核融合炉ブランケットで用いられるトリチウム増殖材の候補としては、酸化リチウムが挙げられる。ブランケット材は、核融合炉運転中生成するヘリウムイオン、線等に曝されることになる。そのため様々な照射条件下での欠陥の生成、及びその挙動を明らかにし、照射欠陥が増殖材中でのトリチウム移行に及ぼす影響を評価することが必要とされている。一方、照射効果が酸化リチウム中でのトリチウムの存在化学形に及ぼす影響については既に報告があり、照射によって生成した欠陥が深く関わっていることが知られている。酸化リチウム中に生成する多くの欠陥の中でも、Liコロイドはトリチウムと反応して高温下でも存在可能なLiTを形成する。したがって、リチウムコロイドの照射による生成はトリチウムの回収を考える上で重要である。 本論文は、酸化リチウムのin-situ発光測定による高温下での照射欠陥の挙動、リチウムコロイドを有する酸化リチウムからのトリチウム放出挙動の研究についてまとめたもので4つの章から構成される。 本論文の序章では、核融合ブランケット研究の背景や目的とともにこれまでの関連研究についてまとめている。特に本論文での主題である酸化リチウムの照射欠陥の挙動に関して本研究の位置付けを述べている。 第1章は、in-situ発光による照射欠陥の挙動に関する研究について述べている。第1節では線照射下での酸化リチウム単結晶発光測定について述べている。発光測定によって酸化リチウム単結晶の発光は、5.5-2.5eVに観測された。発光ピークの帰属を行い、4.70,3.72,3.30,2.87eVに観測されるピークは、それぞれ自己捕獲エキシトン,F0,F+,F2センターによるものであることと、4.13eVの発光は、試料自体に存在する欠陥かあるいは不純物によることを示した。 第2節は、原子炉照射下での発光測定について述べている。熱中性子照射下での発光は、高速中性子照射下によるものより強度が大きいことが観測された。これは、熱中性子下ではより多くの高エネルギートリチウムイオン及びHe3が生成し、その結果電子励起が促進され発光強度の増加につながったものであることを示した。更に発光スペクトルについても中性子エネルギー効果があることを示した。 第3節では、イオンビーム照射下での発光測定について述べている。イオンビーム照射開始直後、照射量の増加とともに発光強度は減少することを観測した。これは、酸素空孔の減少や欠陥クラスターの形成によるものと考えられる。さらに照射量を増加させた際、観測される各発光帯は2.35eVのピークを除き、線照射下でのものと同じ発光種によるものであることを示した。2.35eVのピークは、照射量の増加とともに強度を増す事から、Fセンターの集合体からの発光に帰属した。また、照射量の増加に伴う発光強度の増加はF2センターからの発光に帰属した。また、照射量の増加に伴う発光強度の増加をF2センターよりの発光(2.9eV)にも同様に観測した。軽イオン(H+,He+)照射下で温度上昇時に4.5-2.5eVに観測される"excess luminescence"についても詳細な検討を行っている。"excess luminescence"とは照射開始直後に観測される急激な発光強度の増加である。"excess luminescence"は試料が570-590K以下において前照射された場合にのみ観測され、その強度は照射線量、線量率、及び照射中の温度に依存する。また、照射しない試料において温度上昇のみ行った場合には観測されない事から、この現象が熱による欠陥の再結合とは無関係であり、室温状態での照射によって作成されたリチウムコロイドが570-590Kで分解し、その時照射下であることより分解して出来たF+,F0の発光によるものと結論された。 第4節では、X線照射下での発光測定について述べている。X線照射により"excess luminescence"の観測を行った。分析の結果、電子線照射により試料中には3.6E10+18atoms/gのLiコロイドが形成される事が判った。"excess luminescence"の観測は、293Kから673Kの温度範囲でX線照射下で行った。温度上昇時における熱・ラジオルミネッセンスの強度変化から、ラジオルミネッセンスには、熱による照射欠陥の再結合による発光と、X線照射による発光の両方が含まれる。X線照射下での"excess luminescence"は573Kから623Kにおいて観測された。この温度は、熱アニールによるLiコロイドの分解温度の測定結果(573-623K)と非常に良く一致していることを示した。 第2章では、照射欠陥を持つ酸化リチウムからのトリチウム放出挙動の研究について述べている。 第1節では、発光及びトリチウム放出の同時測定について述べている。トリチウム放出挙動に対する照射欠陥の効果を調べるために、多結晶酸化リチウム(80て中性子照射下発光測定及びスイープガスによるトリチウム回収実験を行った。測定前にアニールもしくは電子線照射を行った試料に対する温度上昇時における発光強度変化から、熱ルミネッセンスによるピークは、アニールした試料では300-410K、115MGy電子線照射した試料では410-650Kで観測した。この結果から、アニール試料ではFセンターが形成され、電子線照射した試料中にはFセンターの集合体が形成されることを示唆した。多結晶試料からのトリチウム放出挙動から、室温でシャープなトリチウム回収ピークが観測され、トリチウム放出率はすぐに定常になることを示した。しかしながら、電子線にて前照射した試料では、トリチウム放出はアニールした試料より遅いことがわかった。 第2節は、炉外におけるトリチウム回収実験について述べている。多結晶酸化リチウム試料を、電子線照射の後熱中性子照射し、炉外において窒素スイープガスによるトリチウム回収実験を行った。トリチウム放出曲線には、二つのブロードなピークが観測され、一つは600Kにおいて放出がはじまり800Kで最大値、もう一つは950Kで放出がはじまり1150及び1270Kで最大となることを観測した。800Kのピークは試料表面に物理・化学吸着しているトリチウムの放出や、LiOTの分解によるものであることを示した。より高温で観測される2番目のピークは、Liコロイドとトリチウムの反応によってできたLiTの分解によるものである事を示した。ピークが1150K,1270Kと分かれているのはLiTの固相から液相への相変化が起こっていることを明らかにした。このようにリチウムコロイドはトリチウム放出挙動に影響する事を明らかにした。 結論では本論文の成果と今後の課題をまとめている。以上のように本論文は、核融合ブランケットトリチウム増殖材のリチウムセラミックスに関する照射欠陥の挙動とトリチウム放出挙動について述べたのもであり、システム量子工学特に核融合炉工学の進展に寄与する所が少なくない。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |