内容要旨 | | はじめに 短期間に非常に多くの火山噴出物を噴出するContinental flood basaltsやOceanic plateau basaltsなどの活動は,その活動の特徴から,球状の頭の部分に細いパイプ状の茎がついている,マントルプルームと呼ばれるマントル深部からの上昇流によって引き起こされると考えられている。近年,そのマントルプルーム起源と思われる噴出物についての地球化学的な研究から,マントルプルーム起源の物質以外に,そのプルームが上昇中に取り込んできたと思われる,周囲のマントル物質がともに含まれているという結果が報告されている。 取り込み,混合といえば,一般に火山の噴煙やジェットなどの乱流領域での乱流混合を思い浮かべるが,地球のようなレイノルズ数が1よりも十分に小さい層流の領域における取り込み現象については,未だ不明な点がある。プルームの取り込みについての問題は,移動境界問題,時空間発展系の問題であり,こうした問題は,数値計算の苦手とする分野であり,本研究では,古典的ではあるが室内流体実験の手法を用いて調べた。 本研究の内容 本研究は主に次の2つの部分で構成される。第一部は層流領域におけるプルームの取り込みについての実験的研究で,第二部は,実際の地球のマントルに見られるような,密度成層構造中において,プルームがどの様に上昇し,取り込まれた物質の行方がどの様になるのかについての研究である。 第一部:層流領域でのプルームの取り込みについての実験的研究1:実験方法 透明な水槽に高粘性流体を満たし,水槽最下部より密度,粘性ともに小さい流体を一定流量で注入し続け,Starting Plumeを作成し,その挙動を調べた。使用流体の粘性比は10から90程度である。 2:実験結果 本実験において,レイノルズ数が1よりも十分に小さい領域において,組成プルームの取り込み現象を確認した(図1)。図2は,実験画像から得られたデータを処理し,プルームの上昇速度と時間をプロットしたものである。この図には,与えた流量の異なる6つの実験結果が示されているが,共通して言えることは,プルームの上昇ステージには少なくとも3つのステージがあることである。各ステージにおける現象のタイムスケールはそれぞれ異なり,また取り込みの程度にも差が存在することが明らかになった。最初のステージ1は,プルーム頭部の「見かけ密度差」がほとんど変わらず,取り込みがあまり進まない加速ステージである。次のステージ2は,プルームが上昇した距離の-2乗で密度差が減少し,急激な取り込みが起こり,プルームの上昇速度が背後のパイプ流の平均流速程度で,ほぼ一定かあるいはやや減速するステージである。ステージ3では,再加速するステージで距離の-1/2乗で密度差が減少することが明らかになった。こうした一連の実験結果から本研究ではプルームの生成から消滅までの輪廻のモデルを提案した。 図1:取り込みを伴う組成プルーム。レイノルズ数は約4×10-3。図2:プルームの上昇速度と時間プロット。3:マントルプルームへの応用 実験結果から,各ステージにおけるマントルプルームの上昇時間を見積もった。パイプ直径が約100kmで,パイプの平均流速が約0.1m/yr,粘性比が約10程度の場合,プルームが上昇を始めてからステージ2に入るまでに,約3千5百万年程度かかり,ステージ2の継続時間は約2億2千万年程度であることがスケーリング則から推定された。 第二部:密度成層構造中を伝播するプルームの挙動についての実験的研究1:実験動機と方法について 第一部では均質な媒質中を上昇するプルームが多くの外部流体を取り込むことを示したが,実際の地球のマントルは密度成層という不均質な構造を持っている。第二部では,こうした密度成層構造中をプルームが上昇した場合に,果たして取り込まれた物質の全てが地表まで運ばれ得るのかについて調べた。現在までのマントルの粘性,密度構造についての研究が示すところによれば,上部マントルの粘性は,下部マントルの粘性よりも低い。本実験においてもそのような成層構造を水槽中に作成し,プルームを伝播させて,その挙動を調べた。 2:実験結果 密度境界までに取り込んだ物質の量(上の層とプルームの見かけ密度の差)によって全く異なる現象が起こる事がわかった(図3)。境界到達前にプルーム頭部に取り込まれた下部層流体の量が少なく,プルーム頭部の「見かけの密度差」が大きい場合には,プルーム頭部が密度境界を通過して上昇するPass-through mode(PTM)になった。このモードの場合,下部物質の取り込み量は少ないものの,上部層の表面まで下部物質を運搬した。さらに,境界を通過したプルーム頭部は,粘性の減少による上層での加速のために,背後のパイプ流とプルーム頭部が分離してしまい,背後のパイプ流の先端に,新たなプルームを形成した。このモードでは,結果的に2つのプルーム頭部が相互作用により生成され,表面まで到達した。また逆に取り込み量が多く,その「見かけの密度差」が小さい場合には,それまで取り込んだ物質をすべて境界で落としてしまうRebirth mode(RBM)になった。このことは,粘性,密度境界に達するまでに,大量の下部層物質をプルーム頭部に取り込んだからといって,逆にそれが密度成層などの影響で,その後の上昇を妨げてしまい,取り込み物質のすべてが取り除かれ,必ずしも表面まで取り込み物質が運ばれないことを示している。このRBMの場合には,上層で生成された一つのプルーム頭部だけが表面まで到達する。 図3 PTMとRBMの連続写真。左がPTMで右がRBM。各図の左上の写真はプルーム頭部の拡大図。プルーム頭部内の色の薄い部分は,取り込まれた外部流体。右のプルームの場合渦巻き状に外部流体を取り込んでいる。各連続写真の矢印は密度境界を示す。右下のスケールは0.05m。写真の実験で用いた流体の物性(温度18.5℃)は,密度が上層1375,下層1385,プルーム物質が1337(kg/m3)で,粘性が上層7.6,下層29.4,プルーム物質が0.36(Pas)である。3:マントルプルームへの応用 以上のように,上部,下部マントルのような密度,粘性成層構造中をマントルプルームが上昇する場合には,プルームの取り込みの程度により,異なる伝播モードが得られることが期待され,マントルプルーム起源の活動と考えられるFlood BasaltsやHot Spotsなどの火成活動で得られた岩石試料の地球化学的特徴や、火山活動の時空間分布に,各相互作用の特徴が表れることが期待される。 |