学位論文要旨



No 113013
著者(漢字) ブルラク・カタリン・ラズバン
著者(英字)
著者(カナ) ブルラク・カタリン・ラズバン
標題(和) 多重接続された電力変換器のバイリニアモデルに基づく動作解析と制御法の研究
標題(洋) New Method of Analysis and Control Synthesis Based on a Bilinear Model for Interconnected Power Converters-Following Certain Optimality Assessments
報告番号 113013
報告番号 甲13013
学位授与日 1997.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3990号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 正田,英介
 東京大学 教授 曾根,悟
 東京大学 教授 仁田,旦三
 東京大学 助教授 横山,明彦
 東京大学 助教授 大崎,博之
内容要旨

 電力事業参入や電力託送の自由化に伴い、電力事業者間の競争が促進され、様々な事業者から自らの要求に適合した電力が購入できるようになった。しかし一方、自由化によって増加する制約条件や不確実性の中で、電力システムをいかに低コストで運用するかが要求されている。電力貯蔵やパワーエレクトロニクス応用機器、そして光ファイバー通信等の新しい技術によって、電力システムの新しい制御法が構築される可能性が出て来た。それと同時に、制御機器の中核となる電力変換器は送配電線の電力品質や信頼性を保つ事が要求され、電力変換器間の相互干渉や重負荷による難しい問題に直面している。その結果、電力変換器の多重接続が検討されたが、しかし非常に困難がつきまとっていた。

 電力変換器は直列あるいは並列に、結合変圧器を使用したり、また使用せずとも接続できる。全体としては高品質な交流電流波形を出力できるにもかかわらず、どのような接続法を採用しても内部では大きな電流または電圧歪みを生じていて、大きな問題となっている。結合変圧器を使用した場合、その影響は変圧器内部の磁束として、変圧器を使用しない場合は個々の電力変換器の電流の問題となって現れる。

 本研究では並列接続された電力変換器について考えているが、これはシステムの複雑さを増してしまう。多重接続をする事によって、全体としてのスイッチング周波数が増加し(通常、PWM搬送波の移相を使用する事による)、変換容量も増加し、修繕性も改善する事が知られている。しかし同時に、電力変換器を多重接続する事による不安定によって引き起こされる、不平衡な運転を解決する必要がある。

 主に電圧型電力変換器を多重接続して用いる応用は、交流トラクションドライブから電池あるいは超電導電力貯蔵システムに至るまで非常に多岐に渡っている。どのような応用でも問題が生じ、多くのを項目を考慮しなくてはならないため、一つの変更でほとんど全ての項目を改善すること制御法の開発が望まれている。先にも述べたとおり、電力品質の低下と電圧の不安定性が多重変換器の主な二つの悪影響であるが、これらについて二つの応用例、新幹線タイプの高速鉄道のトラクションドライブと超電導磁気エネルギー貯蔵装置の中で考えて行く。

 様々な方法で動作特性を近似している電力変換器の線形モデルでは、相互接続は幾分可観測とされ、明らかにシステムのモデルは精度が低い。それ故、我々は非線形性をより正確に記述する方法、バイリニアモデル化法を使い多重接続された電力変換器をモデル化した。

図1:結合変圧器無し並列接続変圧器

 式(1)、(2)に図1に示した並列接続された電力変換器の状態方程式を示す。

 

 

 式(1)、(2)はバイリニアの一般的な構造をしたモデル(通常、全ての電力変換器の動作状態を記述している)書き換える事ができ、式(3)のように表す事が出来る。

 

 uは制御入力(変調関数)、vは付加的な制御入力(入力正弦波電圧、外乱と考える事も出来る)である。式(3)では、制御入力は様々な減衰の仕方をもたらし、付加的な制御入力は平衡点の変化を可能にしている事が示されている。この新しい方程式は二つのバイリニア変数の間に相互作用がある事が特徴である。この例では、電流ベクトルi1,,i6と直流電圧vdであり、これらは式(4)に示されるようにお互いに作用しあっている。

 

 状態変数ベクトルはi1,,i6、vdの組で構成されている。

 制御変数の組をMとし、その要素mの絶対値は1である(|m|=1)。問題は評価関数(式(5))を最小にし、システムを初期状態x(t0)=x0から最終状態(誤差平面の原点)にもって行く事である。これは最少燃料問題を解く事である。

 

 最適基準を解いた後に、最急降下法もしくは傾斜法に基づいて補償項を定義する。

 

 線形理論にとっても微妙な問題であるが、制御定数の決定は重要である。最小値を決めている要因(高調波を低減するためのもの)と最高値を決めている要因(安定性に関するもの)との間のトレードオフの関係をK、k1そしてk2の値を変化させて調べた。そして2セットの状態変数(入力電流ベクトルと直流電圧)が、システムの振る舞いに対して入力電流の品質(高調波成分)と直流電圧の誤差の間の関係として現れる事を示す事ができた。それ故、どのようなインバータタイプの負荷に対してもしっかりと直流電圧を指令値に保ちつつ、交流電流の品質を改善する事を目的にした。

 この補償アルゴリズムと既に導入していた空間ベクトル制御法を基にして、一連の事故及び故障状態での動作を検証した。

図表

 幾つかの結果から、直流電圧の安定性と電流の高調波成分に関して改善している事が示された。図2では、一方の変換器の入力インダクタンスが半減した場合のシステムの動作が改善した事を示している。安定度と高調波成分を高調波成分のエネルギーhと直流電圧の平均値vdcを用いて解析した。これらの変数は互いに同じ線形の関係を持っている。

図2:直流電圧のばらつきと二つの変換器の同相電流の差

 最終目標の一つに電気機械系である列車駆動の車輪回転数の保持がある。システムの構造とその相互接続を解析した後に、車輪回転数の過渡応答について調べた。その結果、今までと同様の手法を用いて応答の改善が可能である事が判明した。

図3:直流電圧のパルス変化に対する車輪回転数の過渡応答

 トランスピュータを用いた実験を行い、理論的な解析が実験的に検証され、電流高調波成分とシステムの安定性の双方が改善される事が分かった。これは本研究も目標である二つの要因の最適化を達成した事を示している。

 安定性の改善のほかに、電流ベクトル法を用いて、従来の手法のもの(二つの変換器に全く同じ動作をさせる)、混成法(二つの変換器に位相差と振幅の差を入れたもの)、補償と混成法を組み合わせたものを比較し高調波改善性を検証した。

図4:実験結果-総合電流の高調波成分 -従来手法、混成法、補償と混成法

 相互接続された電力変換器間に不平衡な運転状態を引き起こす故障状態を補償する手法の基になる、電力変換器のバイリニアモデルを使って、定常状態と過渡状態について議論して来た。もし良く知られている線形フィードバックで、システムの雑音に対する改善を別にして、高い利得を使用すれば、本研究で提案した補償フィードバックはシステムの信頼性のみならず内部変数(交流入力電流)の品質に対しても、良い方向に影響する。

 本研究で提案した新しいモデル化手法と制御手法は、従来の線形理論を用いてパラメータ設計をする上で不足している部分をカバーして、バイリニアまたは混合バイリニア理論でシステム全体のモデルを構築するのに非常に便利な手法である。多変数構造を扱う事は問題を複雑にするかもしれないが、解析をする時には各変数毎に考えて線形理論を適用するなどの手法が使用可能と考えられる。

審査要旨

 本論文は"New Method of Analysis and Control Synthesis Based on a Bilinear Model for Interconnected Power Converters-Following Certain Optimality Assessments"(「多重接続された電力変換器のバイリニアモデルに基づく動作解析と制御法の研究」)と題し、パワーエレクトロニクス応用の大容量化とともに問題となっている、並列接続された電圧型電力変換器のより高度の制御を目的として、変換器のバイリニア制御モデルを導入し、それに基づいた出力電流ベクトルの制御方法を示し、さらに二つの変換器の並列接続について、バイリニア制御構造の下での変換器相互の干渉を低減するフィードバックループの構成を論じ、シミュレーションや実験により制御の最適性や外乱の影響の抑圧を評価した結果をまとめたものであって、8章からなる。

 第1章は"Interconnected power converters-general introduction"であって、電力システムや産業プラントにおける多重変換器接続とその問題点、さらにそのモデル化やそこで採用されている制御方式の限界を示して、本研究の背景を述べるとともに、研究の目標をまとめている。

 第2章は"Model definition for parallel connected voltage-type converter"であって、二つの電圧型変換器の並列接続を対象にその回路の状態方程式を導き、各バルブの制御動作をスイッチング関数で表示することにより、交流側の電流と直流側の電圧を状態変数としたバイリニア制御モデルが導けることを示している。

 第3章は"Bilinear systems"であって、状態軌跡を用いて電圧型変換器の制御性を説明するとともに、入力電流の線形制御とバイリニア制御を高調波含有率と電流ベクトルの動的な制御の二つから比較して、後者の優位性を明確にしている。

 第4章は"Control strategies for parallel connected voltage-type converters"と題して、二つの電圧型変換器を並列接続したシステムについて従来から標準的に用いられているパルス幅変調(PWM)制御とバイリニアモデルによる電流ベクトル制御を比較し、二つの変換器の間のスイッチングベクトルの選択を統合的に扱うことにより、交流電流波形の滑らかさと直流電圧の一定制御の両方が優れたシステムが得られることを示している。しかし、この制御法では二つの変換器の電流が異なるためにパラメータ変動などに対して不安定化しやすい欠点があるので、その補償のための制御構造が求められるとしている。

 第5章は"Feedback compensation based on the bilinear defition for the plant model"であって、第3章で導いたバイリニアモデルの制御量がスイッチング関数であるという性質を使ってその最適解の形をもとめ、直流電圧値と交流電流値の線形フィードバックの形でそれを表わし、両者の重み付け係数と回路パラメータが状態変数の応答にどのような影響を与えるかを論じている。重みが等しい場合には測度不変系が実現されてバイリニアシステムとしては理想的な動作モードになる。

 第6章は"Results from simulations"であって、前章までに導いた二つの並列接続された電圧型変換器の制御特性をシミュレーションによって確認している。両変換器の統合された制御にバイリニアモデルから導かれたパラメータによる補償ループを組み込むことにより、定常状態での交流電流の高調波成分の低減、線路リアクタンスや直流電圧の変動に対する安定な制御の実現、結合変圧器リアクタンスが小さい場合においての過渡応答の安定性の確保、回路構成要素の異状時の応答などのすぐれたシステムが得られることが示されている。さらに、具体的な応用システムとして、三つの変換器で構成される鉄道車輌の駆動制御システムにこの制御方式を適用して、電源側と負荷側からのいずれの外乱に対しても安定な駆動が行われることをも明らかにしている。

 第7章は"Experimental approach"であって、実際に二つの並列接続された電圧型変換装置のモデルを製作して、入力電流の高調波の含有量や直流電圧の変動を測定して、前章のシミュレーションの結果と比較してその妥当性を検証している。

 第8章は"Conclusion and discussion"であって、本研究の成果を要約し、その意義をまとめている。

 以上、これを要するに、本論文は電圧型変換器の制御についてバイリニアモデルを適用した新しい手法を提案し、具体的な制御システムの構成とその設計法を導き、それを変換器の並列接続運転の制御に適用して高調波電流の発生が少なく、回路パラメータの不平衡や変動にたいして安定な特性が得られることを示して、電力変換装置の制御システムの設計や大容量化に重要な知見を与えているものであって、電気工学上貢献するところが少なくない。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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