本論文は、超塑性を示すガラス添加正方晶ジルコニア多結晶(TZP)について、ガラス相が微細組織、高温変形特性及び延性に及ぼす影響を系統的に検討した結果についてまとめたものである。本論文は全体として6章より構成されている。 第1章は序論で、ジルコニア、ガラス、超塑性変形機構、ガラス添加セラミックスの超塑性変形などについての従来の知見を述べている。 第2章は、-spodumeneガラス相を添加したTZPの超塑性形挙動及び延性についての結果を示している。その中で、-spodumeneガラスの添加は、TZPの超塑性挙動に大きく影響し、その変形応力を著しく低下させることを見出している。一方、その破断伸びはガラス無添加TZPより小さいことを示し、TZPの高温延性が変形応力とは直接対応しないことを明らかにしている。この場合、粒界破壊を示すが、破壊がガラス相内あるいはガラス相と母相の界面のいずれかで生じることについて考察している。また、-spodumeneガラス添加TZPの高温延性は-spodumeneガラス-セラミックスより小さいことから、-spodumeneガラス添加TZPの延性の低下はガラス相の性質のみだけではなく、ガラス相と母相の界面の性質に大きく影響されることを指摘している。 第3章は、TZPおよびSiO2ガラス添加TZPの微細組織について述べている。その中で、ガラス無添加高純度TZP焼結体は、直線的な粒界を有す結晶粒から構成されており、結晶同士が直接接合していることを明らかにしている。また、その粒界には、Y3+が数nmの幅で偏析していることを確認している。一方、SiO2ガラス添加TZP焼結体の結晶粒形状は丸みを帯びており、SiO2アモルファス相が粒界多重点に存在すること、また二粒子境界にはアモルファス相が存在しないことなどについても明らかにしている。この結果は、現在までに報告されている粒界ガラス相添加TZPの結果と異なっている。しかし、SiO2ガラス添加TZPの結晶粒界における二面角が約80゜であるという事実は、アモルファス相がZrO2の結晶粒界を濡らしていないことを示唆しており、本実験結果と符合する。また、粒界において結晶粒が直接接合していることから、TZPの粒界エネルギーはかなり低いものと考えている。さらに、EDS分析の結果から、Si4+とY3+が共に粒界近傍に偏析しており、偏析の幅は両者共数nm程度であることを明らかにしている。 第4章は、純SiO2ガラス相への微量の酸化物添加の効果について検討を行った結果について述べている。微量の酸化物の添加が、SiO2ガラス添加TZPの変形応力および高温延性を大きく変化させる効果について議論し、特に破断伸びは、微量のMgOあるいはAl2O3を添加することによって著しく低下するという結果を得ている。また、SiO2-MgOガラス添加TZPおよびSiO2-Al2O3ガラス添加TZPは、純SiO2ガラス添加TZPと同様に、アモルファス相が結晶粒界を完全には濡らしておらず、粒界多重点のみに存在していることを明らかにしている。さらに、SiO2-MgOガラス添加TZPおよびSiO2-Al2O3ガラス添加TZPの粒界近傍にY3+、Si4+および添加元素(Mg2+あるいはAl3+)が数nmの幅で偏析していることについても明らかにしている。以上の結果から、SiO2ガラス添加はTZPの超塑性変形において二つの役割を果たすことを指摘している。一つは、粒界多重点にアモルファス相のプールを形成することである。すなわち、このアモルファスプールは、粒界すべりに伴う応力集中の緩和に有効に作用するものと考えている。したがって、ガラスプールの特性は変形応力の低下と密接に関係しているものと結論づけている。二つめの役割として、添加したガラスおよび微量酸化物中の元素が結晶粒界に偏析することにより、その化学結合状態を変化させる効果を考えている。 第5章は、ガラス添加TZPの高温延性について述べている。種々のガラス添加TZPの実験結果から、変形応力の低下は必ずしも高温延性の改善には有効ではないことを明らかにしている。また、ガラス添加TZPの破断伸びは変形温度の上昇に伴い増大するが、ある臨界温度で最大破断伸びを示した後、減少することについても見出している。この様な高温延性挙動は、Kondoらの提案した延性に関する理論的解析によって整理できることを示している。 第6章は、本論文の総括である。 以上を要するに、本論文の研究はガラス添加セラミックスの超塑性と微細構造に関する基礎的知見を与えたものであり、材料学の進歩に寄与するところ大であり、よって本論文は博士(工学)の学位論文請求論文として合格と認められる。 |