看護職員との協働関係が確立している病院ほど、日系外国人については直接ケアを看護職員が中心になって分担している病院ほど、また、主婦の再就業希望者については診療補助業務の少ない病院ほど、それぞれ採用を希望する病院の割合が高かった。こうしたことから、今後、病院側は各々における介護職員業務の状況や内容に応じて、各種の人材を選択していくことが予想された。 4:介護職員業務の実施状況を内容別に見ると、直接ケア業務やレクリエーション業務の各項目は、ほとんどの病院で介護職員の中心的業務となっていた。診療補助業務の介護職員による分担程度は低いが、何らかの関与のある病院がほとんどの項目で1割以上あった。周辺業務については、従来看護補助者業務とされてきたメッセンジャーや物品管理などの間接的業務を介護職員に行わせている病院は4割以下と少なく、患者ケアに関わる周辺業務を行わせている病院の方が7割以上と多い。こうした介護職員業務の実施状況に関連する要因を分析した結果、次の5点が明らかになった。 1)入管承認前に基準看護病棟を有していた病院では、介護職員業務における周辺業務の数は多いが、診療補助業務への関与は少なく、直接ケア業務も看護職員が中心となって担う傾向が見られた。しかし逆に、一般病棟とのケア・ミックス体制を採っている病院では、介護職員が関与する診療補助業務の種類は多く、直接ケア業務も介護職員がより中心となって担う傾向が見られた。また、診療補助業務については、入管承認からまもない病院であるほど、介護職員が関与する機会が増す傾向が認められた。 2)看護要員に占める介護職員の比率が高くなるほど、直接ケア業務とレクリエーション業務を介護職員が分担する程度や診療補助業務実施項目数が増加する傾向が認められた。 3)労働条件については、夜勤回数が多い病院や有給休暇取得率の低い病院ほど、介護職員が関与する診療補助業務の種類が増す傾向が見られ、夜勤に従事する機会が増すほど、診療補助業務に関与する機会も増すことが示唆された。 4)介護福祉士と保母とでは、同じ有資格者であっても各々の職員内比率と関連の見られた業務内容に相違があり、双方への病院側の役割期待が異なることがうかがえた。また、男性職員の職員内比率の高い病院ほど、介護職員が関与する診療補助業務項目数が増し、レクリエーション業務の分担度も増していた。 5)介護業務における看護職員との協働の程度や介護業務体制の自立性の程度は、いずれの業務実態とも関連が認められなかった。 5:介護職員の教育・研修の実施状況を見ると、新人オリエンテーションと在職者研修を実施している病院は8割以上あったが、研修の年間計画を作成している病院は約6割、病棟配属前に実習を実施している病院は約4割であった。また、在職者研修における基本12項目の平均実施項目数は6項目であった。これらの各研修実施状況に関連する要因を分析した結果、次の5点が明らかになった。 1)一般病棟とのケア・ミックス体制を採る病院においては、新人オリエンテーションや病棟配属前の実習・講義、在職者研修のいずれの実施率も高く、また、在職者研修の内容にも基本的項目がより多く含まれていた。また、病院の病床規模がより大きいほど、新人オリエンテーションや在職者研修の実施率や研修の年間計画作成率が高かったが、病院病床数と基本的研修項目実施数の間には関連が見られなかった。 2)新人職員の病棟配属前実習・講義を実施している病院は全体の4割に満たなかったが、これらについては、入管承認からの経過期間が長い病院ほど実施率が高かった。 3)介護職員の平均年齢が低い病院ほど、新人オリエンテーションや病棟配属前の実習・講義、在職者研修および研修の年間計画作成のいずれも実施率が高かった。若い職員を抱える病院ほど研修を充実させている傾向にあったが、このことは逆に、中高年の職員の多い病院では、職員個人の経歴や経験に依拠して、研修を保障しない傾向にあるのではないかと懸念される結果であった。 4)介護職員の業務体制における自立性が高い病院ほど、新人オリエンテーションや院外研修派遣の実施率が高く、研修内容にも基本的項目が多く含まれていた。各領域の業務項目の実施有無と研修項目の実施有無をクロスした結果では、業務内容に対応した内容の研修を実施している病院の割合は全体的に低かった。 5)調査結果では、ほとんどの病院が今後、院外研修の利用を希望していると回答したが、中でも、介護職員の平均年齢の低い病院や、看護管理者が職員の多忙さや研修を担当できる人材不足に悩みを感じている看護管理者ほど、院内研修のみでは限界があり、今後は院外での教育システムを整備すべきだと考える者が多かった。 6:介護職員の職場定着状況を退職率で見ると、新規採用者の1年以内の退職率は約19%、在職者の年間退職率は約14%であるが、新規採用者の退職については「退職なし」の病院も36.6%あり病院ごとの差が大きい。新規採用者の退職発生有無と、在職者退職率および全介護職員の年間退職率に関連する要因を各々分析した結果、次の3点が明らかになった。 1)看護要員に占める介護職員比率が高いほど、3種類の退職状況のいずれもが高くなる傾向が見られ、職場内の介護職員集団が相対的に大きくなるほど、介護職員間での業務や人間関係上の調整が難しく、退職発生の一要因になるものと考えられた。 2)新規採用者の1年以内の退職の発生は、看護要員に占める介護職員比率の高い病院、夜勤回数の多い病院、介護職員に任される周辺業務項目数が多い病院、および直接ケア業務を介護職員が中心となって担っている病院ほど多くなる傾向が見られた。これらから、労働条件はもとより、介護職員業務の内容やその分担のありかたもまた、新規採用者の定着に影響することが確認された。 3)在職者退職率や年間の全介護職員退職率については、市・区部に所在する病院、介護職員比率の高い病院、介護職員の業務体制における自立性の低い病院、および病床規模の小さい病院ほどこれらが高くなる傾向が認められた。中でも業務体制との関連からは、業務における介護職員の自立性を保障することが、かれらの職場定着を促進する上でも重要な条件であることが示唆された。 |