本研究は日本のHIV感染者/エイズ患者を社会が受入れるための要因を明らかにするため、医療従事者および高校生に対して質問紙調査を行ったものであり、下記の結果を得ている。 1.1991年の都内の病院はHIV感染者/エイズ患者の診療に対して総じて積極的でなかった。多重ロジスティック分析の結果、病院の感染者/患者の受入れには、(1)感染者の診療経験があること、(2)プライバシー保護のための診療室があること、(3)内科が存在すること、および(4)エイズ専門相談員派遣制度を知っていることが関連した。 2.1995年の都内のエイズ診療または看護経験率の比較的高い病院の医師および看護婦は、その7割に診療または看護に前向きに取り組む意志があった。HIV感染者/エイズ患者に対する診療意志および看護意志に共通して関連する要因は、(1)医師および看護婦の側の精神的な負担をエイズ診療の問題点と認識すること、(2)感染に対する恐怖をもつこと、(3)ハイリスクグループに対する抵抗感があることおよび(4)専門家としての責任感があることであった。 3.1989年と1992年の都内の高校生に対する調査よりエイズ患者との交友関係を継続する意志は改善傾向が見られ、この傾向はHIVに関する学校教育やマスコミを通じたキャンペーン等によるものと推測された。エイズ患者との交友関係の継続意志には、(1)HIV感染経路に関する知識の正答数が多いこと、(2)エイズ患者のプライバシー保護に対する配慮があること、(3)性別が女性であること、および(4)感染可能性の認識があることが関連した。 4.以上より、HIV感染者/エイズ患者の社会的受入れを促すためには(1)医療関係者を含む地域社会の人々にHIV/エイズに関する正しい知識および適切な情報を理解かつ普及させること、および(2)感染者/患者の人権に配慮を払うよう働きかけることが重要であると考えられた。また、(3)担当する医療従事者だけでなくカウンセラー(エイズ専門相談員)等を含むチーム医療を目指すことが個々の病院、医師、看護婦の精神的負担を減らすことになり医療サイドの受入れに良好な影響を及ぼすと考えられた。 以上、本論文はこれまで日本では研究の少なかったHIV感染者/エイズ患者の受入れに係わる要因を包括的に検討した。本研究は感染者/患者の生活の質の向上と潜在化防止に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |