内容要旨 | | 過去の地震被害によれば,建築物が非常に近接していると地震時に衝突し損傷が生じたり,ときにはそのために倒壊した例が報告されている.橋梁においても橋桁がアバットメントや隣接桁に衝突することは当然あり得,事実1995年兵庫県南部地震の高架橋の被害の中には,桁どうしの衝突のために落橋したと思われる例がある.この地震以後わが国においても免震支承やゴム支承の使用が桁橋では一般的となっており,強震時に桁が衝突する可能性は高まっている.しかし,これまで橋桁の地震時衝突を扱った研究は非常に単純化されたモデルを用いた検討が1,2あるのみで極めて少なく,体系的な研究がほとんどなされてこなかった. そこで本研究では免震支承を有する連続高架橋の地震時衝突の性状を数値シュミレーションにより明らかにするとともに,衝突による影響を低減する手法について検討を加える. まずはじめに,簡略化された高架橋モデルならびに詳細モデルを用いて,衝突が及ぼす影響を調べている.入力地震動としては,地震波の伝搬による位相ずれを考慮したもの,一地点での波形をベースとした確率地震動を解析に用いている.後者の確率地震動については高架橋のような線状構造物を対照的に,相関関数が周波数に依存しないという仮定のものに提案したシンプルなシュミレーション手法によるものを用いている. 桁の地震時衝突を様々なケースについて行い,桁間の遊間の大きさにより,衝突力,橋脚の地震力負担が大きく変わることを明らかにしている.また,衝突力をより正確に評価するためには免震支承のモデルも重要であることを指摘している. また,桁の衝突力,橋脚の負担を減らすには,遊間を非常に大きくとり,衝突そのものが起こらないようにする解だけではなく,遊間を小さくして衝突力が大きくならないようにすることも解になりうることを明らかにした.なお,桁の衝突力は地震動の影響を当然受けてばらつくが,その量を遊間,地震動強度,構造特性のパラメータで表す回帰式を,数多くのシミュレーションと工学的判断のもとに導いている. 桁の遊間を大きくし衝突を防ぐことは伸縮装置の大型化を意味し,費用ならびに維持管理の上から問題が多い.桁間を小さくした上で,桁間にダンパー,ばね,衝撃吸収材(crushable element)を挿入する案を検討している.しかし,衝突力ならびに橋脚の地震力の負担を軽減するためには,非常に大きな減衰定数,ばね定数が必要であることを示した. この知見をベースに,STU(ショック伝達ユニット)を桁間に挿入することを提案している.速度の速い運動に対しては剛に近く振る舞い,ゆっくりとした動き(温度変化による伸び縮み)に対しては抵抗しないSTUの効果が衝撃力の低減に極めて大きいことをシュミレーションにより明らかにした. また,STUの動的繰り返し荷重下での応答特性について実験を行い,特性,とくに速度依存性を明かにし,その有効性を確認した. |
審査要旨 | | 1995年兵庫県南部地震においては,数多くの高架道路橋に極めて甚大な被害が生じた.その多くは橋脚のじん性不足によるものであるが,なかには桁どうしが衝突し,そのために落橋したとおもわれるもののある.過去の地震被害を調べると,建築物が非常に近接していたために地震時に衝突し損傷が生じたり,ときにはそのために倒壊した例があることがわかる.橋梁でも同様の被害が認められる. 兵庫県南部地震以後わが国においても免震支承やゴム支承の使用が桁橋では一般的となっており,そのため強震時に桁が水平変位することが予想されるが,現行の耐震設計規準では桁の衝突は避けるように規定されており,伸縮装置が大型化し,柔らかい支承を用いるメリットが半減している.これまで橋桁の地震時衝突を扱った研究としては,極めて単純化なモデルを用いた検討が1,2例あるのみで,体系的な研究がほとんどなされてこなかったのが現状である. このような状況を鑑みて,本論文は,免震支承を有する連続高架橋における地震時衝突性状を数値シュミレーションを用いて詳細に検討するとともに,衝突による影響を低減する方策について検討を加えることを目的としている. 論文は7つの章から構成されており,まず第一章で対象とする,地震時における構造物どうしの衝突に関する過去の地震被害ならびに既往の研究をレビューし,本研究の動機,意義そして目的を述べている. 第二章では,ゴム支承のみを自由度として扱う簡略化された連続高架橋モデルを用いて,衝突が高架橋の地震応答に及ぼす影響の基本的特性を調べている.衝突のモデル,高減衰免震ゴム(HDRB)のモデル化について詳細な検討を行っている.特に,後者については,速度依存性を考慮した新しいモデルを提案し,実験値との適合性が高いことを示している.入力地震動としては,兵庫県南部地震(神戸海洋気象台),エルセントロ地震(1940年)における地震波をベースに伝搬による位相ずれを考慮したものを用いている.桁間の衝突を議論するときには,隣接桁をどこまでモデルに入れるかが大きな問題となる.それについても数値的検討を加えている.また,衝突力をより正確に評価するためには免震支承のモデルも重要であることも指摘している. 最終的には,桁間隔と地震波の伝播速度をパラメーターに橋軸方向せん断力(橋脚地震力に相当)を求め,(a)桁の遊間が非常に小さいと数多くの衝突が生じるが,せん断力は,桁間隔が大きく衝突が生じない時に比べ小さくなること,(b)桁の遊間が中途半端であると,衝突によりせん断力が衝突がないときにに比べ増大すること,を明らかにしている.前者の事実は,衝突を許す設計につながるものであり,とくに重要な知見であると考えられる.なお,桁の衝突力は地震動の影響を当然受けてばらつくが,その量を遊間,地震動強度,構造特性のパラメータで表す回帰式を,数多くのシミュレーションと工学的判断のもとに導いている.これは精度の上で改善すべきところがあるが,設計上有用なものと見なされる. 第三章では,連続高架橋の衝突問題を検討するさいに重要となる,空間的に変動する入力地震動のシュミレーション法を考究している.一地点での波形をベースに,高架橋のような線状構造物を対象として,空間相関関数が周波数に依存しないという仮定のものに,シンプルなシュミレーション手法を提案している. 第四章では,橋脚,ゴム支承に自由度を有した詳細モデルで検討を行っている.二章での結果と大きく違うところはないが,衝突の影響の定量的な把握のためには詳細モデルで検討する必要があることを示している.桁の地震時衝突を様々なケースについて行い,桁間の遊間の大きさにより,衝突力,橋脚の地震力負担が大きく変わることを明らかにしている. 二章ならびに四章において,桁の衝突力,橋脚の負担を減らすには,遊間を非常に大きくとり衝突そのものが起こらないようにする解だけではなく,遊間を小さくして衝突力が大きくならないようにすることも解になりうることを明らかにした.桁の遊間を大きくし衝突を防ぐことは伸縮装置の大型化を意味し,費用ならびに維持管理の上から問題が多い.そこで,第五章では桁間を小さくした上で,桁間にダンパー,ばね,衝撃吸収材(crushable element)を挿入する案を検討している.しかし,衝突力ならびに橋脚の地震力の負担を軽減するためには,非常に大きな減衰定数,ばね定数が必要であることを示した.この知見をベースに,STU(ショック伝達ユニット)を桁間に挿入することを提案している.速度の速い運動に対しては剛に近く振る舞い,ゆっくりとした動き(温度変化による伸び縮み)に対しては抵抗しないSTUの効果が衝撃力の低減に極めて大きいことをシュミレーションにより明らかにした. 第六章では,STUの動的繰り返し荷重下での応答特性について実験を行い,特性,とくに速度依存性を明かにし,その有効性を確認した.また,実験で得られた特性を用いて,高架橋の地震応答シュミレーションを実施し,効果が高いことを確認している. 第七章では,本研究のまとめを行い,今後検討すべき課題を述べている. 以上述べたように,本論文は数値解析および解析的検討さらに実験的検討を通じて,高架橋における地震時の桁衝突の問題を多角的かつ体系的に考究するとともに,それに対する工学的方策を提案している.数々の興味あるそして有益な知見を示しており,構造工学の分野において有意義と判断される. よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. |