最近、オフィスの情報アウトプットの自動化や高速化がますます進展している。これに伴い、これらの記録媒体である紙の質的な発展と共に、その消費量もこの数年間はかなりの割合で増加しており、オフィスから出てくる使用済みオフィス関連用紙の古紙、すなわち、オフィス古紙の発生も急速に増加している。 オフィス古紙には、上質系パルプが多く含有されており、再生資源としての利用価値が高いが、従来の脱墨方式ではトナーの剥離が困難で、脱墨処理の後にもトナー粒子が多量に紙に残留するという問題が残されている。 一方、古紙の回収と利用率は年々向上しているが、紙・板紙の原料に占める古紙の割合は、板紙が87.6%と飽和状態に近いのに対して、紙は26.6%と少なく、この紙の利用率をどうして高めるかが今後の課題であり、その鍵はオフィス古紙の回収にあると言われており、コピー古紙の脱墨、利用技術の開発が期待される。 オフィス古紙の脱墨技術および利用向上に一助となることを目指した本研究は、コピー古紙の基礎的特性分析を始め、再生紙中の残留インキ含量の測定法として熱分解GCを利用した新たな評価方法を検討、コピー古紙中の構成成分の挙動、酵素脱墨の試み、再生紙の色彩科学的考察などを行った。 第2章ではコピー用紙およびトナーに対していろいろな機器を用いて分析を行ったところ、コピー用紙は炭酸カルシウム填料およびアルケニル無水コハク酸サイズ剤などで抄紙された中性紙であることが分かった。一方、コピートナーの形状は大きさ20mの丸形で、バインダーを構成している高分子はポリスチレンとポリアクリル酸エステル成分を含有しており、その割合はポリスチレン:ポリプロピレン:ポリメチルメタアクリレートが、約15:2:1の比率で、ポリスチレンがコピートナーバインダーの主成分であった。一方、DSC測定によるトナーのガラス転移点は65℃であり、また、熱分解GC測定では特徴的なピークが得られた。 第3章では残留トナー量の測定法として熱分解GC(Py-GC)の応用の可能性を検討した。保持時間27.6と28.5分の位置に典型的なピーク2本が得られた。これらのピークを熱分解GC-MSによって分析したところ、トナーのバインダー成分の一種である分子量300〜400程度のベンゼン環を含むアルキル鎖であった。 そこで、まず、熱分解GCによって、コピー面積と熱分解GCによるピーク面積との関係を調べた結果、コピー面積と熱分解GCによるトナー成分由来のピーク面積の間には良好な比例関係が得られた。この結果から、熱分解GCのピーク面積から、古紙中の残留トナー量を定量できる。トナー成分のピークの面積比とシートに残留しているトナー重量の関係は、再生紙のg当たりの残留トナーの重量(g)=熱分解GCで測定したトナー成分のピークの面積比×0.06であることが分かった。しかし、トナーバインダーの種類が複数混入した場合には、トナーの種類によって各ピークの量がやや異なるため、定量性は低下する可能性がある。これらの結果から、原紙の光学特性によらずに残留トナーの絶対量を求める場合には、熱分解GC及びk/s値が適していることが示された。また、本実験の条件では白色度によっても残留トナー量の変化を把握できることが分かった。 第4章では、フローテーション脱墨によるトナー成分の定量的変化に伴い、コピー古紙の構成成分、すなわち、填料、デンプン、歩留り向上剤の残留量がどのように変化するかを調べてみた。その結果、脱墨処理の各段階による残留トナー成分量の変化は白色度、k/s値に対応しており、トナー成分は主としてフローテーション処理によって一部の繊維分と共に除去された。従って、パルプ収率をある程度維持しながら、残留トナー量を更に減少させるような処理が必要であることを示している。また、本研究における脱墨処理は、50%の面積でべた塗り状態にコピーした試料を用いたが、コピー面積の変化やコピー状態の変化(細かい点によるコピー等)によって変化する可能性がある。 第5章では、アルカリセルラーゼとアルカリアミラーゼの2種類の酵素を用いて脱墨処理を行った場合、填料、デンプン、サイズ剤、トナーなどの古紙の構成成分と、ISO白色度、パルプ収率の変化について検討した。その結果、酵素の添加は白色度などの古紙パルプの品質の一部を向上させたと言える。離解時に酵素を添加した場合、化学脱墨と同じレベルの白色度であったが、収率が上がった。また、熟成時にアルカリセルラーゼを添加すると、酵素による一部の繊維成分の分解のため、パルプの収率は下がったが、化学脱墨より白色度は高かった。 一方、熟成時にアルカリアミラーゼを添加すると、化学脱墨と同じレベルの収率で、白色度が高くなった。アルカリアミラーゼ添加による収率の増加の効果は、フローテーションの際の酵素の界面活性作用、すなわちトナー除去の選択性によるものと見られる。 第6章ではコピー古紙から再生紙を製造する際、フローテーション後に漂白処理を行い、漂白段階における漂白剤が再生紙の白色度やカラースペクトルに及ぼす影響を分光測色計及びイメージスキャナーを用いて色彩科学的に考察した。その結果、コピー古紙を脱墨して再生紙として利用する際、過酸化水素漂白を併用することによりトナーの除去率が低くても古紙パルプを直接漂白して再生紙の白色度を増加させることが期待できる。また、漂白剤の種類によって、異なったL*、a*、及びb*値が得られることから、単一波長で測定するISO白色度では再生紙の評価は十分ではない、特に、亜ニチオン酸漂白では白色度は未漂白パルプよりわずかに低くなるが、b*値の増加が大きく、これが感性評価では逆に白いと判断させる傾向を示した。すなわち、ほぼ同じ白色度でもL*、a*、及びb*値の変化にしたがって人間が認識する白さは異なることが分かった。 本研究手法に示されたように、分光測色計とイメージスキャナーを用いた画像解析法を組み合わせることにより、白色度測定のみからは得られない多様なデータが得られ、コピー古紙の光学的な物理量を人間が視認し、受容する白さとの関係が得られることが示唆された。 |