広く宇宙で観測される高エネルギー粒子を生成する機構として最も注目を浴びているものの一つが、衝撃波と多数回相互作用することで粒子が統計的に(stochasticに)加速されるDiffusive Shock Acceleration(DSA)機構である。実際、超高エネルギーイオン(〜1015eV)、電子(〜1014eV)は、ともに超新星爆発に伴う衝撃波におけるDSA機構によって加速されたと広く信じられている。しかし、これら遠方の天体におけるDSA機構についての研究は、電子のシンクロトロン放射からの推測など、間接的な手段でしか実証できない。一方、太陽系内、特に地球近傍においては、加速の現場を探査機によって実際に観測することができる。イオンに関しては過去に〜1AUでDSAの結果といえる例が多数観測・研究されているのに対し、電子のDSAのはっきりした証拠と言える観測例は、著者の知る限り存在しない。従って本研究で紹介する、GEOTAIL衛星が観測した惑星間空間衝撃波(Feb.21,1994 event)は電子のDSAを伴う大変興味深い、貴重なイベントである。 Diffusive Shock Acceleration(DSA)がおこるためには、衝撃波近傍に粒子が「閉じ込められ」る必要がある。「閉じ込めて」いるももの正体は、粒子を散乱(ピッチ角散乱)し衝撃波に戻すことのできる波動である。従って、衝撃波周辺波動による粒子の散乱過程の研究はDSA機構の本質的研究の一つである。ところが、過去に行われてきた衝撃波電子加速の研究は、イオンと同様にAlfven波による散乱過程で説明できる、ラーモア半径の大きな相対論的電子(〜百keV以上)についての研究が多く、散乱過程の数値的実験もモンテカルロ法に代表される確率論的な扱いが主流であった。DSA機構がどのエネルギー以上なら起きているのか、また熱的電子から、Alfven波と共鳴できる高エネルギー電子がどのように生成されるのか、という問題はinjectionの問題と呼ばれ、未だ解明されていない点が多い。GEOTAIL衛星は、まさにこの電子のinjection過程を観測的に研究するのに打ってつけの周波数帯(0.1〜数十Hz)とエネルギーレンジ(数十eV〜数十keV)をもつ磁場と粒子の計測器を搭載しており、この問題を念頭においた観測・解析を初めて行うことを可能にした。 本研究で取り上げた惑星間空間衝撃波は衛星静止系に対する衝撃波速度920km/sec、Alfven Mach数5.8、衝撃波角68゜のquasi-perpendicular衝撃波である。図1に衝撃波周辺の電子分布を各エネルギーについて示す。衝撃波面ではおよそ250eVのcross-shock potential(地球定在衝撃波面での典型的な値の5倍以上)によって、低エネルギー電子はスパイク状の増加を示している。この衝撃波面ポテンシャルは、熱的電子のDSA機構へのinjectionにとって重要な役割を果たしていると考えられる。また、衝撃波をピークとして上流・下流の数時間に渡ってみられる高エネルギー電子の増加は、DSA機構による被加速粒子の特徴的な分布である。この実空間分布は、拡散対流方程式に衝撃波下流の膨張の効果を入れ、上流の電子散乱体のプラズマの流れに対する相対速度を考慮することで、エネルギースペクトルとconsistentに説明された。分布の具体形は、 である。ここで添え字1、2はそれぞれ上流、下流の物理量を表す。D、u、p、はそれぞれ、空間拡散係数、ランキン-ウゴニオの関係を満たすplasma bulk速度、被加速電子の運動量であり、xは衝撃波を原点とし、下流へ向かう方向を正とした座標である。texは下流膨張の特徴時間、Cは運動量に依る定数である。このときpower lawで表されるエネルギースペクトル指数(f∝)は、 ここで、は粒子が衝撃波と一度相互作用した時の運動量変化の平均値である。∂lnf/∂lnpはxに依らないと仮定した。観測から求められたは2.8〜3.2であり、この値は、(3)式によって観測された分布fと拡散係数Dから再現される。拡散係数は式(1)、式(2)を観測値にfittingすることにより求められ、5keV以上で上下流域とも〜7×1018cm2/secであった。この値は、通常の太陽風中の値より2オーダー以上も大きな値であり、電子の散乱が強くおきていることを示唆するものである。 図1:衝撃波周辺のエネルギー別電子分布(エネルギーレンジは図中参照)。衝撃波通過時刻0903:17UT以前が上流域に相当。 一般に衝撃波下流領域は波動のactivitiyが高く、粒子は強い散乱を受け、等方的に分布する。今回の観測からも下流では、十分な電子の散乱が起っていることが確認された。更に、本研究によって上流でどのように電子の閉じ込めおきているのかが明らかとなった。図2左(a)は衝撃波上流で観測された右偏波波動の周波数スペクトルの一時間平均値である。〜0.7Hz以上に見られる強い波動は、衝撃波面で励起され上流へ伝播しているホイッスラー波である。Background level(b)に対し2オーダー近くenhanceされたこれらのホイッスラー波動は、〜100keV以下の電子とサイクロトロン共鳴をおこして、電子を散乱することができる周波数をもっている(右)。 図2 [右]衝撃波上流のホイッスラー波動のパワースペクトルの一時間平均値(a)とbackground level(b)。[左]観測周波数域のホイッスラー波によるサイクロトロン共鳴条件を満たす電子のエネルギー(keV、縦軸)。点線はドップラーシフトを考慮し、探査機系の値に直したもの。 実際、観測と同じ性質(スペクトルの強度と傾き、磁場に対する伝播角)を持つホイッスラー波動と衝撃波面を計算機上で生成し、そこでの電子の軌道を計算することによって各エネルギーごとのピッチ角分布を求めてみると、観測されたピッチ角分布を定量的に再現することができた。例えば、keV以下のエネルギーの電子は数十Hzのパワーの弱い波動と共鳴する為、あまり散乱を受けず、衝撃波から逃げていく向きの分布が卓越している(従って、このエネルギー領域では、DSA機構は殆どおこらない)、また10keV以上ではほぼ等方に分布している、等である。このシミュレーションによって、電子のピッチ角分布(結果的に空間分布)を決定しているのは、ホイッスラー波動であることが確認できた。 従って、電子のdiffusive shock accelerationへのinjectionに必要な条件は、 ・大きなcross-shock potentialをつくることができる、強い(早い)衝撃波 (今の場合それぞれ250eV、920km/sec) ・衝撃波上流に数Hz以上のホイッスラー波動のenhancementであることが示された。 |