近年、コンピュータ処理速度の向上、画像処理技術の発展、高速大容量情報蓄積媒体や画像処理専用装置などの普及に伴って、より高速に画像データを処理、分析することが可能となってきている。このような中、都市環境や交通状況など様々な実世界情報を画像から獲得することを可能とする画像処理、画像認識技術が注目されている。画像認識とは、カメラで撮影した画像の分析、処理を行うことによって、人間のように、実世界の物体の3次元情報の獲得や、物体の認識を実現する技術のことで、いわゆるコンピュータビジョン技術である。画像はテキスト情報に比べて、データ量が多く、特に連続画像の場合、非常に膨大な量のデータとなり、分析、処理するのに時間がかかる。このため、目標物体の3次元情報を保ちながら、処理するデータ量をいかに減らすかが非常に重要な研究テーマの一つとなっている。本論文では、具体的な応用を考え、目標物体の特徴、カメラの運動などに応じて従来の3次元時空間画像を2次元時空間画像に変換し、3次元情報の獲得ができる新しい手法を提案する。2次元時空間画像への変換によって3次元時空間画像のデータ量が大幅に減り、画像の処理時間を短縮することが可能となり、さらに、生成された2次元時空間画像からより簡単に目標物体の3次元情報を獲得することができる。提案手法は平面から構成される人工物体の3次元情報の獲得には、特に有効である。本論文では、論理的な分析を行った上で、具体的な応用例を用いて提案手法の有効性を示す。 第一章では、本研究の背景及び論文の構成について述べる。 第二章では、従来のステレオビジョンの対応点づけ問題の解決に有力な方法として研究されてきた3次元時空間画像解析による3次元情報の獲得及びその応用について紹介し、本研究の位置付けを明確にする。 第三章では、スリットを用いた連続画像からの2次元時空間画像への変換について一般的に検討する。従来の3次元時空間画像においては、膨大なデータ量が含まれているため、処理するのに長い時間が必要となる。2次元時空間への変換は連続画像のデータ量を減らし、処理時間の短縮を可能にするとともに3次元情報の獲得処理をより簡単にすることもできる。変換を行う際、カメラの運動とスリットの形状などは目標物体の2次元時空間画像への投影に大きな影響を与える。本章では、幾つかの典型的なカメラ運動を基本にして、カメラの運動、目標物体の特徴とスリットの形状の関係を分析し、スリットの選択と、連続画像から2次元時空間画像への変換について述べる。 第四章では、双曲線スリットによる2次元時空間画像の生成と2次元時空間画像からの3次元情報の獲得について述べる。提案手法は都市情景中の建物のような平面物体を等速直線運動するカメラから観測し、その3次元情報の獲得を目的とする。提案手法では、画像上に設置された双曲線スリットによって連続画像をサンプリングし、2次元時空間画像を生成する。この時、生成された2次元時空間画像には対象物体の直線エッジの直線性が保存される。さらに、2次元時空間画像上の直線のパラメータがもとの3次元空間における直線エッジの位置情報と一意な関係をもつことから、その3次元情報を推定することが可能となる。また、本章では3次元直線パラメータの算出誤差を最小にする双曲線の最適形状は、観測系に固有な定数と、観測対象である建物の存在位置から決定できることを明らかにする。 第五章では、カメラの回転によるカメラ運動自由度の拡張について述べる。2次元時空間画像から目標物体の3次元情報を獲得するため、目標物体をはっきり画像に撮らなければならない。そのため、本章ではカメラを目標物体の存在方向に回転してから走行しながら撮影した画像から、目標物体の3次元情報の獲得ができることを示す。カメラを回転する利点としては次の二つが上げられる。ひとつはカメラの視野が拡張される。カメラの回転によってカメラの走行ルート沿いにある目標物体はより多く、はっきり映るようになる。その上、目標物体間の遮蔽問題も大幅に改善される。もうひとつはカメラの撮影距離が短縮される。 第六章では、提案手法の応用の一つとして、道路画像から時空間変換による建物の3次元情報の獲得と表面復元について述べる。具体的には、まず、道路から移動カメラで撮影した建物の連続画像を選択されたスリットによって2次元時空間画像に変換する。この2次元時空間画像から検出された建物の特徴エッジによって建物の3次元情報を獲得する。そして、建物の3次元情報と、建物の対称性とカラーのような構造的・表面的な特徴などに基づいて建物の各々の個体を区別する。さらにそれぞれの建物の3次元情報を用いて2次元時空間画像から建物の表面を復元する。 第七章では、2次元時空間画像変換を用いた道路交通の観測と車両の3次元情報の獲得について述べる。この応用において、カメラは視覚センサーとして道路上に設置される。このカメラから撮影された連続道路画像の処理、分析によって道路の観測と車両情報の獲得を行う。具体的な処理においては、まずスリットを用いて連続道路画像を2次元時空間画像に変換し、画像のデータ量を減らす。そして、生成された2次元時空間画像から車両を検出して道路の交通情報を獲得する。さらに、2次元時空間画像から車両の特徴エッジの3次元情報に基づいて各車体の3次元情報と表面情報を獲得する。 第八章では、本研究において得られたことをまとめて、結論とする。 以上のように、本論文では、まず、従来の3次元時空間画像の膨大のデータ量を減らし、より簡単な処理で目標物体の3次元情報を獲得することのできる新しい手法を提案した。そして、提案手法の具体的なアプリケーションとなる建物の3次元情報の獲得とカメラによる道路観測への適用によって、その有効性を実証した。 |