学位論文要旨



No 113012
著者(漢字) 陳,晴
著者(英字) CHEN,Qing
著者(カナ) チェン,チン
標題(和) 表面波型プロセスプラズマ発生装置内の電磁界に関する数値解析
標題(洋) Numerical Analysis on Electromagnetic Field of Plasma Processing Generator Based on Surface Wave
報告番号 113012
報告番号 甲13012
学位授与日 1997.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工社第3989号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 桂井,誠
 東京大学 教授 高野,忠
 東京大学 教授 石井,勝
 東京大学 教授 日高,邦彦
 東京大学 助教授 大崎,博之
 東京大学 助教授 小野,靖
内容要旨

 プラズマプロセシングは、今日、例えば超LSI製造過程において半導体表面を放電プラズマを用いて加工する際に広く用いられている.ここにおいては高品質で低コストの製品を作るために高密度、かつ高均一のプラズマ発生装置を必要とする。特に、最近開発された平板型配位の表面波プラズマ装置(SWP:surface-wave-plasma)は、外部より磁界を印加する必要がなく電子レンジ用マイクロ波源を用いて高性能のプロセスが可能となるために、その将来性が着目されている。この装置に導入されるマイクロ波(2.45GHz)は、誘電体表面波構造の導波管内を往復して定在波を形成するよう工夫されており、その過程において波のエネルギーは底面に設置された誘電体窓によって平面的に接触しているプラズマに吸収されて放電を維持する.プラズマ中の電界は誘電体とプラズマ境界で最も強く、表面からプラズマ中に減衰しながら侵入してゆく。この装置内部では、プラズマ周波数で決まる遮断周波数が電源周波数よりも高くなるような、いわゆる過密度のプラズマが発生される。しかしSWP配位でどうして過密度のプラズマが効率よく発生できるかについては十分理解されていない。本博士論文は電磁界の数値解析法として時間領域有限差分法(FDTD:Finite-difference time-domain)を用いて、SWP型配位のマイクロ波伝搬と吸収の様子を、プラズマに対する冷たい電子プラズマモデルを用いて数値シミュレーションを行なったもので、FDTD法固有の2次の精度を確保して数値計算を行ってSWPのメカニズムを明らかにすることを目的としている。

 第1章は序論であって、プラズマプロセッシングについての背景と、上で述べた平板型SWP配位の構造と動作原理を解説し、合わせて本論文の研究目的、FDTD法の原理、プラズマを記述する方程式、プラズマ共鳴、プラズマ表面波等の基礎概念について述べている。

 第2章では、均一の冷たい非磁化電子プラズマをFDTD法に組み込むための種々の定式化について述べている.ここでは従来の定式化で生じるいくつかの問題点を克服するために、新たにKE法(kinetic method)とJE重畳法(JEC:JE convolution)を考案して、その特徴について検討を行なっている。特にJEC法は、プラズマ導電率についての周波数関係式から導出された時間領域畳み込み積分を用いるもので、フーリエ変換による時間領域のプラズマ電流密度と電界の畳み込み積分表現が出発点となっている。この関係とアンペアー・マックスウェル方程式の関係を用いてFDTD方程式が得られている。JEC法は、その必要となる計算機のメモリー量は、分散性媒体を記述するFDTD方の中で最も少なくなる定式法であり、計算精度は2次精度のFDTD定式化と同程度である。KE法,JEC法とも、プラズマの電流密度と電界との関係に主点をあてたもので、従来の多くの方法がマックスウェル方程式の電束密度Dと電界Eの関係に基づいており、その本質的な関係はEとDとの間の周波数領域における誘電関数から導出されているという点で異なっている。ここで提案した新たな方法の特徴を確認するために、従来のFDTDによるプラズマ定式化、具体的には、RC(Recursive Convolution)、ADE(Auxiliary Differential Equation)、PLRC(Piecewise Linear Recursive Convolution)等と同一問題に適用して、各々の結果の正確さ、使用するコンピュータのメモリ、計算速度、などを比較検討した。すなわち、以上の新旧5つの方法での解析法により、ガウス分布のパルス入力を与えた時の1次元スラブプラズマでの反射係数と伝搬係数について数値計算を行い、計算結果を示した。従来の定式化の一つであるPLRC法は高い衝突周波数領域では精度の高い結果を示したが、低い衝突周波数領域では誤差の多い結果となった。フーリエ変換によって、高い周波数スペクトルを含む時間領域のデータを周波数領域に変換して、計算結果と解析結果との比較も行っている。新たに提案した2つの方法の結果は解析結果との極めて高い一致を示し、従来法のなかでは2次の計算精度を確保している定式化、すなわちADE法などと一致した結果を得ている。総合すると特にJEC法は使用するコンピュータのメモリは最小であり、またその結果は十分に正確なもので、この方法は非磁化プラズマや他の分散性媒質のためのFDTD定式化の中で最も効率的なものであることが結論づけられる。またKE法の定式化の容易性についても触れている.新たに提案したJECとKE法は本論文の次章の研究の基本となるツールであることを述べて本章を締めくくっている。

 第3章では前章で導入した2つの定式化を用いて、平板構造のSWP配位を記述する2次元のFDTDモデルを提案している。この場合には特に2つの媒質間の境界条件、具体的には異なる誘電率の媒質が接触している境界領域、および誘電体とプラズマが接触している境界における電磁界の接続条件をFDTDコードによって近似することが必要になる。ここでFDTD法のMurの完全吸収境界条件(ABC:absorbing boundary conditions)を適用することによって吸収境界では反射は殆んどない定式化に成功した。シミュレーションでは、特に放電が起こって過密度のプラズマが存在していることを前提にして、プラズマ表面波の励起とその共鳴効果がマイクロ波吸収に及ぼす効果について検討を行なった。結果は、プラズマの表面部に容器のコーナーが有るような構造において、誘電体線路内の表面波定在波によってプラズマ表面波が効率よく励起されて、さらにプラズマ共鳴が理論で予想される条件下で存在することが示された.従来のプラズマ表面波構造と異なる点は、SWPではプラズマ表面波が主要モードとして伝わるのではなくて、誘電体線路の表面波の作る定在波によってプラズマ表面波が励起されてその共鳴によって吸収率が高められる点であって、このことが明白にシミュレートされた。さらに、この吸収過程における電子-中性粒子間衝突周波数の効果について議論を行なった。シミュレーションにおいてこの衝突周波数を考慮すると、プラズマ表面波領域は電子衝突周波数が無視できる場合のプラズマ表面波領域よりも少し高い領域にシフトすること、プラズマ周波数が波の周波数よりも大きい時(過密度領域)でも表面波共鳴によって高効率のエネルギー吸収が説明可能であること、などが明らかにされた。以上のシミュレーションの結果の特性は、過去のSWP実験と定性的に良い一致を示している。誘電体線路内の波のモードについては、大きなギャップ領域がある構造では複合的であり、プラズマ境界面では完全導体的であることが示された。本章の最後には、マイクロ波源入口が誘電体表面波構造の上部に設置されている場合の新しい構造についてのシミュレーション結果を示した。その結果、この配位も平板型SWP構造と同様な特性を示すもであることが示された。以上、本章においては、プラズマ共鳴、プラズマ表面波、衝突周波数、等が平板型配位の表面波プラズマプロセッシングを解析するのに重要であり、プラズマと誘電体層の境界での表面波共鳴がマイクロ波吸収に大きな効果を及ぼしているいることが結論づけられた。

 第4章では本論文の結論をまとめて、将来の課題を提示している。

審査要旨

 低気圧放電プラズマを用いた各種材料プロセスは,特に大規模集積回路(超LSI)製造工程におけるエッチング等の微細加工分野で著しい進展をみせている。この目的で使用される放電プラズマは,電子温度が数eV,電子密度が1011から1012cm-3であって,さらに近年は大型液品パネル製造への適用およびシリコンフェーハの大口径化等の要求に応えるためプロセスプラズマにも大口径,高均一性が求められるに至っている。従来,このプロセスプラズマ発生法としては10MHz帯の高周波を用いる平行平板型容量結合方式が代表的なものであったが,これは発生できる電子密度に限界を有するために,それに代って誘導結合型(ICP)方式とか,2.45GHz帯を用いる電子サイクロトロン共振(ECR)方式が開発されてきた。特にECR方式はプラズマの動作領域が広くかつ高密度を発生しやすいために,異方性エッチング装置として今日広く普及している。しかし,このECR方式は将来の細巾0.1mを目指すプロセスプラズマ源としては,クリーンルーム面積の有効利用の面から漏洩磁界の問題を有する。そこで,マグネットが不要な2.45GHz帯プロセスプラズマ源の開発が強く求められており,その有力候補として表面波プラズマ(SWP)方式が着目されつつある。このSWP方式は,以前より円筒構造を有する装置が研究されてきたが,大口径,高均一性プラズマの実現に問題が指摘され,新たに箱形金属容器をプラズマ容器として,耐熱誘電体板その天井部分の天窓として,それを通して,マイクロ波を結合させる誘電体線路型の平面結合構造が開発されている。この平面結合方式においては,誘電体を伝搬する表面波モードとプラズマ表面を伝搬する表面波モードに加え,さらに金属容器内の高次体積モードが複雑に重ね合わさるために,その中の電磁界の様子についての詳細な解析は,従来着手されていなかった。本論文はNumerical Analysis on Electromagnetic Field of Plasma Processing Generator Based on Surface Wave「表面波型プロセスプラズマ発生装置内の電磁界に関する数値解析」と題して,この問題を扱ったもので,全体は4章より構成されている。

 第1章は「序論」であって,半導体製造におけるプロセスプラズマの役割について論じ,各種のプロセスプラズマ発生法とそれぞれに基づくプロセス装置の特徴と限界について述べ,特に将来求められる大口径,高均一性プロセスプラズマ源として,SWP方式が優れている点について解説している。特に2.45GHzのマイクロ波電源に対するプラズマ周波数で決まるカットオフ密度が7×1010cm-3であるのに反して,実際の装置においては1012cm-3に近い均一な電子密度の発生が確認され,これ等の機構を説明するために,電磁界解析の必要性が指摘されている。

 第2章はFinite-Difference Time-Domain Formulations for Uniform Nonmagnitized Plasma「非磁化プラズマに対する有限時間差分領域(FDTD)法定式化」と題して,近年広く電波伝搬の時間領域数値解析手法として用いられているYeeアルゴリズムによるFDTD法に,周波数分散を有するプラズマ物性方程式を組み合せる各種手法について論じている。従来より知られていた代表的な手法として,プラズマ誘電率に対する電束密度と電界の関係を時間領域でのたたみ込み積分関係式に変換して離散化する手法がある。しかしこの定式化ではFDTD法の固有の特徴である二次の精度が失われてしまうことを指摘し,さらにその解決法として電流密度と電界との関係を用いる時間領域たたみ込み積分法を提案し,これが二次の精度を確保しつつも計算に際してメモリー節約の点でも優れていることを明らかにしている。さらに他の方法も加え,プラズマ物性関係式を組み込むための合計5通りの方法について,その精度を一次元ガウシアンパルス応答を調べることにより解析法を参照しつつ相互比較して,各手法の使用上の注意点を明かにしている。

 第3章はNumerical Analysis on Plasma Cavity Resonances of SWP Planar Configuration「平面型表面波プラズマプロセス装置内の電磁界数値解析」と題し,実用段階にある平面型SWP装置内の電磁界の定常状態を,二次元モデルのもとでFDTD法を用いて解析している。まず,単なる誘電体表面波線路の伝搬特性に対して解析解とFDTDによる数値値解を比較してFDTD法の信頼性を確認してから,具体的にプラズマを含む構造に対する数値解析を行なっている。プラズマが存在する場合の電磁界は,誘電体表面波モードと,それによって励振されるプラズマ表面波モードとの重ね合せとなっていることを示し,特にプラズマと誘電体天窓との境界面において,固有の表面波共振を示すことを明らかにしている。そしてこの表面波共振現象が,2.45GHzに対するカットオフ密度を超えるような電子密度領域において,マイクロ波電力吸収向上に大きく寄与している可能性を明らかにして,SWP方式における高密度プラズマ発生機構の理解を深めることに成功している。

 第4章は「結論」であって,本論文で得られた結果をまとめ,今後取り組むべき課題を指摘している。

 以上要するに,本論文においては,大口径,高均一性プロセスプラズマ源として着目されている平面型表面波プラズマプロセス装置内の電磁界の様子を,有限時間領域差分(FDTD)法によって数値解析し,誘電体表面波伝搬構造によってプラズマ表面波が励振されて,その共振によってマイクロ波電力が有効に高電子密度のプラズマに吸収されるという,当装置のプラズマ発生に関する基本過程を明らかにしたものであって,電気工学,特にプラズマ工学に貢献するところが多い。よって本論文は博士(工学)の請求論文として合格を認められる。

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