学位論文要旨



No 112997
著者(漢字) 許,鎧麟
著者(英字)
著者(カナ) シュ,カイリン
標題(和) 生体成長ひずみ則を用いた最適構造形状設計に関する研究
標題(洋) SHAPE OPTIMIZATION DESIGN BY BIOLOGICAL GROWTH-STRAIN METHOD
報告番号 112997
報告番号 甲12997
学位授与日 1997.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3974号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 魚本,健人
 東京大学 教授 岡村,甫
 東京大学 教授 藤野,陽三
 東京大学 教授 前川,宏一
 東京大学 教授 堀井,秀之
内容要旨

 この数十年来、連続体に関する最適形状設計の研究が行われている。しかしながら、今の段階において考えられてきている設計材料は、殆どが延性材料である。この材料の特徴は、圧縮強度と引張強度が等しいことである。また、コンクリートのような脆性材料の最適形状設計の研究は、現状では、ほとんど行われていない。コンクリートのような脆性材料の特徴は、圧縮強度と引張強度が全く異なることである。その他に、現存する最適形状設計手法のアルゴリズムを検査してみたところ、それらの手法はとても複雑な数理的な手法、あるいは簡単な数理的手法を利用してもかなりの時間を必要とする。

 従って、この研究の目的は、延性材料、脆性材料のどちらの設計材料についても、簡単かつ計算時間を節約できる最適形状設計手法を提案することである。

 複雑な数理的手法を利用するのを避けるため、この手法のアルゴリズムは最適基準法を採用している。これは、最適基準法が数理計画法より設計問題の最適解を得ることで効率的であるからである。最適基準法を用いる手法の特徴は、工学あるいは物理的観点から、設計問題を直接定式化することである。様々な最適基準の中で、全応力設計の概念を本研究で提案する手法の中で採用した。これは、全応力設計の概念が、現存する最適基準法を用いている手法の中で、最もよく利用されているからである。一般的に、全応力設計の概念に関連する最適形状設計は、応力最適設計といわれる。以上について、今までの研究で明らかになったことは、設計物の設計曲面の曲率を逐次変更した時、もし設計曲面の上に均一応力分布が存在すれば、この設計結果は最適応力設計と認めることができるということである。

 また、動物や植物の骨や枝などにおいて、荷重負担部分を観察すると、表面に沿って応力分布が一定となるように、応力が集中している表面付近の生きている組織の進化や退化によって、ある載荷条件で動物や植物が自身を環境によく適合させるように、荷重負担部分が最適形状を発展させるということが確認できる。生物的な適応の過程と応力最適設計の過程を比較すると、多くの類似点がみられる。さらに、あて材の適合過程を観察すると、重力のもとでは斜め方向から垂直方向に成長の方向が戻る現象が見られる。これは、あて材が構成材料の支配的な強度の特性を精巧に利用するからである。この現象によってコンクリートのような圧縮強度と引張強度の異なる脆性材料の効果を考慮することができる。これらの類推に基づいて、本研究では、設計変数を更新するために、上述した生物的な適応過程をシミュレイトすることで、生体成長ひずみ法といわれる手法を提案する。

 本研究を通して、以下のような結論が得られた。

 (i)生体成長ひずみ法のアルゴリズムを考察することによって、生物的な適応過程をシミュレイトし、感度解析をしない最適化手法を用いればこの手法を非常に簡素化できる。

 (ii)生体成長ひずみ法の妥当性、汎用性は以下のことにより検証された。

 (a)生体成長ひずみ法から得られた近似解と厳密解の精度の良い適合、

 (b)構造的な挙動の向上と、材料の支配的な強度の能率的な利用に関する実験的な結果と数理的な結果の一致、

 (c)設計目的を達成するための例証した設計構造の生体成長ひずみ法への適用。

 (iii)生体成長ひずみを精巧に定義し、あて材の適合過程をシミュレイトすることにより、生体成長ひずみ法の適応性は延性材料から脆性材料の利用に拡張した。

 (iv)この研究における比較例によって、感度解析をする必要がないため、計算効率を改善する点で生体成長ひずみ法が優れていることが確認された。

審査要旨

 我が国の高度経済成長に陰りが見え、低成長時代へと急速に転換してきている現在においては、多様化するニーズに合わせた良質な構造物を提供していくことのみならず、耐久性や美観・景観などに対しても配慮した形状の構造物が必要となっている。このような要望に対し、ここ数十年来、連続体に関する最適形状設計の研究が活発に行われてきているが、今の段階において考えられている材料は、そのほとんどが圧縮強度と引張強度が等しい延性材料を対象としている。しかしながら、大半の土木構造物に用いられている材料であるコンクリートは、圧縮強度と引張強度が全く異なった脆性材料である。このため、現時点ではコンクリートに関する最適形状設計の研究はほとんど行われておらず、また現存する最適形状設計手法のアルゴリズムは、複雑な数理手法で膨大な時間がかかる。このような現状を踏まえ、本研究は延性材料および脆性材料の両者に対応可能な、簡単かつ計算時間の節約できる最適構造形状設計手法を提案したのである。

 第1章は序論であり、本研究の位置づけと必要性および研究の方針を説明している。

 第2章はこれまでの最適形状設計手法を整理した結果、本研究ではその手法として応力最適設計を適用することを決定している。さらに、生体成長ひずみ則のアルゴリズムを考察することによって、生物的な成長過程をシュミレートし、膨大な計算時間のかかる感度解析を必要としない最適形状設計手法を提案している。

 第3章は応力最適設計の概念を脆性材料に適用可能にするために、ミーゼス応力を使うことが有効であるということを明らかにしている。さらに、「あて材」の適用方法を考察することによって、生体成長ひずみ則のアルゴリズムを、脆性材料にも適用可能なように修正を行っている。

 第4章は生体成長ひずみ則のアルゴリズムを確立した後、生体成長ひずみ則から得られた近似解と、二軸応力平面の厳密解を比較することにより、延性材料に関する生体成長ひずみ則の妥当性を確かめている。さらに、脆性材料から成るラーメン構造の場合の設計結果を考慮することにより、脆性材料に関する生体成長ひずみ則の妥当性も確認している。また、他の応力最適設計法との数理的な比較から、生体成長ひずみ則を用いると計算時間が短縮することを明らかにしている。

 第5章は脆性材料に関して、数理的に確認された例の妥当性を調べるための実験を行っている。実験結果から生体成長ひずみ則のアルゴリズムの有効性を確認している。

 第6章は構造物や生物の成長過程などの例に関して、本研究で提案した生体成長ひずみ則を適用することにより、本手法の広範囲な適応可能性を示している。さらに、構造物の形状と使用材料を統合した設計概念を提案することによって、最適構造形状設計手法の有効性を示している。

 第7章は本論文の総括であり、本論文の成果をとりまとめたものである。

 以上を要約すると、コンクリートに対しても適用可能な生体成長ひずみ則を用いた最適構造形状設計の有効性を明らかにしており、コンクリート工学の発展に寄与するところ大である。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク