内容要旨 | | 一方向強化複合材料は、現在、航空宇宙工学分野で一般に使われている。そして、ほかの工学分野にも広がっている。複合材料には温度による粘弾性特性または材料による粘弾性特性がある。その一方向強化複合材料構造の全体的および局所的応答や全体的特性などの解析は、有限要素法や均質化方法などいろいろな方法でできる。しかしながら、粘弾性特性を持つ一方向強化複合材料構造を均質化法で解析する研究はまだない。本研究は粘弾性特性を持つ周期性のある一方向複合材料の解析を均質化法で行い、複合材料の全体的粘弾性特性と全体的及び局所的応答求めるのが目的である。 本論文は6章に分けられている。 第一章は「序論」であり、論文の目的、意義及び概要などを説明した。 第二章は「従来の研究の概説」であり、従来の理論を考察し、その理論を分類した。 第三章は「周期的一方向繊維強化複合材料の均質化法解析:弾性モデル」である。線形弾性一方向複合材料の変形問題を、均質化法で解析する方法を明らかにした。解析方法をvirtual work principle,unit cell theory,volume averaging theorem,eigenstrain concept,Fourier expansion methodなどを用いて3次元で展開した。全体的均質化問題を、unit cell theoryや場の変数の巨視的および微視的支配方程式を用いて、局所的均質化問題に変えた。このようにして、全体的問題と局所的問題を合理的に関係づけることがでる。その局所的均質化問題を、二つの変換されたunit cellと一様なeigenstrainを用いて解析した。場の変数の挙動を解析し、擾乱部分をFourier expansionで書き直した。また、断面直交異方性弾性係数を断面等方性に修正した。 第四章は「周期的一方向繊維強化複合材料の均質化法解析:粘弾性モデル」である。本章の目的は、粘弾性を持つ媒質と線形弾性特性を持つ繊維を使った一方向複合材料構造の特性を均質化法で解析することである。第三章で展開した均質化法:弾性モデルに、線形弾性、proportionality assumption、power law model、Laplace TransformやSchapery’s approximate inversionなどを使って、解析を拡張した。弾性モデルと粘弾性モデルの関係が明らかになった。 第五章は「均質化法による複合材料の巨視的特性の数値計算結果」である。ガラス・ポキシ一方向複合材料と炭素・エポキシ一方向複合材料の数値計算を、第三章と第四章に示した均質化法で行った。まず、弾性モデルを用いて計算し、結果が実験結果と一致し、計算は実験結果をよく説明であることを示した。繊維とエポキシ樹脂の弾性係数を変化させることにより,それらの複合材料特性への影響を示した。複合材料の粘弾性特性解析には、粘弾性モデルを用いて計算した。モデルの結果は実験結果と一致した。また、媒質の粘弾性特性の複合材料の全体的粘弾性特性への影響を求めた。 第六章は「考察,結論及び将来の課題」である。本研究を考察し、研究の成果と将来解決すべき課題などを示している。 本研究では、virtual work principleによって解析し、全体的均質化と局所的均質化の関係を明らかにした。全体的粘弾性特性と全体的応答はこのモデルから求めることができ、局所的応答の解析にも使える。これが本研究の利点である。それに、粘弾性定数の表示式に含まれるimhomogeneity concentration tensorを、繊維の幾何学的特性による部分と媒質の力学的特性とによる部分とに分けることができるので、このモデルは複合材料の最適設計に直接応用することができる。 |
審査要旨 | | 工学修士 キンタンユ提出の論文は,「Analysis of Viscoelastic Properties of Unidirectional Composite by Homogenization Method(一方向強化複合材料の粘弾性特性の均一化法による解析)」と題し,英文で書かれ,6章からなっている。 繊維強化複合材料は,その高比強度,高比剛性の特性によって,広く航空宇宙工学の分野で一次構造部材として用いられるようになった。複合材料を構成する繊維と媒質の力学的特性と幾何学特性から複合材料の巨視的な力学的特性を予測することは,高性能複合材料を開発する上で重要な課題であり,従来より種々の手法が提案され,主に弾性的特性の研究が行われてきた。現在多用されている先進複合材料である炭素繊維強化エポキシ樹脂複合材料は,エポキシ樹脂の粘弾性に起因して,常温においても粘弾性特性を示すことが知られている。また耐熱材料として開発されている金属複合材料は,高温においては粘弾性挙動を示す。そこで本論文では,複合材料構造の基本的な要素である一方向強化複合材料を取り上げ,均質化法を用いて,複合材料の粘弾性特性の研究を行っている。 第1章は「序論」であり,構成材料の粘弾性特性と幾何学的特性から,一方向強化複合材料の巨視的な粘弾性特性を予測するという,本研究の目的と意義を明確にしている。 第2章は「従来の研究の概説」であり,複合材料の巨視的な力学的特性を予測する従来の研究を概観し,不均質な複合材料を均質な異方性体に置き換える均質化法の特性を明らかにし,均質化法を粘弾性特性の解析に拡張する本研究の概要を提示している。 第3章は「周期的一方向繊維強化複合材料の均質化法解折:弾性モデル」であり,均質化法による複合材料の弾性特性の解析法を示し,粘弾性特性を求めるための基礎を与えている。繊維に直角な方向に幾何学的周期性を有する複合材料において,一本の繊維を含む単一セルを考え,複合材料の巨視的な支配方程式と,単一セル内の微視的な支配方程式を導いている。そして,微視的な支配方程式を,フーリエ級数展開法とEshelbyの固有ひずみ法を用いて解き,巨視的な弾性係数を求めている。円形断面を持つ繊維内で与える固有ひずみを一定であると仮定することにより,弾性係数の解析解を求めており,構成材料の弾性特性と幾何学的特性の巨視的弾性特性への影響を明確に表示している。 第4章は「周期的一方向繊維強化複合材料の均質化法解析:粘弾性モデル」であり,線形粘弾性を示す媒質を有する複合材料の巨視的な粘弾性特性を,均質化法によって求めている。境界条件が場所の関数と時間の関数に変数分離でき,複合材料中の応力や変位も同様に変数分離できる場合を考えている。支配方程式を時間に関してラプラス変換し,第3章の「弾性モデル」の場合と同様に,フーリエ級数展開法と固有ひずみ法を用いて解を求め,巨視的粘弾性係数の解析解を導いている。 第5章は「均質化法による複合材料の巨視的特性の数値計算結果」である。まず「弾性モデル」を用いてガラス繊維強化エポキシ複合材料と炭素繊維強化エポキシ複合材料の弾性係数を求め,実験結果と一致することを示す一方,繊維とエポキシ樹脂の弾性係数を変化させることにより,構成材料の弾性係数の巨視的弾性係数への影響を明らかにしている。次に「粘弾性モデル」を用いて,媒質のクリープ関数が時間に関して累乗則で表されるものとして,炭素繊維強化エポキシ複合材料の粘弾性係数を求め,クリープ実験の結果と一致することを示している。また,媒質のクリープ関数の累乗の値を変化させることにより,媒質の粘弾性特性の複合材料の巨視的粘弾性特性への影響を明らかにしている。 第6章は「考察,結論及び将来の課題」であり,本論文の内容を概説し,得られた成果を要約すると共に,将来の課題を示している。 以上要するに,本研究は媒質の線形粘弾性挙動に起因する一方向強化複合材料の粘弾性挙動を,均質化法によって求めており,長時間にわたって荷重を受ける複合材料の粘弾性挙動の解析の基礎を与えるものであり,先進複合材料の開発のために貢献するところが大きい。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |