光通信用に用いられている光ファイバーを、特徴のある光センサーとして用いることが最近、盛んに研究され一部は実用化され始めている。この光センサーは、分布センサーと呼ばれ、光ファイバーに沿って一次元的な長さ方向の分布量が測定できるのが、最大の特徴で、例えば温度分布を長さ1〜2kmに渡って測定するという例が代表的なものである。 このような光ファイバーを用いた分布センシングを用いて、新しい原子力計装システムの研究を行うというのが、本論文の目的で論文は、結論を含めて10章で構成されている。 第1章は緒言で、本論文の目的について述べており、光ファイバーを、原子力環境にて利用するため、中性子、ガンマ線に対する放射線損傷を評価すること、これが向上してきたので原子力計装に利用できるようになってきたことが述べられている。 第2章は、光ファイバーの特性、製作法や機械的強度などについてまとめており、特に、各不純物と光吸収体の波長について詳しい。 第3章は、シリコンをベースにした光ファイバーの放射線損傷についてまとめており、ガンマ線によって生ずる電子励起型のものと、中性子によって生ずる反跳型損失を区別して説明し、最後に電子の再配置型についても紹介している。次に、Si中のカラーセンターについて紹介し、拡散やアニーリング効果の影響についても触れている。次に、この光ファイバーをCo-60ガンマ線照射の場合につき、温度効果を10℃〜300℃について示し、またフォトブリーチング効果を説明している。更に、同様な放射線照射効果について、高速中性子の場合を示し、ガンマ線とは様相が異なって、数時間のオーダーでは、飽和現象を示さない蓄積型の損傷になることを示している。いずれにしろ、この放射線損傷については、あらかじめ適用できるような一般的モデルがないので、その都度、測定せざるを得ないことが説明されている。 第4章は、原子力環境で使用するような光ファイバーセンサーについての、一般的な得失、必要性、可能性についてまとめたもので、特に配管系の漏れの測定に適しているとの検討結果を示している。 第5章は、光ファイバー分布センシングに一般的に用いられる手法としてのOTDR(Optical Time Domain Refractometry)について紹介している。その原理、応用について説明し、特に放射線の線量分布を測定する際のRayleigh散乱による方法について詳しく検討している。 第6章は、ラマン散乱を用いて温度分布を測定する方法について紹介しており、特に、放射線照射に伴って生ずる光ファイバーの損傷効果や、温度測定上の誤差について検討している。放射線照射によって、ラマン散乱波長自身がずれるかどうかについては詳しく議論している。また、測定法についても単純な開放端型からスタートして、両端の閉じた端部処理法についてそれぞれ考察している。 部処理法についてそれぞれ考察している。 第7章は、純石英ファイバーについて、これをラマン散乱型温度計に用いた場合の放射線損傷の効果についてまとめたものであり、これが温度効果を持つことから、その補正法と誤差についてまとめている。 第8章は、日立電線の光ファイバー型温度計FTRの放射線環境への適用性、特に高速実験炉、常陽の一次ループまわりでの適用性について実験的にまとめたものである。現在、本実験は更に進行中であるが、7.23×103R/hで150hrの利用経験、サーモカップルとの比較、この測定系の誤差についてまとめ、その適用は順調としている。 第9章は、光ファイバー温度計として、全く新しい原理についての紹介で、プランクの黒体ふく射の公式を用いた500〜2000℃で利用可能な方式の説明である。これは著者自身の独創的な方式で、分布センサーとしての特質は失われるが、より高温迄、利用可能という点に大きなメリットがある。 第10章は、結論で、このような光ファイバーの原子力計装へ利用が可能であることを初めて実証したことについては、大きな意義があるとまとめている。 本研究は、光ファイバーによる配管表面の温度分布測定という計測システムが可能であることを示した点で、原子力計装の新しい方向性を示したことについてのその意義は大きい。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |