学位論文要旨



No 113018
著者(漢字) 李,明哲
著者(英字) Li,Ming-Zhe
著者(カナ) リ,ミンゼ
標題(和) 都市高層ビルの内部交通解析に関する研究
標題(洋)
報告番号 113018
報告番号 甲13018
学位授与日 1997.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3995号
研究科 工学系研究科
専攻 計数工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 伏見,正則
 東京大学 教授 杉原,厚吉
 東京大学 教授 岡部,篤行
 東京大学 助教授 松井,知己
 東京大学 助教授 浅見,泰司
内容要旨

 この論文は,都市高層ビルの内部交通解析および,これらによる効率性解析に重点が置かれている.主な内容はふたつの部分に分けられる.

 第一部分(高層ビルの内部交通解析)では,高層ビルの内部交通問題に関する今までの研究をもとにして,若干拡張したモデルを提案した.具体的には,ビルの形は直方(または円柱)から錐台に拡張し,交通の種類に関しては,通勤交通に加えて,内部の人同士が行き来するための交通(以下では,この交通を単に「人人交通」と言うことにする.),あるいは人が施設を訪ねるための交通が併存する場合を考えた.さらに,提案したモデルをもとにした数値解析も行った.

 この部分の内容においては,次の結論が得られた.まず,通路面積に関して,通勤交通のみの場合における錐台型ビル,通勤交通と人人交通の場合における直方型(または円柱型)ビル,通勤交通と施設訪問による交通の場合における直方型(または円柱型)ビルの通路面積が与えられた.次は,数値計算を行った範囲内のパラメータについて,以下のようなことがわかった.

 1.ビルの高さが高くなるにしたがい,居住面積の割合が小さくなるという従来の研究結果が,このような拡張された範囲でも意味をもつ.そして,通勤交通のみ,あるいは通勤交通と施設訪問による交通の場合は,ビルの底面積が大きくなっても,居住面積の割合が変化しないが,通勤交通と人人交通の場合は,ビルの底面積が増えるにしたがって,居住面積の割合が小さくなる.また,ビルの形状が直方型(または円柱型)から錐台型になるにしたがい,通勤交通のみの場合は,居住面積の割合が大きくなる.それから,通勤交通と施設訪問による交通の場合は,居住面積の割合が施設が配置されたところより高層部においては大きくなる.最後に,通勤交通と人人交通の場合は,直方型(または円柱型)ビルにおいては居住面積の割合の最小位置が地面からビルの高さの半分のところまで移動するが,錐台型ビルにおいては半分のところまで行かない.

 2.通勤交通のみの場合は,低いところの居住面積の割合が小さくなる.そして,通勤交通と人人交通の場合は,通勤交通の発生率が小さくなるにしたがい,居住面積の割合の最小位置が地面から上に向けて移動する一方,居住面積の割合の底面積による影響が著しくなる.また,通勤交通と施設訪問による交通の場合は,通勤交通の発生率が小さくなるにしたがい,居住面積の割合が大きくなるとともに,居住面積の割合の施設配置による影響が著しくなる.最後に,人と人の間で発生している確率,あるいは人が施設を訪問する確率が大きくなるにしたがい,居住面積の割合が小さくなると同時に,居住面積の割合に対する底面積,あるいは施設配置の影響が著しくなる.

 第二部分(高層ビルの効率性解析)では,高層ビルの内部交通を考慮したビル効率係数,投資効率係数を定めたうえ,上で述べた高層ビルの内部交通に関して,さまざまなパラメータによる高層ビルの効率性を解析する方法を提案した.具体的には,通勤交通に加えて,通勤交通と人人交通,通勤交通と施設訪問による交通に関して,総投資コストが一定であるとき,収容人口が最大であるようなビルの効率的形状,あるいは収容人口が一定であるとき,総投資コストが最小であるようなビルの効率的形状を求める問題を定式化し,種々のケースについて数値計算を行ったうえ最適な形状を求めた.このほか,通勤交通におけるビル効率係数の性質,通勤交通,通勤交通と施設訪問による交通における最適施設配置などに関する議論も行った.

 この部分の内容においては,数値計算を行った範囲内のパラメータについて,次の結論が得られた.

 1.通勤交通において,ビルの居住部分の重心が低いほどビルの効率性がよい.

 2.通勤交通のみを考慮して建築したビルにおける施設配置問題,通勤交通と施設訪問による交通を考慮して建築するビルにおける施設配置問題の相対的な最適施設位置は,ビルの形状が錐体から直方(または円柱)になるにしたがい,上に向かって移動する.また,ビルの高さが高くなるにしたがい,上に向かって移動する傾向がみられる.

 3.ビルの効率的形状は,多くの場合は直方型(または円柱型)であるが,例えば通勤交通のみ,あるいは通勤交通と人人交通の場合は錐台型が最適となることもある.

 本論文の意義は,都市高層ビルの建築計画のごく初期の段階で,理論的な立場から単純な数理モデルを使って,通路面積,投資効率などについて大まかな予備的解析を行う方法を提案し,その有用性を示しているところにあると言えよう.

審査要旨

 大都市では,高価な土地を有効に利用するために大規模な高層ビルが多数建設される傾向にあり,最近では高さ1kmにも及ぶビルの建設の可能性についても検討がされている.高層ビルではエレベータが必須であるが,そのための通路面積はビル本来の建設目的であるオフィスあるいは住居用の面積を減少させるものであるから,円滑な交通と投資の有効性のバランスという観点から,適正な通路面積を確保することが重要である.

 本論文は,オペレーションズ・リサーチの立場からこの問題に取り組んだものであり,「都市高層ビルの内部交通解析に関する研究」と題し,4章からなる.

 第1章「はじめに」では,研究の背景や関連する既存の研究について述べ,本研究の位置付けと概観を行っている.

 第2章は「高層ビルの内部交通解析」と題し,まず高層ビルの数式モデルの導入とエレベータ用通路面積を定める積分方程式の定式化を行っている.ビルの形状としては,直方型と錐台型を考えている.またエレベータを利用する人の移動としては,オフィスビルにおける主要な移動である(1)通勤のためのものを基本にして,(2)これに加えてビル内の人同士の往来のための移動がある場合,及び(3)ビル内の人がビル内の施設を訪れるための移動が加わる場合を考察している.

 積分方程式は,パラメタが特別な値をとる場合には解析的に解けるが,一般には数値計算によって解を求める必要があるので,そのための計算公式を導出している.この公式を用いて種々のケースについて数値計算を行い,その結果例えば次のような傾向があることを導いている.(1)の場合には,ビルが高層のものになるほど有効面積率(建築面積に対する居住用面積の割合)が減少するが,同じ高さのビルなら直方型より錐台型の方が有効面積率が大きい.(2)の場合には,ビルの高さが一定なら,底面積が大きくなるほど有効面積率が低下する.(3)の場合は,施設の近くの交通量が増加するので,その近くではエレベータ用通路面積を多く確保する必要があり,したがってどこに施設を配置するかを決定することが重要な問題となる.

 第3章「高層ビルの効率性解析」では,土地の取得及びビルの建設に要する費用のうちのどの程度が居住用部分の建設費用となるかを表す「投資効率係数」を定義し,これに基づいてビルの効率的形状について議論を行っている.なお,土地の取得費用を考慮しなくてもよい場合には,この係数を特に「ビル効率係数」と呼んでいるが,この尺度によれば,居住部分の重心が低いほどビルの効率性が良いことが示される.一般の場合,施設を訪れる人々の総垂直移動距離あるいは平均垂直移動距離を最小にするためには施設をどこに配置したらよいかという問題を,制約付きの非線形計画問題として定式化し,数値計算によって最適位置を求めている.

 また,総投資コストが一定であるときに収容人口を最大にするビルの形状,あるいは収容人口が一定であるときに総投資コストを最小にするビルの形状を求めるという問題を考え,制約条件付きの投資効率係数最大化問題として定式化し,種々のケースについて数値計算を行って最適形状を求めている.多くの場合,直方体が最適な形状であるが,例えば通勤交通だけが存在する超高層ビルの場合,あるいはビル内の人同士の往来による交通だけを考える場合などには,錐台型が最適となることもあることを示している.

 第4章「おわりに」では,本研究で得られた結果をまとめ,今後の検討課題を述べている.

 以上を要するに,本論文は高層ビル内における円滑な垂直移動に必要なエレベータ用通路面積を算出するための数理モデルと,これを基にして非線形計画法によってビルの有効面積率を最大にするビル形状を求める方法を提案したものである.高層ビルの建築計画のごく初期の段階における種々の検討のなかに,このような観点からの検討を加えることは有効であると考えられ,オペレーションズ・リサーチの分野への貢献として評価できる.よって,本論文は博士(工学)の学位論文として合格と認められる.

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