本論文は、社会的資源獲得のためのネットワーク利用について、それを「コネ」という語を軸に概念的に整理・検討し、そこで生じている資源としての社会的ネットワークが生み出す機会の構造の中で、人がどのようにコネ利用へと動機づけられうるか、を社会心理学的に実証・分析したものである。 第1部「コネ問題の概念的整理」では、従来なされてきた広範な議論を適切に検討する一方で、自由回答を用いた探索的データに基づき、コネがもつ資源性と並んでコネに対する相互利用意識・内集団びいき的有効性認知・負債感・不公正感の重要さを位置づける。またそこから進んで、コネ利用の構造的要因のみならず、コネ利用の社会心理学的側面を体系立て、最終的なコネ利用モデルが提示される。 第2部「コネ利用モデルの検証」では、ネットワークのコネ利用一般に関する例のないランダムサンプリング調査、および就職活動に従事した学生調査の結果をもとにモデルの検証を行い、新しい洞察をもたらすことがめざされた。結果として著者は、コネという手段の利用可能性たるネットワークの構造的要因もさることながら、その構造的制約の中でコネ利用を促進・抑制する相互利益意識を中心とする社会心理学的要因の重要性を明らかにし、またコネ利用においてしばしば観察される不公正感のあるべき位置づけを行った。 第3部は、全体のまとめと将来展望である。 本論文に問題ありとすれば、直接的なコネ利用行動の分析が就職活動に限られ、サンプリングサーベイの中では過去のコネ利用の回顧データや仮想状況下でのコネ利用志向の分析が行われざるを得なかった点に求められるかもしれない。 しかし、こうした問題点にも拘わらず、本研究は構造的要因によってのみとらえられがちであったネットワーク利用行動の社会心理学的側面を明示し、それに関連する要因を適確、精密に実証した点で高く評価されよう。これによって著者が研究者として十分な能力を有することが示されているので、本論文は博士(社会心理学)の学位を授与するに値するものと考えられる。 |