学位論文要旨



No 113031
著者(漢字) ラビィ,アフサネ
著者(英字)
著者(カナ) ラビィ,アフサネ
標題(和) アルミニウム基複合材料の破壊過程と破壊機構
標題(洋) Fracture Process and Failure Mechanisms in Aluminum Based Metal Matrix Composites
報告番号 113031
報告番号 甲13031
学位授与日 1997.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4008号
研究科 工学系研究科
専攻 先端学際工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岸,輝雄
 東京大学 教授 武田,展雄
 東京大学 教授 須賀,唯知
 東京大学 助教授 香川,豊
 東京大学 助教授 榎,学
内容要旨

 6061アルミニウム合金マトリックスにSiC及びAl2O3粒子を分散させた金属基複合材料(MMC)のaging挙動、破壊過程、力学的性質などに及ぼす分散粒子の寸法及び体積率の影響を調べた。

 6061アルミニウム合金をマトリックスとして粉末冶金法により作製したMMCに対して、常温破壊靭性、in-situ SEMとAcoustic Emission(AE)の同時測定、TEM観察、SEM破面観察などを行った。分散粒子としてSiC粒子とAl2O3粒子を用いた。SiCの場合は1,10,20mの粒子を10,30%、Al2O3の場合は1,5,10,20mの粒子を各10,20,30%分散したものを作製した。作製されたMMCに対しては、as-extrusion及びpeak-agingの二つの状態に対して実験を行った。peak-aging条件は硬度が最大になる温度と時間より決められた。

 本研究で用いたほとんどの材料において160℃,8hrの熱処理により最大硬度に達した。故に、SiC及びAl2O3粒子分散複合材料の析出挙動は160℃,8hrのpeak-aging後にTEM観察を行った。幾つかの例外を除くと、析出速度及び析出物の分散状態はSiCとAl2O3粒子分散材の両方において同様であった。異なる点は、Al2O3粒子分散の場合はAl/Al2O3界面にMgがかなり集中しているのが観察されたが、Al/SiC界面ではAl/Al2O3界面に比べて全体的に不純物の量が少なかったことである。

 今日、硬度と降伏強度により調べられた6061アルミニウム合金のaging挙動は粒子の添加により加速されることが知られているが、本材料に対するTEM観察によると、複合化に伴う加速されたaging挙動は見られなかった。Vickers硬度で調べたaging挙動は6061アルミニウム合金とその複合材料において同様なものであった。

 小さいAl2O3粒子を高体積率で分散させた複合材料の場合、SiC粒子分散材に比べて粒子まわりの転位密度が低いためマトリックス中での析出速度は低下した。結果的にaging完了後マトリックス中における残留元素の濃度は高くなった。その残留元素のほとんどはMgであるが、これはMgの固溶度が他の元素より高いためである。一方、粒子が小さいほど金属/粒子界面における析出量は増加した。全体的に30%粒子分散材のaging速度は10%分散材より低かった。

 まず、peak-aged材とas-extruded材の両方に対して圧縮試験を行った。圧縮試験時の降伏強度は引張試験時の降伏強度より高かったが、この差は粒子-金属間の熱残留応力に起因しており、平均場理論からの予測値とよい一致を示した。分散粒子の体積率増加に伴って複合材料の降伏強度は増加すると知られているが、本実験において、体積率10%〜30%の間では粒子体積率の増加に対してSiC粒子及びAl2O3粒子分散複合材料の降伏強度は低下した。これは10%と30%材における異なるaging挙動のためである。すなわち、30%材においてagingによる強化分は10%材より低いためである。

 破壊靭性も様々なaging処理した複合材料に対して評価を行った。160℃でpeak-agingした場合、破壊靭性は強度の増加に対して単調に減少した。10%及び30%材の破壊はpeak-aged材とas-extruded材共に延性破壊モードであった。as-extruded材はおける破壊靭性は粒子の寸法にあまり依存しなかった。しかし、粒子寸法の増加は硬度と降伏強度の低下をもたらした。一方、粒子寸法の増加に伴ってAE信号のイベント数と振幅は増加し、粒子体積率の増加は、破壊靭性、AEイベント数及び塑性域の減少をもたらした。AE信号の振幅は粒子体積率の影響をほとんど受けなかった。

 熱処理を行った場合も、破壊靭性は粒子の寸法にあまり依存しなかったが、粒子寸法の増大により降伏強度は増加した。AEのイベント数と振幅も粒子寸法と共に増加した。粒子体積率の増加は、破壊靭性、AEイベント数及び塑性域の減少をもたらしたが、AE信号の振幅は粒子体積率の影響をほとんど受けなかった。10%材の降伏強度と破壊靭性は20%及び30%材のそれより高い値を示した。硬度は粒子体積率と粒子寸法にあまり依存しなかったが、これは異なる粒子体積率の材料において異なるaging挙動を示したためである。熱処理した材料における有効粒子体積率は、添加粒子の体積率とagingによる析出粒子の体積率の和であると考えられる。

 破壊靭性試験開始前の試験片表面に対するin-situ SEM観察によると、試料作製過程中に発生した気孔が多数存在していることが分かった。破壊靭性試験時に、き裂先端近傍に存在する気孔は高い応力状態のため負荷初期から成長し始め、同時に新しい気孔も生成する。き裂先端近傍における気孔の密度は外部負荷と共に増加する。この気孔密度が臨界値に達すると、気孔間の合体が生じる。10%粒子のas-extruded材においては、割れた粒子から成長した気孔によりかなりの塑性鈍化が生じた。分散粒子及び析出粒子の体積率の増加に伴い降伏強度が増加し、粒子の割れと気孔の成長は抑えられたが、マトリックスは同じ破壊挙動(気孔の成長・合体)を示した。結果的に、10%材より30%材の破壊靭性は低下し、as-extruded材よりpeak-aged材の破壊靭性が低下するようになった。10%粒子分散材における破壊靭性の上昇は、割れた粒子から成長した気孔が合体する前に、気孔の成長に伴う塑性度の増加に起因している。このような破壊挙動はHahn-Rosenfieldの延性破壊モデルにおける破壊靭性に及ぼす降伏強度の影響とは異なっている。これは粒子から発生・成長した気孔の間で延性破断が生じる前に気孔の合体が生じるためである。

 本研究で用いた粒子分散複合材料の主な破壊機構は、気孔の発生、成長及び合体といった典型的な延性破壊モードである。気孔の発生と成長は低い負荷レベルから起こり始め、ほぼ同時に進行する。AE原波形解析により、最終破断に到る以前にき裂先端近傍でこれら気孔がつながる際に生じるミクロpop-inが確認された。

 粗大粒子及び微細粒子で強化した複合材料における破壊靭性、伸びなど力学的性質を説明するために破壊のモデル化を試みた。このモデルでは粒子間距離の重要性が強調されており、き裂先端からある臨界距離(特性距離)離れたところにおける歪みが一定値に達した時破壊が生じるとの破壊基準に基づいている。

審査要旨

 本論文は、6061アルミニウム合金マトリックスにSiC及びAl2O3粒子を分散させた金属基複合材料(MMC)のaging挙動、破壊過程、力学的性質などに及ぼす分散粒子の寸法及び体積率の影響を調べたものである。

 第1章では、本論文の目的と構成について述べている。

 また第2章では、本研究の背景について述べており、破壊力学の理論、6061アルミニウム合金の特徴、MMCの利点、アコースティック・エミッションの波形解析についてまとめている。

 第3章では、本研究で用いた材料の作製方法および熱処理による組織変化について述べている。6061アルミニウム合金をマトリックスとして粉末冶金法により作製したMMCを用いている。分散粒子としてSiC粒子とAl2O3粒子を用いた。SiCの場合は1,10,20mの粒子を10,30%、Al2O3の場合は1,5,10,20mの粒子を各10,20,30%分散したものを作製した。作製されたMMCに対しては、as-extrusion及びpeak-agingの二つの状態に対して実験を行った。peak-aging条件は硬度が最大になる温度と時間より決めている。

 本研究で用いたほとんどの材料において160℃,8hrの熱処理により最大硬度に達した。故に、SiC及びAl2O3粒子分散複合材料の析出挙動は160℃,8hrのpeak-aging後にTEM観察を行った。幾つかの例外を除くと、析出速度及び析出物の分散状態はSiCとAl2O3粒子分散材の両方において同様であった。異なる点は、Al2O3粒子分散の場合はAl/Al2O3界面にMgがかなり集中しているのが観察されたが、Al/SiC界面ではAl/Al2O3界面に比べて全体的に不純物の量が少なかったことである。

 第4章では、常温破壊靭性、in-situ SEMとAcoustic Emission(AE)の同時測定、TEM観察、SEM破面観察などを行った結果について述べている。160℃でpeak-agingした場合、破壊靭性は強度の増加に対して単調に減少した。10%及び30%材の破壊はpeak-aged材とas-extruded材共に延性破壊モードであった。as-extruded材における破壊靭性は粒子の寸法にあまり依存しなかった。しかし、粒子寸法の増加は硬度と降伏強度の低下をもたらした。一方、粒子寸法の増加に伴ってAE信号のイベント数と振幅は増加し、粒子体積率の増加は、破壊靭性、AEイベント数及び塑性域の減少をもたらした。AE信号の振幅は粒子体積率の影響をほとんど受けなかった。熱処理を行った場合も、破壊靭性は粒子の寸法にあまり依存しなかったが、粒子寸法の増大により降伏強度は増加した。

 破壊靭性試験開始前の試験片表面に対するin-situ SEM観察によると、試料作製過程中に発生した気孔が多数存在していることが分かった。破壊靭性試験時に、き裂先端近傍に存在する気孔は高い応力状態のため負荷初期から成長し始め、同時に新しい気孔も生成する。き裂先端近傍における気孔の密度は外部負荷と共に増加する。この気孔密度が臨界値に達すると、気孔間の合体が生じる。10%粒子のas-extruded材においては、割れた粒子から成長した気孔によりかなりの塑性鈍化が生じた。分散粒子及び析出粒子の体積率の増加に伴い降伏強度が増加し、粒子の割れと気孔の成長は抑えられたが、マトリックスは同じ破壊挙動(気孔の成長・合体)を示した。結果的に、10%材より30%材の破壊靭性は低下し、as-extruded材よりpeak-aged材の破壊靭性が低下するようになった。10%粒子分散材における破壊靭性の上昇は、割れた粒子から成長した気孔が合体する前に、気孔の成長に伴う塑性度の増加に起因している。このような破壊挙動はHahn-Rosenfieldの延性破壊モデルにおける破壊靭性に及ぼす降伏強度の影響とは異なっている。これは粒子から発生・成長した気孔の間で延性破断が生じる前に気孔の合体が生じるためであると結論している。

 第5章は全体の総括である。本研究で用いた粒子分散複合材料の主な破壊機構は、気孔の発生、成長及び合体といった典型的な延性破壊モードである。気孔の発生と成長は低い負荷レベルから起こり始め、ほぼ同時に進行する。AE原波形解析により、最終破断に到る以前にき裂先端近傍でこれら気孔がつながる際に生じるミクロpop-inが確認された。粗大粒子及び微細粒子で強化した複合材料における破壊靭性、伸びなど力学的性質を説明するために破壊のモデル化を試みた。このモデルでは粒子間距離の重要性が強調されており、き裂先端からある臨界距離(特性距離)離れたところにおける歪みが一定値に達した時破壊が生じるとの破壊基準を用いた。このモデルが実験値をうまく説明できることを示している。

 このように本研究は、6061アルミニウム合金マトリックスにSiC及びAl2O3粒子を分散させた金属基複合材料の時効組織の詳細に観察し、その破壊靭性試験の際の破壊機構をin-situ SEMおよびAE原波形解析により解析し、さらに破壊モデルを構築することにより、この材料の破壊靭性値を定量的に解明したものであり、これらの材料の選択にあたっての重要な知見を与えている。よって本論文は博士(工学)学位請求論文として合格と認められる。

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