審査要旨 | | 低気圧放電プラズマを用いた各種材料プロセスは,特に大規模集積回路(超LSI)製造工程におけるエッチング等の微細加工分野で著しい進展をみせている。この目的で使用される放電プラズマは,電子温度が数eV,電子密度が1011から1012cm-3であって,さらに近年は大型液品パネル製造への適用およびシリコンフェーハの大口径化等の要求に応えるためプロセスプラズマにも大口径,高均一性が求められるに至っている。従来,このプロセスプラズマ発生法としては10MHz帯の高周波を用いる平行平板型容量結合方式が代表的なものであったが,これは発生できる電子密度に限界を有するために,それに代って誘導結合型(ICP)方式とか,2.45GHz帯を用いる電子サイクロトロン共振(ECR)方式が開発されてきた。特にECR方式はプラズマの動作領域が広くかつ高密度を発生しやすいために,異方性エッチング装置として今日広く普及している。しかし,このECR方式は将来の細巾0.1mを目指すプロセスプラズマ源としては,クリーンルーム面積の有効利用の面から漏洩磁界の問題を有する。そこで,マグネットが不要な2.45GHz帯プロセスプラズマ源の開発が強く求められており,その有力候補として表面波プラズマ(SWP)方式が着目されつつある。このSWP方式は,以前より円筒構造を有する装置が研究されてきたが,大口径,高均一性プラズマの実現に問題が指摘され,新たに箱形金属容器をプラズマ容器として,耐熱誘電体板その天井部分の天窓として,それを通して,マイクロ波を結合させる誘電体線路型の平面結合構造が開発されている。この平面結合方式においては,誘電体を伝搬する表面波モードとプラズマ表面を伝搬する表面波モードに加え,さらに金属容器内の高次体積モードが複雑に重ね合わさるために,その中の電磁界の様子についての詳細な解析は,従来着手されていなかった。本論文はNumerical Analysis on Electromagnetic Field of Plasma Processing Generator Based on Surface Wave「表面波型プロセスプラズマ発生装置内の電磁界に関する数値解析」と題して,この問題を扱ったもので,全体は4章より構成されている。 第1章は「序論」であって,半導体製造におけるプロセスプラズマの役割について論じ,各種のプロセスプラズマ発生法とそれぞれに基づくプロセス装置の特徴と限界について述べ,特に将来求められる大口径,高均一性プロセスプラズマ源として,SWP方式が優れている点について解説している。特に2.45GHzのマイクロ波電源に対するプラズマ周波数で決まるカットオフ密度が7×1010cm-3であるのに反して,実際の装置においては1012cm-3に近い均一な電子密度の発生が確認され,これ等の機構を説明するために,電磁界解析の必要性が指摘されている。 第2章はFinite-Difference Time-Domain Formulations for Uniform Nonmagnitized Plasma「非磁化プラズマに対する有限時間差分領域(FDTD)法定式化」と題して,近年広く電波伝搬の時間領域数値解析手法として用いられているYeeアルゴリズムによるFDTD法に,周波数分散を有するプラズマ物性方程式を組み合せる各種手法について論じている。従来より知られていた代表的な手法として,プラズマ誘電率に対する電束密度と電界の関係を時間領域でのたたみ込み積分関係式に変換して離散化する手法がある。しかしこの定式化ではFDTD法の固有の特徴である二次の精度が失われてしまうことを指摘し,さらにその解決法として電流密度と電界との関係を用いる時間領域たたみ込み積分法を提案し,これが二次の精度を確保しつつも計算に際してメモリー節約の点でも優れていることを明らかにしている。さらに他の方法も加え,プラズマ物性関係式を組み込むための合計5通りの方法について,その精度を一次元ガウシアンパルス応答を調べることにより解析法を参照しつつ相互比較して,各手法の使用上の注意点を明かにしている。 第3章はNumerical Analysis on Plasma Cavity Resonances of SWP Planar Configuration「平面型表面波プラズマプロセス装置内の電磁界数値解析」と題し,実用段階にある平面型SWP装置内の電磁界の定常状態を,二次元モデルのもとでFDTD法を用いて解析している。まず,単なる誘電体表面波線路の伝搬特性に対して解析解とFDTDによる数値値解を比較してFDTD法の信頼性を確認してから,具体的にプラズマを含む構造に対する数値解析を行なっている。プラズマが存在する場合の電磁界は,誘電体表面波モードと,それによって励振されるプラズマ表面波モードとの重ね合せとなっていることを示し,特にプラズマと誘電体天窓との境界面において,固有の表面波共振を示すことを明らかにしている。そしてこの表面波共振現象が,2.45GHzに対するカットオフ密度を超えるような電子密度領域において,マイクロ波電力吸収向上に大きく寄与している可能性を明らかにして,SWP方式における高密度プラズマ発生機構の理解を深めることに成功している。 第4章は「結論」であって,本論文で得られた結果をまとめ,今後取り組むべき課題を指摘している。 以上要するに,本論文においては,大口径,高均一性プロセスプラズマ源として着目されている平面型表面波プラズマプロセス装置内の電磁界の様子を,有限時間領域差分(FDTD)法によって数値解析し,誘電体表面波伝搬構造によってプラズマ表面波が励振されて,その共振によってマイクロ波電力が有効に高電子密度のプラズマに吸収されるという,当装置のプラズマ発生に関する基本過程を明らかにしたものであって,電気工学,特にプラズマ工学に貢献するところが多い。よって本論文は博士(工学)の請求論文として合格を認められる。 |