本研究は、臨床検査センターにおける規模の経済性を検討したものであり、検体検査処理において重要な要素である処理費用と時間の側面から分析し、以下の結果を得ている。 1.検査センターにおける原価計算調査データに基づき、31のセンターの人員数と分析機台数から費用を推計し、生産関数および費用関数による規模の経済性の分析を行ったところ、コブ・ダグラス型生産関数においては規模の経済性があることが示され、3次の費用関数を用いた分析では、検査処理費は生化学検査で年間2,200万検査、全体で3,800万検査程度の規模までは1検査あたり平均費用が減少し、その後増加に転ずることが示された。 2.規模が拡大した時に平均費用が増加する要因としては、集荷のための人員数の増加とある程度の時間内に処理するために多くの機械を投入することによると考えられた。 3.委託による検体検査処理は、結果が判明するまでの時間いわゆるターンアラウンドタイムが重要であるため、病院の医師と検査室に対して処理時間の希望と実際を調査し31病院および172人の医師の回答を得たところ、生化学検査における医師の希望時間は緊急検査では30分以内、通常検査では、入院で6時間、外来1日が中央値であった。実際の処理時間については希望を満たしているものは多くなく、院外検査による処理時間の中央値は1.4日であった。 4.検体の集荷をモデル化し、検査センターに対して実施した検体の輸送に関する調査の結果から74のセンターのデータを基にシミュレーションを行ったところ、集荷の規模が大きくなるにつれて営業所を開設し限界費用が増加することが示唆された。また、集荷検体数とターンアラウンドタイムとの関連はみられなかった。 5.これらの結果から検査センターにおける生化学検査を中心とする処理はある程度までは規模の経済性が働くがそれ以上は平均費用が増加し、その理由としては医療機関の要請による時間内に検体処理を行うために機器を導入することと、集荷のための費用が増加することによると考えられた。 以上、本論文は、臨床検査センターにおいて検体を集約して処理することによる規模の経済性の存在を示し、またそれには時間による制約があるため、その中で最適な規模があることを示した。本研究は効率的な医療提供を考える上で重要だと考えられる外部委託による検体検査処理のあり方を検討するために貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |