学位論文要旨



No 113021
著者(漢字) グリシュマノフ,ヴィクトール
著者(英字)
著者(カナ) グリシュマノフ,ヴィクトール
標題(和) Li2Oにおける照射欠陥とそのトリチウム放出への影響に関する研究
標題(洋) STUDY ON RADIATION DEFECTS IN Li2O AND THEIR INFLUENCE ON TRITIUM RELEASE
報告番号 113021
報告番号 甲13021
学位授与日 1997.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3998号
研究科 工学系研究科
専攻 システム量子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 田中,知
 東京大学 教授 山脇,道夫
 東京大学 教授 野田,哲二
 東京大学 助教授 関村,直人
 東京大学 助教授 山口,憲司
 東京大学 助教授 寺井,隆幸
内容要旨 1.研究の背景

 核融合炉ブランケットで用いられるトリチウム増殖材の候補としては、酸化リチウムが挙げられる。ブランケット材は、核融合炉運転中に中性子、6Li(n,)3H反応で生成するヘリウムイオン、線等に曝されることになる。本研究では様々な照射条件下での欠陥の生成、及びその挙動を明らかにするため、線、原子炉、イオンビーム照射下でのin-situ発光測定を行った。本手法により、高温下での照射欠陥の挙動に関する知見を得ることができる。この様な知見は、照射欠陥が増殖材中でのトリチウム移行に及ぼす影響を評価するために必要不可欠である。

 照射効果がLi2O中でのトリチウムの存在化学形(T+,T-,T0)に及ぼす影響については既に報告があり、照射によって生成した欠陥が深く関わっていることが知られている。Li2O中に生成する多くの欠陥の中でも、Liコロイドはトリチウムと反応して高温下でも存在可能なLiTを形成する。したがって、リチウムコロイドの照射による生成はトリチウムの回収を考える上で重要である。Li2O中でのLiコロイドの生成は高照射量で促進されるため、140MGyの電子線照射した試料を用いることにより照射量がトリチウム回収に与える影響を調べた。

2.線下での発光測定

 原子炉、イオンビーム照射により結晶は損傷を受け、空孔や格子間原子を生成する。また、線照射では主として電子励起が起こるため、線による発光を測定することにより試料中に存在するintrinsic defectsに関する情報を得ることができる。

 実験にはLi2Oの単結晶試料を用いた。照射前に、試料は773Kあるいは1073K、10-4Paの真空下において10時間アニールを行う。アニール後の試料は、2種類の冷却速度(50K/hour,400K/hour)で室温に戻した。線照射は60Co線源を用い、0.2Gy/sで77-298Kにおいて行った。サンプルからの発光は、内面を研磨したアルミ管、石英レンズを用いて分光器へと導かれ、フォトカウンティングシステムで計測する。

 Li2O単結晶の発光は、5.5-2.5eVに観測される。図1に298Kで測定した発光スペクトルを示す。試料は773K,10-4Paでアニールした後、50K/hourで室温に冷却したものを用いた。4.70eVの発光ピークは自己捕獲エキシトンによるものである。また、3.72,3.30,2.87 eVに観測されるピークは、それぞれF0,F+,F2センターからの発光に帰属される。4.13eVの発光は、試料自体に存在する欠陥かあるいは不純物によるものと考えられる。

図1:Luminescence spectrum of Li2O at 298 K emitted after -ray irradiation.

 発光スペクトルは、照射前の試料の熱処理に強く依存する。3.3eVの発光帯(F+ center)はクエンチングにより強度を増すことが観測された。最も強いF+センターからの発光が観測されたのは、1073Kでアニールを行い、400K/hrで冷却した試料であった。この様な真空下での熱処理は試料中の酸素空孔濃度の増加につながり、酸素空孔が電子を捕らえることによりF+センターが生成し、従ってF+センターからの発光強度が増加したものと考えられる。その他の発光帯については明確な熱処理の効果は認められなかった。

 発光スペクトルの温度依存性は、熱処理により欠陥濃度を高めた試料を用いて行った。図2に各発光帯強度の温度依存性を示す。高温下における発光強度の減少は、低温では発光によって緩和していた励起種が高温下では他のプロセスによって脱励起されるためであると考えられる。この遷移に必要な活性化エネルギーは図2に示したMott-fittingから4.70eV,4.13eV,3.72eVの各発光帯に対して、それぞれ380meV,140meV,115meVであることが判った。

図2:The temperature dependence of integrated intensities of emission bands.
3.原子炉照射下での発光測定

 照射欠陥挙動の温度、中性子束、雰囲気ガスの化学組成等に対する依存性を調べるために、原子炉照射下での発光スペクトルの測定を77-873Kにおいて行った。試料にはLi2O単結晶を用い、東京大学弥生炉の高速中性子(約1.3MeV)及び熱中性子の照射をN2あるいはN2+H2ガス雰囲気下で行う。スイープガスの化学組成、特にH2は高温でのLi2Oの表面状態に大きく影響を及ぼすものと考えられる。

 Li2Oからの発光は、5.0-2.0eVに観測された(図3)。図中の各発光帯は次のように帰属される。3.69eV-F0センター;3.32eV-F+センター;2.88eV-F2センター;2.43eV-表面OH基の影響を受けたF2センター。4.09eVのピークはInstrinsic defectかあるいは不純物によるものと考えられる。観測される発光スペクトル及びその強度は温度に強く依存した。図4に各発光帯の温度依存性を示す。4.09eVのピーク強度は他のピークに比べ温度上昇時に急激に減少することがわかる。673K以上においては、発光は主にF0センター(3.69eV)及びF+センター(3.32eV)からのものである。

図3:Luminescence spectrum of Li2O at 473 K emitted after reactor irradiation.図4:The temperature dependences of integrated intensities of emission bands.

 熱中性子照射下での発光は、高速中性子照射下によるものより強度が大きかった。熱中性子下ではより多くの高エネルギーT+及び3Heが生成し、その結果電子励起が促進され発光強度の増加につながったものと考えられる。

 発光の雰囲気組成依存性の測定には、多結晶Li2Oを用いる。発光スペクトルの変化を測定するため873Kにおいて雰囲気ガスをN2からN2+H2に変化させ、20時間経過した際の発光測定を行った。N2中にH2を添加することにより、4.1-2.9eVの発光強度が増加し、2.9-2.3eVの発光が減少することが観測された。スイープガス中のH2との反応により表面OH基が除去され、その結果OH基による2.9-2.3eVの発光強度が減少したと考えられる。表面OH基はFセンターの発光を減少させ、代わって不純物による発光中心のように2.9-2.3eVの発光を誘起する事がわかった。

4.イオンビーム下での発光測定

 イオンビーム照射下での発光測定にはLi2O単結晶試料を用いた。発光は、H+あるいはHe+イオンビーム(1MeV,10-320nA/cm2,303-773K)照射下でマルチチャンネル検出器を用いて測定した。図5に423K,1MeV He+イオン照射下での発光スペクトルの測定結果を示す。照射開始直後、照射量の増加とともに発光強度は減少する。これは、酸素空孔の減少によるものと考えられる。また、欠陥クラスターの形成もその理由として挙げられる。さらに照射量を増加させた際のスペクトル変化を図6に示す。観測される各発光帯は2.35eVのピークを除き、線照射下でのものと同じ発光種によるものと考えられる。2.35eVのピークは、照射量の増加とともに強度を増す事から、Fセンターの集合体からの発光に帰属できる。また、照射量の増加に伴う発光強度の増加はF2体からの発光に帰属できる。また、照射量の増加に伴う発光強度の増加はF2センターよりの発光(2.9eV)にも同様に観測された。

図5:Luminescence spectrum of Li2O at 423 K emitted after He+ ion beam irradiation.図6:Luminescence spectrum of Li2O at 423 K emitted after He+ ion beam irradiation.

 軽イオン(H+,He+)照射下で温度上昇時に4.5-2.5eVに観測される"excess luminescence"についても詳細な検討を行った。"excess luminescence"とは照射開始直後に観測される急激な発光強度の増加である。図7に"excess luminescence"が観測された際の発光スペクトルを示す。発光スペクトル(A)及び(B)はそれぞれ1MeV H+照射下、473Kにおいて、それぞれ照射開始後5sec及び30min後の測定結果である。"excess luminescence"は試料が570-590K以下において照射された場合にのみ観測され、その強度は照射線量、線量率、及び照射中の温度に依存する。また、照射しない試料において温度上昇のみ行った場合には観測されない事から、この現象が熱による欠陥の再結合とは無関係である事が判る。

図7:Luminescence emitted in Li2O by He+ ion irradiation during the temperature transient 473-733 K.

 この"excess luminescence"のメカニズムとしては、Liコロイドの熱による分解が挙げられる。リチウムコロイドが高温で分解すると、F+,F0センターや、酸素空孔が生成する。生成した酸素空孔は照射下で電子を捕獲して励起されたFセンターを形成し、その緩和にともない"excess luminescence"が生じる。このメカニズムを検証するため、多結晶酸化リチウム試料に電子線照射(105MGy)を行い、X線照射により"excess luminescence"の観測を行った。分析の結果、電子線照射により試料中には3.6-1018atoms/gのLiコロイドが形成される事が判った。excess luminescence"の観測は、293Kから673Kの温度範囲でX線照射下で行った。図8に温度上昇時における熱・ラジオルミネッセンスの強度変化を示す。ラジオルミネッセンスには、熱による照射欠陥の再結合による発光と、X線照射による発光の両方が含まれる。X線照射下での"excess luminescence"は573Kから623Kにおいて観測された。この温度は、熱アニールによるLiコロイドの分解温度の測定結果(573-623K)と非常に良く一致している。

図8:Thermo-and radio-luminescences (emitted by X-rays)in the reference sample.
5.発光及びトリチウム放出の同時測定

 トリチウム放出挙動に対する照射欠陥の効果を調べるために、多結晶酸化リチウム(80照射を行う。その後、東大弥生炉において中性子照射下発光測定及びトリチウム回収実験を行った。生成したトリチウムはN2+H2(1.0%)のスイープガスにて回収する。また、電子線照射にて照射した試料と同様に、熱アニール後の試料についても測定した。試料中に存在する照射欠陥は、発光測定により評価することができる。293-873Kの温度上昇時には、試料からの熱及びラジオルミネッセンスが観測される。熱ルミネッセンスは、電子とホールの再結合によって生じるため、その測定により照射欠陥に関する重要な情報を得ることができる。図9に測定前にアニールまたは、電子線照射を行った試料に対する温度上昇時における発光強度変化を示す。熱ルミネッセンスによるピークがアニールした試料では300-410K、115MGy電子線照射した試料では410-650Kで観測される。この結果は、アニール試料ではFセンターが形成され、電子線照射した試料中にはFセンターの集合体が形成されることを示唆している。

 多結晶試料からのトリチウム放出挙動を図10に示す。室温にて1017 thermal neutrons/m2のフルエンスで照射した試料では、900Kに温度をあげるとシャープなトリチウム回収ピークが観測され、トリチウム放出率はすぐに定常になる。しかしながら、電子線にて前照射した試料では、トリチウム放出はアニールした試料より遅いことが判る。また、原子炉運転中及び停止後1時間において放出された全トリチウム量を計算すると、前照射した試料の方が10-40%程度放出量が少く、減少量は照射線量に依存することが判った。これは、トリチウムが照射欠陥と相互作用してトリチウムの存在化学形が変化し、高温でも安定なLi-T結合を生成したためではないかと考えられる。

図9:In-situ-luminescence measurement from Li2O during the temperature transient 300-900 K.図10:Tritium recovery peaks for a temperature transient 300-900 K in the sweep gas of N3+1% H2.
6.炉外におけるトリチウム回収実験

 多結晶Li2O試料を、電子線加速器(2.2MeV,8kGy/s)によって100MGy照射を行う。その後、試料を1017thermal neutrons/m2で熱中性子照射し、炉外においてトリチウム回収実験を行った。温度10K/minで293Kか1273Kまで昇温する。放出されるトリチウムはN2スイープガスによって回収される。トリチウム放出曲線には、二つのプロードなピークが観測される(図11)。一つは600Kにおいて放出がはじまり800Kで最大値、もう一つは950Kで放出がはじまり1150及び1270Kで最大となる。800Kのピークは試料表面に物理・化学吸着しているトリチウムの放出や、LiOTの分解によるものであると考えられる。より高温で観測される2番目のピークは、Liコロイドとトリチウムの反応によってできたLiTの分解によるものである。ピークが1150K,1270Kと分かれているのはLiTの固相から液相への相変化が起こっているためである。

図11:Out-of-pile tritium release from Li2O pre-irradiated by electrons to 75 MGy. The temperature ramp is 10 K/min.
7.結論

 Li2Oの発光スペクトルは照射条件に強く依存する。自己捕獲エキシトン、F0,F+,F2センターからの発光は、線、中性子、イオンビーム照射下で観測された。また、Fセンター集合体からの発光は高照射線量であると考えられるイオンビーム照射下でのみ観測された。

 イオンビーム照射下で観測される"excess luminescence"は、Liコロイドの熱分解を考える事により説明できる。Liコロイドが分解すると、Fセンター、酸素空孔、格子間Li等が生成する。酸素空孔は照射下で電子を捕獲してFセンターを形成し、その緩和時に発光(excess luminescence)が生じる。

 トリチウム放出は電子線照射によってできる照射欠陥によって影響を受ける。高照射線量下ではトリチウムと照射欠陥の相互作用により高温でも安定なLiTが形成され、トリチウム滞留時間、インベントリーの増加につながるものと考えられる。

審査要旨

 核融合炉ブランケットで用いられるトリチウム増殖材の候補としては、酸化リチウムが挙げられる。ブランケット材は、核融合炉運転中生成するヘリウムイオン、線等に曝されることになる。そのため様々な照射条件下での欠陥の生成、及びその挙動を明らかにし、照射欠陥が増殖材中でのトリチウム移行に及ぼす影響を評価することが必要とされている。一方、照射効果が酸化リチウム中でのトリチウムの存在化学形に及ぼす影響については既に報告があり、照射によって生成した欠陥が深く関わっていることが知られている。酸化リチウム中に生成する多くの欠陥の中でも、Liコロイドはトリチウムと反応して高温下でも存在可能なLiTを形成する。したがって、リチウムコロイドの照射による生成はトリチウムの回収を考える上で重要である。

 本論文は、酸化リチウムのin-situ発光測定による高温下での照射欠陥の挙動、リチウムコロイドを有する酸化リチウムからのトリチウム放出挙動の研究についてまとめたもので4つの章から構成される。

 本論文の序章では、核融合ブランケット研究の背景や目的とともにこれまでの関連研究についてまとめている。特に本論文での主題である酸化リチウムの照射欠陥の挙動に関して本研究の位置付けを述べている。

 第1章は、in-situ発光による照射欠陥の挙動に関する研究について述べている。第1節では線照射下での酸化リチウム単結晶発光測定について述べている。発光測定によって酸化リチウム単結晶の発光は、5.5-2.5eVに観測された。発光ピークの帰属を行い、4.70,3.72,3.30,2.87eVに観測されるピークは、それぞれ自己捕獲エキシトン,F0,F+,F2センターによるものであることと、4.13eVの発光は、試料自体に存在する欠陥かあるいは不純物によることを示した。

 第2節は、原子炉照射下での発光測定について述べている。熱中性子照射下での発光は、高速中性子照射下によるものより強度が大きいことが観測された。これは、熱中性子下ではより多くの高エネルギートリチウムイオン及びHe3が生成し、その結果電子励起が促進され発光強度の増加につながったものであることを示した。更に発光スペクトルについても中性子エネルギー効果があることを示した。

 第3節では、イオンビーム照射下での発光測定について述べている。イオンビーム照射開始直後、照射量の増加とともに発光強度は減少することを観測した。これは、酸素空孔の減少や欠陥クラスターの形成によるものと考えられる。さらに照射量を増加させた際、観測される各発光帯は2.35eVのピークを除き、線照射下でのものと同じ発光種によるものであることを示した。2.35eVのピークは、照射量の増加とともに強度を増す事から、Fセンターの集合体からの発光に帰属した。また、照射量の増加に伴う発光強度の増加はF2センターからの発光に帰属した。また、照射量の増加に伴う発光強度の増加をF2センターよりの発光(2.9eV)にも同様に観測した。軽イオン(H+,He+)照射下で温度上昇時に4.5-2.5eVに観測される"excess luminescence"についても詳細な検討を行っている。"excess luminescence"とは照射開始直後に観測される急激な発光強度の増加である。"excess luminescence"は試料が570-590K以下において前照射された場合にのみ観測され、その強度は照射線量、線量率、及び照射中の温度に依存する。また、照射しない試料において温度上昇のみ行った場合には観測されない事から、この現象が熱による欠陥の再結合とは無関係であり、室温状態での照射によって作成されたリチウムコロイドが570-590Kで分解し、その時照射下であることより分解して出来たF+,F0の発光によるものと結論された。

 第4節では、X線照射下での発光測定について述べている。X線照射により"excess luminescence"の観測を行った。分析の結果、電子線照射により試料中には3.6E10+18atoms/gのLiコロイドが形成される事が判った。"excess luminescence"の観測は、293Kから673Kの温度範囲でX線照射下で行った。温度上昇時における熱・ラジオルミネッセンスの強度変化から、ラジオルミネッセンスには、熱による照射欠陥の再結合による発光と、X線照射による発光の両方が含まれる。X線照射下での"excess luminescence"は573Kから623Kにおいて観測された。この温度は、熱アニールによるLiコロイドの分解温度の測定結果(573-623K)と非常に良く一致していることを示した。

 第2章では、照射欠陥を持つ酸化リチウムからのトリチウム放出挙動の研究について述べている。

 第1節では、発光及びトリチウム放出の同時測定について述べている。トリチウム放出挙動に対する照射欠陥の効果を調べるために、多結晶酸化リチウム(80て中性子照射下発光測定及びスイープガスによるトリチウム回収実験を行った。測定前にアニールもしくは電子線照射を行った試料に対する温度上昇時における発光強度変化から、熱ルミネッセンスによるピークは、アニールした試料では300-410K、115MGy電子線照射した試料では410-650Kで観測した。この結果から、アニール試料ではFセンターが形成され、電子線照射した試料中にはFセンターの集合体が形成されることを示唆した。多結晶試料からのトリチウム放出挙動から、室温でシャープなトリチウム回収ピークが観測され、トリチウム放出率はすぐに定常になることを示した。しかしながら、電子線にて前照射した試料では、トリチウム放出はアニールした試料より遅いことがわかった。

 第2節は、炉外におけるトリチウム回収実験について述べている。多結晶酸化リチウム試料を、電子線照射の後熱中性子照射し、炉外において窒素スイープガスによるトリチウム回収実験を行った。トリチウム放出曲線には、二つのブロードなピークが観測され、一つは600Kにおいて放出がはじまり800Kで最大値、もう一つは950Kで放出がはじまり1150及び1270Kで最大となることを観測した。800Kのピークは試料表面に物理・化学吸着しているトリチウムの放出や、LiOTの分解によるものであることを示した。より高温で観測される2番目のピークは、Liコロイドとトリチウムの反応によってできたLiTの分解によるものである事を示した。ピークが1150K,1270Kと分かれているのはLiTの固相から液相への相変化が起こっていることを明らかにした。このようにリチウムコロイドはトリチウム放出挙動に影響する事を明らかにした。

 結論では本論文の成果と今後の課題をまとめている。以上のように本論文は、核融合ブランケットトリチウム増殖材のリチウムセラミックスに関する照射欠陥の挙動とトリチウム放出挙動について述べたのもであり、システム量子工学特に核融合炉工学の進展に寄与する所が少なくない。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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