光造形法は紫外線で光硬化性樹脂を硬化する原理を用い、デジタルデータに基づいて一層づつ順次に硬化することにより直接三次元立体模型を作る技術である。三次元CADデータより簡単かつ迅速に複雑形状を作れる特徴を持つため、すでに様々な分野で活用されている。最近、工業分野における応用が設計段階での形状確認から試作品および少量生産用金型へ変化しており、造形品の精度がより一層厳しく要求されるようになってきた。そのため精度向上に関して積層造形法特有なそり変形の解決は重要な課題になっている。従来までの研究では樹脂が硬化する時生ずる収縮現象のみが注目され、そり変形機構について以下ように単純に説明されて来た。『光造形品を一層づつ硬化させる事で、硬化層同士の硬化収縮が不均一になっている。つまり、上部の層が下部の層の後に硬化収縮するためそり変形が生ずる。』しかし、光硬化性樹脂の硬化過程はこの説明よりもっと複雑である。本研究は硬化メカニズムの解明とそり変形の制御を目的とし、硬化過程に生ずる諸現象、即ち、硬化収縮、反応熱による影響の実験観察、およびFEMによるそり変形の解析を行う。研究方法は従来の研究とは異なり、先ず造形物の基本構成である一本の線状硬化物について調べ、これを多層の造形物へ拡張して行くこととした。 本論文は実験観察と解析をそれぞれ分割して二部に分け、全体として十章より構成されている。 第一章は序論として、従来から行われてきた光造形品の精度向上に関する研究結果を纏め、それらの問題点を整理し、精度向上に及ぼす要因について分析を行った。この分析結果を基づき、本研究の目的を明らかにした。 第一部は、第二章から第五章までで構成され、樹脂の硬化過程における諸現象、硬化収縮、硬化の不均一性、反応熱による温度変化、液体樹脂の流動などについて実験観察結果を纏めた。 第二章では、硬化収縮挙動を把握するため、光硬化性樹脂の硬化収縮を測定した。光硬化性樹脂の重合反応過程では硬化収縮と熱膨張(収縮)が生ずる。硬化収縮と反応熱発生はほぼ同時に起るため、これまで正確な硬化収縮挙動の把握はできなかった。本章では熱膨張(収縮)挙動を解析し、その結果を用いて硬化収縮の実測結果を修正することで、より正確な硬化収縮を求めた。硬化の初期段階に硬化物は熱膨張が生じ、真実の硬化収縮速度が実測値より大きいことを明らかにした。 第三章では、レーザ照射による硬化物の硬化不均一性を調べるため、ダイナミック微小硬度測定法で硬化物の硬化特性を実測した。硬化物の硬度は投入されたレーザ露光量に比例し、計測した露光量範囲内では線形であることが認められた。また、硬度分布測定より一本の線状硬化物断面での硬化状況が不均一であることを明らかにした。レーザビーム中心付近では硬度が高くなり、周辺は硬度が落ちている。従って、断面における硬化収縮も不均一であることを示した。これらの結果は従来の単純な収縮だけ説明できない一本の線状硬化物のそり変形現象解明の裏付けとなった。 第四章では、重合過程に生じる反応熱を調べるために、微細な熱電対を用いて発生温度を計測した。一本の線状硬化物内部の温度分布の測定が可能となり、温度上昇は樹脂の硬化に伴い急激に起こり、後の熱拡散で徐々に低下することを明らかとした。温度の上昇は投入した露光量に比例していることも観察され、温度が変化することで熱膨張(収縮)が生じ、硬化物の機械的性能も変化し、そり変形の一因となることを明らかにした。 第五章では、反応熱による温度変化の影響で、周囲の液体樹脂の密度が変化することにより、液体樹脂が大きく流動していることが明らかにした。この流動の影響で、隣にある硬化物が揺れる現象も観察され、この揺れ現象は精度低下要因の一つであることを確認した。 第二部は、第六章から第九章までで構成され、実験観察で明らにした諸要因をモデル化し、有限要素法を用いてそり変形解析プログラムの開発し、その適用の結果を纏めた。 第六章では、第一部で明らかにした実験観察結果に基づくそり変形のモデルを提案した。そり変形は単なる硬化収縮だけで発生するではなく、反応熱による温度変化も一因であり、硬化層および硬化層内部での硬化収縮と熱膨張(収縮)が不均一によってもそり変形が生じることを明らかにした。さらに、汎用解析プログラムADINAをベースとして提案したそり変形モデルを基づく三次元FEMプコグラムを開発した。このプログラムは次に述べる特徴を持つ。1)レーザ走査経路に基づく逐次造形、2)重合過程の動的な変化、3)硬化物のミクロ的な構造の考慮。 第七章では、実験結果に基づく硬化収縮、反応熱による温度変化、ヤング率など要因を定量化した。これらの要因は露光量の関数であり、露光量の増加と共に増加し、さらにその変化はダイナミック過程である。 第八章では、一本の線状硬化物および多層片持ち梁サンプルを対象にしてそり変形の解析を行い、本プログラムの適合性を検証した。一本の線状硬化物に対して、レーザビーム中心付近には露光量が高くなり、周辺へ行くと落ちていき、硬化収縮も同じ様に分布しているので、結果として上向きのそり変形が生ずることをFEM解析で明らかとした。しかし、温度も同様に分布するために、硬化の初期段階では、温度上昇と伴う熱膨張が生じ、そり変形を遅らせる事も明らかとした。 第九章では、そり変形の制御を目的とし、本プログラムを用いて光硬化性樹脂の材料特性およびレーザ走査パターンの改良の効果を調べた。1)樹脂の露光吸収率Dpに関して、小さいDP樹脂の場合、露光は深さ方向に到達しにくく、同じ深さでの樹脂の硬化程度が低くなる。また、硬化層の間の結合力も低くなるので、そり変形量は少なくなる。2)硬化収縮率に関して、露光量が同一の場合、収縮率が低くほど、そり変形が減少する。3)反応熱による膨張はそり変形を遅らせる効果がある。反応熱が高い場合、硬化の初期段階での熱膨張量が多いために見掛けの収縮量が減少する。その結果、多層硬化物のそり変形を減少する。4)従来の連続レーザ走査パスを分割させ、未接続部分は次の上層を硬化させる時に照射させる露光で硬化させる走査パターンを提案し、そり変形量が減少する効果があることを実験およびFEM解析で検証した。以上の結果、開発したプログラムは樹脂の開発とレーザ走査パターンの改良などのそり変形の制御に活用できることを確認した。 第十章では、本研究の成果をまとめて示した。 |