本論文は、第1章 Introduction,第2章 Experimental,第3章 Growth of Au particles in solutions,第4章 Growth of other fcc metal particles in solutions,第5章 Growth of Cu2O,Cobalt and Iron particles in solutions,第6章 Growth of various binary particles in the underpotential deposition region of Cu2+ ion,第7章 Mechanism for the formation of multiply twinned particles in solution、第八章 Summaryで構成されている。 第一章では、これまでに報告されている清浄な金属単結晶表面の再構成について解説している。特に(100),(110),(111)の全結晶面で再構成を起こすことが知られているAu単結晶表面に注目し、表面再構成の原因について詳しく解説している。本研究は真空で加熱により生じる表面再構成と殆ど同じ再構成が溶液中で電位によりAu表面に誘起されることに注目し、微粒子の成長との関連を明かにした。このような現象を明かにしていく過程で溶液中での表面再構成に表面の電子密度が高くなるような電位勾配が重要であることが分かってきた。このことを証明する実験としてAu表面にCu+或いはCu0が一定の被覆率で吸着させながら合金微粒子を生成させる実験を行うために、Au表面に平衡電位より正の電位でCu2+が析出するUnder Potential Deposition(UPD)について解説している。これらの背景にたって本研究がAuの表面再構成と晶癖の関連を解明する目的で開始されたことを述べている。また、本研究での重要な発見の一つである電位に依存する多重双晶粒子の生成を理解のために、多重双晶粒子についても解説している。 第二章は、本研究で開発した電子顕微鏡用のAuのメッシュを用いた電極反応の新しい実験法について解説している。 第三章は、電子顕微鏡用のAuのメッシュ上に成長するAuの微粒子の晶癖が電位に大きく左右されることを電子顕微鏡写真で示している。HClO4溶液中でAuのメッシュ電極を負電位(SCE)に保つと正十面体及び正二十面体の多重双晶粒子が多量に生成し、正電位(SCE)では通常のfccのAu単結晶微粒子が生成することを発見し、多重双晶粒子の生成電位とAu単結晶の表面が再構成する電位とが一致することを明かにした。表面再構成と多重双晶粒子の生成機構について電位を負にすると、Au単結晶あるいは成長するAu微粒子表面に負電荷が増し表面原子の格子定数が縮むことが原因であると結論した。 第四章では、Au以外の金属について同様の実験を行い、Rh,Ir,Ni,Pd,Pt,Cu,Ag,のfcc金属は全て金属に固有の敷居値があり、それ以下の負電位では多重双晶粒子を生成することを見つけ、電気化学的に成長する金属微粒子の晶癖に対する電場の効果はfcc金属に普遍的に見られる現象であると結論した。 第5章では、fcc金属以外の金属としてCo及びFeについての実験結果を述べている。また、本研究で用いた実験法を溶液中でのpHと電位の相関図として分かっている系に適用することで特定の化合物を合成できることを、Cu2Oの単結晶微粒子が生成する現象とその反応機構で述べている。Coの微粒子は負電位でfcc金属で見られたような現象は起きず、最密充填の[001]面を基盤に平行にしたhcp結晶として成長する。一方、Feは-1.2V(SCE)では特徴的な十字構造をしたbcc構造の微粒子として成長するが-1.3Vでは十字構造の基本骨格に樹氷の様なデンドリック構造の成長がおきることを明かにした。 第六章では、AuとCuイオンが共存する溶液で電気化学的に成長する合金微粒子の成長機構、組成、晶癖に対する電位の効果に注目した実験を行っている。特に、Cu2+イオンを含む溶液ではAu(111)単結晶表面に平衡電位より正電位でCu+或いはCu0が単原子層以下の一定量析出するUnder Potential Deposition(UPD)と呼ばれる現象に注目し微粒子の生成を行っている。その結果、電位をCu2+イオンのUPD電位に保ってAu-Cu合金微粒子を成長させると、Au-Cu合金微粒子がlayer-by-layer機構で生成することを実証した。更に、Auの表面にUPD析出したCu2+イオンがCu+である電位とCu0で析出する電位で合金微粒子の超癖は大きく変わり、Cu+がUPD析出する電位で生成する合金微粒子のみ多重双晶粒子になることを示した。この実験結果はAu表面にCu+がUPD吸着することで成長するAu微粒子の表面に負電荷が過剰になることを考えると、Auの多重双晶粒子の生成と同様、格子定数が縮むために起きる現象であるとした。これらの説明を裏付けるために金属の表面張力が電位により変化する現象について述べている。 第七章は、電位に依存する多重双晶粒子の生成機構について考察し第八章で論文全体のまとめを述べている。 以上、電極反応に透過電子顕微鏡法を用いると言う新しい手法で、電位下で成長する金属微粒子の晶癖と電位により誘起される表面再構成の現象が同一の現象であることを実験的に示した。さらに、Au表面にCu2+イオンがUPD析出する現象を用いてlayer-by-layer成長機構で合金微粒子を成長させることにより、UPD析出するイオンがCu+である場合のみ多重双晶の合金微粒子が成長することを明かにした。表面の再構成と微粒子の晶癖が金属表面の負電荷に良って引き起こされる共通の現象であることを示した本研究は極めて重要な新しい実験事実であると判断される。なお、本論文は田中虔一、荒叉明子、大川祐司、市原正樹、鈴木邦夫との共同研究を含むが、いずれも論文提出者が主体となって研究を行なった研究であり、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 よって、博士(理学)の学位を授与できると認める。 |