土は大変形時にせん断ひずみが50%を越え、ときには400%に及ぶことすらある。砂地盤は地震により液状化が誘引された場合にそのような大変形破壊を被る。大変形は一般的に堤防の側方流動、自然傾斜地盤やダムなどの土構造物の流動破壊において観測される。地すべりもまた地盤の破壊を伴う大変形の例である。構造物にとって大変形は設計許容量を超えており深刻な問題である。構造物の受ける甚大な被害や破損、崩壊はこの大変形の影響である。 大変形やそれに関連する現象は通常、振動台による模型実験によって研究される。現地盤において観測される破壊は、模型地盤に振動台による加振等のアナログ荷重を入力することにより再現される。しかしながら模型地盤内においてその応力やひずみを測定するのは物理的かつ技術的な限界がある。模型実験結果や現地盤データとの相関を解釈する際に影響を及ぼす重要な要因として、主として密度や応力レベルに代表されるような地盤の初期状態に対する依存性がある。現地盤での応力レベルを自然重力場下での小規模模型では適切に再現できない。 この問題は低拘束圧下で大変形した時、特に液状化時の土の挙動に関する正確な情報の提供により解決される。慣例的に土の応力ひずみ関係は要素試験において観測される挙動から誘導された。通常の要素試験において供試体に作用させ得る最大変形量はせん断ひずみにして20%程度であり、このことからも先の方法で大変形問題に対処するのは不適切であることが分かる。 本研究では一定体積リングせん断試験装置を用いて、通常の要素試験装置の範囲を超えた砂の非排水大変形挙動の特徴について考察した。本試験装置により単純せん断状態での土の非排水ピーク強度、残留強度、極限強度が測定可能である。供試体の体積及び形状はせん断の間一定であるので、土が液状化した後でも破壊は継続できるようになっている。 広い範囲の初期状態下において豊浦砂の定体積挙動が調べられた。ひずみ軟化時の砂の挙動を明らかにする目的から、相対密度で50%を下回るような比較的緩い供試体に重点を置いた。拘束圧は10[kPa]から100[kPa]の範囲で加えた。 実験結果の考察からリングせん断試験機による定体積での豊浦砂の挙動は他の試験装置の結果と比較可能であることが確認された。ひずみの局所化が十分発達したせん断変形が10mmを越える、或いはせん断ひずみが50%を越えるような極限せん断強度に達するまでの挙動に対する境界条件の影響はきわめて小さいものであった。この変形量は三軸圧縮試験における2倍もの量であり、大変形挙動の研究における改善点である。大変形時の観察結果から、標準的な要素試験の最終状態から大変形挙動を類推するのは誤差を生じやすいということが明らかになった。また砂の挙動が完全に収縮的であったり膨張的であったりしたときのみ、標準的な要素試験において極限状態が観測可能であることも明らかになった。 単調載荷による実験結果から3つの異なる状態・段階について詳しく研究した。これらはせん断強度の最初のピーク、ピーク後の変相点、そして極限状態である。ピーク強度とひずみ軟化挙動が存在する場合の応力と密度条件が調べられた。変相点での応力は初期拘束圧に依存し、最小強度も同様に特徴づけられることが明らかになった。供試体が完全に収縮的挙動を示して変相が生じない条件も特定され、それは初期拘束圧に依存することが明らかとなった。データの散らばりやひずみの局所化の影響もあるが、極限強度は初期拘束圧には依存せずに間隙比にのみ依存するようである。極限強度に達した後の強度低下はひずみの局所化が十分に発達した後のリング間のすき間からの砂粒子の喪失によるものと考えられる。 繰返し載荷時の挙動も研究した結果、単調載荷時の応力経路が繰り返し載荷時挙動の1種の境界となるという他の研究成果との一致がみられた。繰り返し載荷中の応力の反転の度合いが挙動に影響を与えることが明らかになった。初期の静的せん断応力はその大きさが土のピーク強度に近づかない限り、その挙動に注目すべき影響を与えなかった。 液状化後の挙動も研究し、単調載荷時に得られたものよりも小さな第2の極限強度へと漸近していく、連続的なひずみ硬化挙動を示すことが明らかになった。ゼロあるいは非常に小さい有効応力下での変形量は、液状化時のひずみ変形量に依存することが明らかになった。 主要段階を表現するパラメーターの組による定体積挙動の特徴付けが、収縮的なひずみ軟化挙動に重点を置いて行われた。この特徴付けは先に述べた3つの特定された状態(初期ピーク、変相点、極限状態)でのせん断応力、有効応力、あるいは内部摩擦角に関して行われた。また大変形挙動のシュミレーションを確立するために、各主要段階での変形に基づいた解析方法を提案した。 異なる拘束圧下での挙動のシュミレーションが応力変形関係,’-空間における応力経路の見地から行われた。大変形が生じた状態での原型と振動台上の模型との状態定数(密度、初期応力)間の関係が、等価間隙比の見地から提案された。大変形挙動は様々な特徴を持つため、この関係は唯一のものではないが実用的には有用である。原型における問題のうち模型においてシュミレートされるべき変形や応力、載荷方法などの見地から、模型における等価な挙動のためのパラメーターが提案された。この提案された関係もまた模型実験結果の解釈に便利な道具となるものである。 |