本論文は、メタンの炭酸ガスリフォーミング反応における高性能ニッケル系触媒の開発と活性劣化機構を検討したものであり、全体で7章からなる。 第1章は、緒言であり、メタンの炭酸ガスリフォーミング反応についての背景やこれまでの触媒開発の成果や問題点についてまとめており、特に本反応の最大の問題点とされている炭素析出の熱力学的側面からの検討や、析出炭素の性質などについて、反応機構と共に紹介し、この最大の問題点を解決することを本研究の目的とすることを述べている。 第2章においては、炭素析出することなく安定した高い活性を持つことが見出されているニッケル-マグネシア固溶体触媒(Ni0.03Mg0.97O)について、触媒構造と炭素析出特性との相関を、より高いニッケル量を持つ固溶体触媒及び担持法により調製し、これらと比較することにより検討した。炭素析出は低分散度のニッケル粒子で進行しやすく、高分散のニッケルでは進行しにくいことを見出し、本反応系における炭素析出抑制機構として、二酸化炭素分子の金属-担体界面における活性化により生じた活性酸素種によるニッケル表面上に吸着した炭化水素種の選択的酸化が寄与が有る示唆を得た。 第3章においては、ニッケル-マグネシア固溶体触媒へPt,Pd,Rh等の貴金属の添加効果を検討した。本固溶体触媒の問題点として低温反応領域における酸化による活性劣化が指摘されている。これに対して、貴金属添加は、触媒表面の還元性を向上させ、活性点の酸化による劣化を大きく抑制し、また、同時に還元されたニッケルと合金微粒子を形成することにより、メタンの解離反応が促進を受け、その結果として触媒反応活性がさらに向上することを明らかにした。 第4章においては、ニッケル-マグネシア表面と水の相互作用及び水酸化物生成を利用し、表面構造の再構成に伴う触媒特性の向上について検討した。本固溶体触媒は水処理を施すことにより、低温領域での触媒反応活性及び安定性が向上することを見出し、その理由として、水酸化物の脱水反応による酸化物生成におけるBET表面積の増加、同時にニッケル還元度の増加が寄与していることを明らかにしており、固溶体触媒の調製における前駆体の重要性を指摘している。 第5章においては、ニッケル-マグネシア固溶体及び担持触媒について、触媒反応中に触媒表面上に生成する炭化水素種を昇温水素化還元法を用いて検討したところ、2種類の炭素種が存在することを見出した。一方は、主に担体表面上に吸着した二酸化炭素に起因し、その濃度が触媒反応活性と比較的よく対応することから、反応中間体であるという示唆を得た。また、一方は析出炭素種であると帰属し、析出炭素種が反応時間に比例して増加するが、その反応性は触媒の種類によらずほとんど変化がないという結果を得ており、炭素種は触媒表面と相互作用をあまり持たないフィラメント上の炭素であると推定された。 第6章においては、第5章で観測された析出炭素種の挙動をより詳細に熱重量分析法と透過型電子顕微鏡を用いて検討した。メタンの炭酸ガスリフォーミング反応における炭素析出反応であるメタンの分解反応及び一酸化炭素の不均化反応についても合わせて検討した。メタンの分解反応においては、粒径の大小によらず迅速に炭素析出が進行するのに対して、メタンの炭酸ガスリフォーミング反応下においては、粒径の大きなニッケルにのみ炭素の析出が進行することを明らかにした。これは、二酸化炭素共存効果が粒径により大きく異なることを示すものであり、第2章などで提案した、炭素析出の抑制に金属-担体界面における二酸化炭素の活性化が重要であることの直接証拠といえる。また、アルミナ担体との比較も行っており、担体の塩基性が重要であることを明らかにした。 第7章では、全体総括を行っており、これらの研究がニッケル-マグネシア固溶体触媒における炭素析出抑制機構を解明するのみならず、メタンの炭酸ガスリフォーミング反応用高性能触媒の開発の指針となることを述べている。 よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |