本論文は「交互スパッタ法によるナノ超微粒子分散薄膜作製プロセスに関する研究」と題し、序章、終章を含め全8章からなっており、量子材料として用いられるナノメーター・オーダーの超微粒子を簡便に作製する新しいプロセスの開発を目指すものである。 第1章は序章であり、本論文の背景並びに目的について述べている。数nmの粒径を有する超微粒子は、量子サイズ効果によりデルタ関数的な電子の状態密度を持ち、レーザーに応用した際の利得係数の増大や、増幅された光学非線形応答などの有用な物性が期待されており、重要な研究対象である。交互スパッタリングを用いたプロセスは、分子線エピタキシーなどの超微粒子作製法と比較して、マスキングやエッチング等の必要が無く、簡便な手順で超微粒子が得られる方法であり、また幅広い材料の組み合わせに適用できる可能性を持つものであることから、工学的にも重要な意義を持つものと考えられる。 第2章では、交互スパッタリングを用いたナノ超微粒子作製法について具体的に述べている。このプロセスは、マトリックス材料である二酸化珪素と、微粒子の材料となるターゲットを交互にスパッタリングする際に、微粒子材料のスパッタリング時間を調節して成長を極初期のアイランド状成長の段階で止めることにより、二酸化珪素薄膜中に分散したナノ超微粒子を得る方法である。 第3章では、交互スパッタ法により得られたナノ超微粒子分散薄膜の透過電子顕微鏡による観察について述べた。スパッタ時間の経過に伴って粒径の成長が認められることから、スパッタ時間の調節による粒径制御が可能であることが明らかとなった。また成長に伴って、粒子の個数密度の減少、最隣接粒子間距離の増大が見られることから、粒子が基板表面上をマイグレーションしながら、他の微粒子との合体を繰り返すという成長機構が示唆された。 第4章は、基板へのDCバイアスの印加が、粒子成長に及ぼす影響について述べている。バイアスを印加しない場合のGaAs微粒子は、癒着によって細長い形状を有しており、これが粒径制御を妨げる要因となっているが、バイアスを印加することにより、微粒子の癒着が抑制され、粒径制御性が向上することが明らかとなった。 第5章では、第3章を基に、スパッタリングによる超微粒子成長機構の検討を行った。マイグレーションが、成長種が成長表面上に飛来しているときにしが起こらないことを示す実験結果を踏まえ、微粒子のマイグレーションが、新しい化学結合が生成する際に解放される結合エネルギーによって引き起こされるというモデルを提唱した。1nmの半球状のGaAs粒子に新たに1つの原子が結合した際の温度上昇は500度にも及ぶと見積もられることから、結合エネルギーが十分にマイグレーションを誘起できることが示された。 第6章では、これまでの成長モデルでは考慮されなかった、微粒子の表面マイグレーションを取り入れたモデルを用いて粒子成長のシミュレーションを行い、表面マイグレーションが成長形態に及ぼす影響を調べるとともに、第3章の結果との比較から、GaAs及び金の超微粒子の拡散係数の評価を行った。透過電子顕微鏡により観察された個数密度の減少は、表面拡散係数10-17[m2/s]の近傍でフィッティングされた。この値が、一般的に知られている表面拡散係数の領域の中に存在することから、1nmを超える微粒子がマイグレーションを起こすというモデルが妥当なものであることが示された。 第7章では、交互スパッタにより得られたGaAs超微粒子の光吸収性について述べた。光吸収は粒径が小さくなるにつれて、量子サイズ効果による著しいブルーシフトを見せ、平均粒径2.7nmの微粒子では光学的バンドギャップが3.3eVにも及ぶことが明らかとなった。 終章では、本論文のまとめを行い、今後の展開について述べた。 以上、要するに本論文は、交互スパッタ法という新しい超微粒子成長法を開発するとともに、これまで見過ごされてきたスパッタリング初期の微粒子マイグレーションについて明らかにしたものであり、化学システム工学の発展に寄与するところが大きい。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |