学位論文要旨



No 113315
著者(漢字) バルガスモンヘ,ウィリアム
著者(英字) William,Vargas-Monge
著者(カナ) バルガスモンヘ,ウィリアム
標題(和) 砂の大ひずみ領域での挙動に関するリングせん断試験
標題(洋) Ring shear tests on large deformation of sand
報告番号 113315
報告番号 甲13315
学位授与日 1998.03.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4033号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 教授 龍岡,文夫
 東京大学 教授 堀井,秀之
 東京大学 助教授 河原,能久
 東京大学 助教授 古関,潤一
内容要旨

 土は大変形時にせん断ひずみが50%を越え、ときには400%に及ぶことすらある。砂地盤は地震により液状化が誘引された場合にそのような大変形破壊を被る。大変形は一般的に堤防の側方流動、自然傾斜地盤やダムなどの土構造物の流動破壊において観測される。地すべりもまた地盤の破壊を伴う大変形の例である。構造物にとって大変形は設計許容量を超えており深刻な問題である。構造物の受ける甚大な被害や破損、崩壊はこの大変形の影響である。

 大変形やそれに関連する現象は通常、振動台による模型実験によって研究される。現地盤において観測される破壊は、模型地盤に振動台による加振等のアナログ荷重を入力することにより再現される。しかしながら模型地盤内においてその応力やひずみを測定するのは物理的かつ技術的な限界がある。模型実験結果や現地盤データとの相関を解釈する際に影響を及ぼす重要な要因として、主として密度や応力レベルに代表されるような地盤の初期状態に対する依存性がある。現地盤での応力レベルを自然重力場下での小規模模型では適切に再現できない。

 この問題は低拘束圧下で大変形した時、特に液状化時の土の挙動に関する正確な情報の提供により解決される。慣例的に土の応力ひずみ関係は要素試験において観測される挙動から誘導された。通常の要素試験において供試体に作用させ得る最大変形量はせん断ひずみにして20%程度であり、このことからも先の方法で大変形問題に対処するのは不適切であることが分かる。

 本研究では一定体積リングせん断試験装置を用いて、通常の要素試験装置の範囲を超えた砂の非排水大変形挙動の特徴について考察した。本試験装置により単純せん断状態での土の非排水ピーク強度、残留強度、極限強度が測定可能である。供試体の体積及び形状はせん断の間一定であるので、土が液状化した後でも破壊は継続できるようになっている。

 広い範囲の初期状態下において豊浦砂の定体積挙動が調べられた。ひずみ軟化時の砂の挙動を明らかにする目的から、相対密度で50%を下回るような比較的緩い供試体に重点を置いた。拘束圧は10[kPa]から100[kPa]の範囲で加えた。

 実験結果の考察からリングせん断試験機による定体積での豊浦砂の挙動は他の試験装置の結果と比較可能であることが確認された。ひずみの局所化が十分発達したせん断変形が10mmを越える、或いはせん断ひずみが50%を越えるような極限せん断強度に達するまでの挙動に対する境界条件の影響はきわめて小さいものであった。この変形量は三軸圧縮試験における2倍もの量であり、大変形挙動の研究における改善点である。大変形時の観察結果から、標準的な要素試験の最終状態から大変形挙動を類推するのは誤差を生じやすいということが明らかになった。また砂の挙動が完全に収縮的であったり膨張的であったりしたときのみ、標準的な要素試験において極限状態が観測可能であることも明らかになった。

 単調載荷による実験結果から3つの異なる状態・段階について詳しく研究した。これらはせん断強度の最初のピーク、ピーク後の変相点、そして極限状態である。ピーク強度とひずみ軟化挙動が存在する場合の応力と密度条件が調べられた。変相点での応力は初期拘束圧に依存し、最小強度も同様に特徴づけられることが明らかになった。供試体が完全に収縮的挙動を示して変相が生じない条件も特定され、それは初期拘束圧に依存することが明らかとなった。データの散らばりやひずみの局所化の影響もあるが、極限強度は初期拘束圧には依存せずに間隙比にのみ依存するようである。極限強度に達した後の強度低下はひずみの局所化が十分に発達した後のリング間のすき間からの砂粒子の喪失によるものと考えられる。

 繰返し載荷時の挙動も研究した結果、単調載荷時の応力経路が繰り返し載荷時挙動の1種の境界となるという他の研究成果との一致がみられた。繰り返し載荷中の応力の反転の度合いが挙動に影響を与えることが明らかになった。初期の静的せん断応力はその大きさが土のピーク強度に近づかない限り、その挙動に注目すべき影響を与えなかった。

 液状化後の挙動も研究し、単調載荷時に得られたものよりも小さな第2の極限強度へと漸近していく、連続的なひずみ硬化挙動を示すことが明らかになった。ゼロあるいは非常に小さい有効応力下での変形量は、液状化時のひずみ変形量に依存することが明らかになった。

 主要段階を表現するパラメーターの組による定体積挙動の特徴付けが、収縮的なひずみ軟化挙動に重点を置いて行われた。この特徴付けは先に述べた3つの特定された状態(初期ピーク、変相点、極限状態)でのせん断応力、有効応力、あるいは内部摩擦角に関して行われた。また大変形挙動のシュミレーションを確立するために、各主要段階での変形に基づいた解析方法を提案した。

 異なる拘束圧下での挙動のシュミレーションが応力変形関係,’-空間における応力経路の見地から行われた。大変形が生じた状態での原型と振動台上の模型との状態定数(密度、初期応力)間の関係が、等価間隙比の見地から提案された。大変形挙動は様々な特徴を持つため、この関係は唯一のものではないが実用的には有用である。原型における問題のうち模型においてシュミレートされるべき変形や応力、載荷方法などの見地から、模型における等価な挙動のためのパラメーターが提案された。この提案された関係もまた模型実験結果の解釈に便利な道具となるものである。

審査要旨

 近年問題になっている地震時の砂地盤の非排水大変形と流動破壊現象の予測には、砂の大変形挙動の理解が不可欠である。従来からこの方面の研究は、模型地盤の振動実験および三軸せん断やねじりせん断に代表される要素実験を通じて、活発に行なわれてきた。しかし模型実験は現象の再現としては興味深いものであるものの応力測定ができない欠点があり、大変形時の砂が備えている残留強度を決定できない。また要素実験には実現できるせん断ひずみが高々30%に過ぎないという限界があり、これは模型実験や現実に観測されるひずみより1桁小さく大変形とはいえなかった。本研究では、従来地滑りの研究に使われてきたリングせん断装置がひずみの限界を持たないことに着目し、非排水せん断を考慮するための改造を施した上で、砂の流動破壊時の残留強度を調べたものである。

 本論文は全部で六章から成っている。第一章は序論であり、研究の位置付けを説明している。

 第二章は当該分野における既往の研究をまとめたものである。従来行なわれてきた要素実験では、非排水条件の下で大変形するゆる詰め砂の応力ひずみ挙動をおよそ4つの段階に分類することが行なわれてきた。それらは、ひずみが小さく応力が単調増加する段階、ピーク後に応力が低下して軟化する段階、減少した応力のまま変形だけが増大する段階(準定常状態)、および砂が再び硬さを回復し始めて(変相と呼ぶ)応力が高まっていく段階である。しかし従来の装置ではひずみに限界があるため、最後の応力が高まっていく過程を追跡しきることができず、最終的に応力が一定になるのかどうか確言することが、できていなかった。

 第三章では、本研究で使用したリングせん断装置の改造および試料作製法について説明している。リングせん断装置では土試料を上下の溝状リングの間に設置し、リングの回転によってせん断する。長所としては回転量に上限が無く、原理的にはひずみも無限大まで実現できる。短所としてはリング間にすき間があるので砂を非排水条件に保つことができないことがあり、本研究では代案として体積一定せん断を行なえるよう改造を施した。体積一定せん断は従来から非排水せん断と等価であると認められてきたもので、流動破壊現象の再現に充分なものである。

 第四章では実験結果を説明している。リングせん断装置内部における砂試料の変形を、着色した砂帯を実験後に掘り返して観察する、という手法で調べている。それによると、従来の三軸せん断装置などに比べて本装置ではひずみが必ずしも一様に発生するとは言えず、特に大変形に至ったときにはごく狭い範囲に変形が局所的に集中する傾向がある。現実の流動破壊現象ではひずみが局所化しているのかどうかはまだ判明していない。ダムの破壊では局所化していたとの報告もあり、本研究はその方向に軌を一にするものである。

 本研究の実験結果によると、上述した変相後に応力レベルは再び上昇し、最終的には再び一定値に達することが判明した。この最終的残留強度は砂の間隙比によって定まり、初期の圧密応力の高低には依存しない。また、変相状態時の砂の変形は間隙比の増加とともに大きくなるものの、最終残留強度時の変形はほぼ一定値に保たれることも観察された。

 地震時に流動破壊する事例では、砂は大変形開始前にまず繰返しせん断を受けており、これと最終残留強度との関係を調べておくことが重要である。第五章ではこのような見地から、砂にまず繰返しせん断応力を作用させ、有効応力が消滅、液状化してから大変形を起こさせる実験を行なった。測定された最終残留強度は前述の単調載荷実験で観測されたものより小さく、繰返しせん断が砂の強度発現機構を攪乱しているものと推測された。

 第六章は実験結果の分析を扱っている。それによると、最終残留強度状態では、有効応力とせん断応力はともに間隙比に依存するものの、初期圧密応力には支配されない。本研究の重要な成果の一つに、実地盤の破壊現象を小型模型実験で再現するときの相似則の検討がある。ピーク強度後の軟化の度合いは砂地盤の崩壊し易さを代表するパラメータの一つであり、これを応力の高い実地盤と低圧の模型地盤とで等価に保つことが、両者を相似にする要件である。軟化の度合いは本研究によれば砂の密度と圧密応力レベルの影響を受け、実地盤から低圧の模型に移ったときには、同時に砂をゆるくしなければ相似が保たれないことがわかった。密度換算に必要な式も提案された。

 第七章はまとめと結論である。

 以上を要するに本研究は、地震時の砂地盤の非排水大変形・流動破壊現象に着目し、従来の装置ではなし得なかったような大変形をリングせん断装置によって実現、強度を調べたものである。また現象を模型実験によって再現するための地盤密度決定法についても重要な指針を提案した。本研究はこの述べたように、地盤耐震工学の進歩に貢献することろが大きい。よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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