本論文は、第1章General Introduction,第2章Background of the study of Pt/Rh bimetal surfaces,第3章 Expereimental methods,第4章Elucidation of the properties of the Pt/Rh bimetallic surfaces,第5章Electrochemical diagnosis of the Pt/Rh bimetallic surface,第6章Conclusionで構成されている。 第一章では、NOxを還元除去する触媒として優れた機能を持つPt-Rh三元触媒の機能は反応中に「触媒活性な局所構造を持つ表面が合成される」ことによって生じることを実証し、ここで導入される「高い機能を持った表面が合成される」とする新しい概念の重要性について述べている。 第二章は、従来の研究で分かっているPt-Rh合金単結晶表面の特性について述べている。これまで格子振動の理論からPt-Rh合金の安定表面はPtが濃縮された表面であり、高温になるほどPt表面に濃縮されるとしてきた。しかし、実験結果は理論とは逆で、高温になるに従って表面のPt濃度は減少し約1400Kで表面の平衡組成は殆どバルク組成に一致することを述べている。一方、深さ方向の組成は、約1000Kで加熱したPt-Rh合金単結晶では第一層に濃縮されたPtに相当する量が第二層で不足し、その分Rhが濃縮される結果となるが第三層以下の組成は殆どバルク組成に一致することが述べられている。 このようなPt-Rh(100)合金単結晶表面が平衡組成に達するには真空中で融点の約1/2の950K以上に加熱することが必要であり、900K以下では容易に平衡組成に達しない。しかるに、NOやO2の存在するところでPt-Rh合金表面を加熱すると、400Kの低温で容易に表面組成は変化し表面構造も変化することを実証し、このような事実から触媒作用を理解するためには反応条件下での表面変化が触媒作用にどのような影響を与えるかを明かにすることが重要であることを述べている。本研究はこのような視点からバイメタル表面の活性化機構を明かにすることを述べている。 第三章は、本研究のために開発された電気化学反応用の溶液セルを備えた超高真空装置(EC-UHV)について説明し、PtやRhのような高融点金属を室温で自由に制御し基盤金属の表面に析出できるようになったことを述べている。このシステムはボルタモグラムの変化で析出量をコントロールきるだけでなく、吸着や反応に用いた表面の電気化学的特性を直接測定できるように設計された世界で唯一の装置であり、本研究では世界で初めての実験が多く行われた。その一つに、触媒として活性化された表面のボルタモグラムを測定し、反応中に表面構造或いは組成が変化することを診断できたと述べている。 第四章では、NO+H2→1/2N2+H2O反応に対するPt及びRh単結晶の触媒活性は結晶面によって著しく異なり、Pt(100)>Rh(110)>Rh(100)>>Pt(110)の活性序列になることを実験的に示し、これらの単結晶表面に一定量のPtあるいはRhを析出させて作成したバイメタル単結晶表面の構造、特性及び触媒活性を詳細に調べている。Rh/Pt(100)バイメタル単結晶表面のRh原子は真空中で加熱すると容易にバルク内に拡散する。これに対し、Pt/Rh(100)バイメタル単結晶表面のPt原子は1000Kで加熱しても安定に表面に存在しているが、Pt/Rh(110)表面のPt原子は1000Kの加熱により容易にバルク内に拡散することが示された。一方、Pt/Rh(100)及びPt/Rh(110)表面はNO或いはO2中で加熱すると表面にRhが偏析し別の安定表面を形成することを明かにした。このようにして生成した表面はNO+H2反応に対し殆ど同じ触媒活性を示す。NO或いはO2中で加熱するとRh/Pt(100)及びPt/Rh(100)表面はp(3x1)LEED構造を示すのに対しPt/Rh(110)およびRh/Pt(110)表面はそれぞれc(2x4)及びc(2x2)のLEED像を示す。しかし、これらのRhが偏析したバイメタル表面の触媒活性はRh/Pt(100)Pt/Rh(110)Pt/Rh(100)RhPt(110)と構造に依存しない。この事実は、少量のRhの添加することで表面のPtは全て有効に機能することを示しており、極めて重要な結果である。このようにLEED像の異なる表面が同じ触媒活性を示す理由は、何れの表面もNO或いはO2との反応によってRhが表面に析出し同じ局所構造を持った活性点が形成されるためとし、STM像からPtに囲まれた4Rh原子から成るモデルを提出した。 第五章では、ボルタモグラムが単結晶の表面構造に極めて敏感であることに着目し、バイメタル表面組成や構造の微妙な変化をボルタモグラムの測定によって診断すると言う全く新しい実験を試みた結果が述べられている。Pt(100)表面にRhを単原子層成長させた表面のボルタモグラムはRh(100)やPt(100)とは全く異なるが、この表面を酸素処理して得られるp(3x1)Rh/Pt(100)表面とも著しく異なり、H++eH反応に対する金属表面の触媒作用は極めて構造や組成に敏感であることが示された。同様にPt/Rh(100)表面を真空中で760Kに加熱した表面とNO+H2中で760Kまで加熱した表面のボルタモグラムと比較し、ボルタモグラムが新しい表面変化の診断法になりうることを示した。NO+H2反応に対し(3x1)Pt/Rh(100)とp(3x1)Rh/Pt(100)表面は同じ触媒活性を示すが、H++eH反応には異なる活性を持つことがそのボルタモグラムの違いで示された。このことは今後の興味ある問題である。 第六章では、バイメタル表面の触媒活性とバイメタル表面のボルタモグラムに関する本研究を総括している。 以上、本研究は溶液系の電気化学セルと超高真空系を直結させた装置を用いてバイメタル表面の構造や触媒活性を調べ、NO+H2→1/2N2+H2O反応に対するPt-Rh触媒の優れた触媒機能は反応中に活性な局所構造が表面に形成されることによることを明かにした本研究は、固体表面の触媒機能の解明のみならず新規触媒の設計と創成に極めて重要な指針を与えたと判断される。なお、本論文は田中虔一、田村裕之との共同研究を含むが、いずれも論文提出者が主体となって研究を行なった研究であり、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 よって、博士(理学)の学位を授与できると認める。 |