内容要旨 | | 多相材料とは,二種類以上の異なる材料を組み合わせてそれぞれの長所を生かし欠点を補って,単相材料では得られない優れた特性を持たせるように設計できる材料である。多相材料の種類は多いが,力学的特性を向上させるための強化機構については,主として繊維強化型と粒子強化型に分類される。繊維強化型複合材料は強化材にガラス,カーボン,アルミナなどの繊維を,母材に樹脂,金属,セラミックスなどを用いた材料であり,粒子強化型複合材料は母材より高強度,高靭性の粒子(例えば,ジルコニア)を強化材として用いた材料である。 特に,一方向長繊維型のように繊維の方向性がはっきり決められるとその力学的挙動はある程度予想できるが,自由な部材を作りにくいという難点がある。また,短繊維ランダム分散型,粒子分散型などの場合は,複雑な三次元形状の部品に加工し易いという利点があるが,組織内部に粒子の方向性,分散などによる局所的不均質性が発現するためその力学的評価は複雑になる。このように,繊維や粒子を含む二相固体においては,母材と強化材の種類と構成,異方性,含有率などのようなミクロ組織の不均質性がマクロ特性に与える影響が大きいので,それらをなるべく正確に把握する必要がある。 本論文は,このように複雑な挙動を表わす短繊維分散型および粒子分散型二相固体の力学的特性を評価するに当たって,各二相固体モデル(短繊維モデル,インクルージョンモデルおよび変態塑性インクルージョンモデル)を提案し,その有用性を確認することを試みた。 本メソ解析モデルにおいて,母材モデルについてはランダムな形状を表現するためにヴォロノイ(Voronoi)分割法によるメッシュの生成を行い,さらに短繊維モデルについては方向性を持つ短繊維を母材モデルの中にランダムに分散する。すなわち,図1に示すように,隣接する剛体要素の中心点(母点)間の距離を長さとする短繊維を考えることで短繊維の方向や配置を自由に設定できる。 Fig.1 Mesomechanics model for matrix and short fiber 次に,インクルージョンモデルに対してはインクルージョンの形状を円形であると仮定し,その位置,大きさ,分布のランダム性を確保するため,インクルージョンの中心座標(x,y)および直径を一様乱数により与える。任意多角形要素の中心座標がその円形の内部にあるとき,その要素をインクルージョンの構成要素とみなす。すなわち,図2においては黒色の要素群が一つのインクルージョンを構成している。ここで,母材およびインクルージョンの弾性定数や破壊強度などを適切にコントロールすることにより二相固体の力学的性質を設定することが可能である。また,インクルージョンの変態塑性挙動を考慮する場合はインクルージョン自体が膨張するため,インクルージョンの内部要素に膨張変形率を与えることで応力が再配分される効果を表現できる。 Fig.2 Mesomechanics model for matrix and inclusion このような母材モデルと二相固体モデルを構築し,計算不連続体力学モデルである剛体・ばねモデルに基づいて剛性方程式の定式化を行い,さらに様々な応力下における二相固体の破壊および損傷問題に適用することで本モデルの有効性を確認した。 まず,短繊維を含む二相固体において観察される様々な力学現象,すなわち,短繊維の方向性,含有率,アスペクト比,繊維端亀裂などが強度や剛性に及ぼす影響,あるいは母材亀裂,繊維破断,繊維の引き抜きなどによる亀裂偏向,繊維架橋のような力学的挙動に関しメソスケール(この場合は短繊維の長さスケール)の直接解析手法を拡張した。 図3の(a),(b)は引張り応力下での母材のみの場合および短繊維を40%含む場合のマイクロクラック進展図である。図において,太い線で書かれた要素境界線はマイクロクラックが発生していることを示している。母材のみの場合は負荷の増加に伴い最弱位置からマイクロクラックが発生し,さらに成長していく脆性的性質を表わす。短繊維を含む要素境界線においては,母材と短繊維の破断および母材・繊維間のはく離のそれぞれの条件により,母材のみにマイクロクラックが生じる繊維架橋,母材と繊維の界面にはく離が起こる繊維引き抜きなどが起こる。また,繊維補強により亀裂が生じにくくなる代わりに繊維がない所で亀裂が生じやすくなる亀裂の偏向などを再現している。 Fig.3 Microcracking patterns under uniaxial tension 図4は巨視的応力・ひずみ関係に関する計算結果である。図より,短繊維含有率が増大するに伴い残留強度が高くなっていることがわかる。ここで用いた物性値は,Ef/Em=1.0,l/w=2.0, fc/mc=10.0,mfc/mc=9.0である。 Fig.4 Stress-strain relationship under uniaxial tension 次に,インクルージョンが存在する二相固体において,変形の初期段階からインクルージョンの割れあるいは母材・インクルージョン界面のはく離などの損傷が進行する場合,これが材料の高靭性化において重要な役割を果たすことが知られている。界面が強固な場合は,母材における亀裂進展が界面に達した際に,インクルージョンの強度に依存して,亀裂がインクルージョンを貫通したり,迂回したりする。本研究ではこのような二相固体における様々な微視的損傷過程を,メソ解析法によりシミュレートした。以下にその一例として,インクルージョンと母材のヤング率Ei,Emと,母材,インクルージョンおよび界面の破壊強度(Sm)cr,(Si)cr,および(Sb)crに関し,表1に示すような4ケースについて計算した結果を示す。 Table.1 Mechanical properties of two-phase materials 各ケースにおいて,図5には面積比(Ai)が32%の場合の引張り応力下でのマクロ応力・ひずみ関係を,図6にはモードI応力下でのR曲線を示す。また,図7にはケースAにおけるマイクロクラック進展図を示す。各計算条件により,母材への亀裂偏向,インクルージョンのはく離や粒内破壊等のようなマイクロクラッキング挙動に対し,ほぼ妥当と思われる結果を得ることができ,提示手法の有用性が示唆された。 Fig.5 Stress-strain relationship with different types of inclusion(Ai=0.32)Fig.6 R curves with different types of inclusion(Ai=0.32)Fig.7 Microcracking pattern with weakly bonded rigid,inclusion(Ai=0.32) 次に変態塑性インクルージョンを含む二相固体において,インクルージョンが変態する場合は,インクルージョン半径方向に多くのマイクロクラックを伴いながら主亀裂がインクルージョンを回り込む亀裂偏向により材料の剛性や靭性の向上が期待される。 このようなインクルージョンの変態塑性挙動において,インクルージョンの変態条件,大きさ,含有率などが二相固体の剛性およびマイクロクラキング挙動に及ぼす影響についてシミュレートした。図8にはインクルージョンの含有率Aiを8%,16%および32%に変化させた時のマクロ応力・ひずみ関係を示す。含有率を大きくすると変態するインクルージョンがより多くなるので膨張変形率は増加することが予想されるが,図においても同様な結果を得ている。図9の(a),(b)には面積比が16%の場合にそれぞれインクルージョンの変態を考慮した時と考慮しない時のマイクロクラック進展図を示す。図からわかるように,インクルージョンの変態を考慮しない場合は負荷の増加に従い母材内の最弱位置からマイクロクラックが発生し,それがインクルージョンに達するとそのままインクルージョンを貫通し進展していくので脆性的性質が顕著である。変態を考慮した場合はインクルージョンが変態限界値に達すると膨張が起こり,インクルージョンの近傍で半径方向に圧縮応力が生じるためクラックが生じにくくなる。また,要素の境界線がインクルージョンの半径方向に向いた場合は引張り応力を発生させ,その境界線における垂直ばね方向が荷重方向と一致すると,外荷重による応力と変態による応力が重複され,クラックが生じやすくなるため,多くのマイクロクラックが発生している。 Fig.8 Stress-strain relationship:effect of total area fraction of the inclusionsFig.9 Microcracking patterns for the case of containing 16% inclusions 最後に,三次元の近似理論モデルを平面ひずみ条件で二次元化し,メソ解析の結果と比較を行う。しかし,二次元メソ解析における介在物(クラック,インクルージョン,ホール等)を含む二相固体モデルは,三次元モデルから誘導される二次元モデルとは相違する。例えば,三次元モデルから誘導される二次元モデルでは球形ホールを分散したモデルであるが,二次元メソ解析モデルでは円筒形のホールになる。このような相違による誤差を考えて考察を行う。主な計算例を以下に示す。 図10の(a),(b)にはそれぞれランダム分散クラックおよび一方向分散クラックの時の近似理論解とメソ解析結果を示す。一方向分散クラックのときに,メソ解析ではクラックの方向を一方向に完全に一致させることができないため,限界角度が22.5°の時の結果を示す。有効ヤング率の低下率は両者ともDifferential法の結果にかなり接近している。 Fig.10 Effective Young’s modulus;Result for meso analysis vs micromechanics models 次に,強いインクルージョンを含む二相固体に,クラックが一方向に分散する場合の結果を図11および図12に示す。この場合にはインクルージョンの剛性が母材の剛性より強いため,母材にクラックが分散する場合にインクルージョンまたはクラック同士の相互作用が強くなるのが予想される。Ai=0.16の時はメソ結果と理論解は良好に対応しているが,面積比が大きくなると(Ai=0.32),理論解の結果はインクルージョンの影響をより過大評価していることが確認できる。 Fig.11 Effective Young’s modulus with weak inclusionsFig.12 Effective Young’s modulus with stiff inclusions 次に,材料中に円形ホールを含む固体においてホールの大きさを変化させ,その弾性定数を評価した。図13にはホールの半径rHを0.025L,0.05L,0.075Lおよびランダムにした時のメソ解析および近似理論解の結果を示す。ここに,Lは全体モデルの辺長である。両者の結果においてホール密度(p)の増加に従い,マクロヤング率は顕著に低下する。マクロポアソン比の結果は大きな相違がみられないが,メソ解析の方が過大評価していることが確認できる。 Fig.13 Effective elastic properties with randomly distributed holes 以上の研究を通して,短繊維分散型および粒子分散型二相固体の破壊および損傷挙動をメソスケールで解明し,メソ解析手法の有用性を確認した。 |