内容要旨 | | 本研究は,フレーム構造と耐震壁が混在する鉄筋コンクリート造中低層壁フレーム構造の強震地動下の非線形応答に関する解析的研究であり,1)壁フレーム構造の壁量が地震応答に与える影響を把握し,2)ある性能を発揮するための壁フレーム構造における壁量とフレーム量の関係を与え,3)壁フレーム構造における有効な壁量について検討する,ことを目的し,全7章と付録(A〜F)からなる. 第1章「序論」では,研究の背景と目的,対象とする構造物の範囲と解析方針,解析手法の概要と論文構成について述べた.対象とする建物は,一定の変形性能を有するフレーム構造を主体とし,比較的小さな変形で最大耐力に達し,その後は耐力が急激に低下する旧来型の耐震壁が混在する. 第2章「既往の研究成果」では,耐震壁および壁フレーム構造の地震時の挙動に関する既往の研究について簡単に述べた.鉄筋コンクリート造フレーム構造および耐震壁の復元力特性に関する実験的研究,異なる復元力・履歴モデルを持つ耐震要素からなる構造物の地震応答などに関する既往の研究成果を概観した. 第3章「解析方法」では,フレーム構造と耐震壁の解析モデル,各耐震要素の挙動を模擬する復元力・履歴モデル,入力地震動,数値解析上の留意事項などについて解説した. まず,多層壁フレーム構造の非線形挙動を模擬する多自由度系モデルを開発した.壁フレーム構造を2つの構造システムからなる平面構造としてモデル化する.1つは,梁の非線形挙動に基づいてモデル化された耐震壁(曲げとせん断弾塑性変形の両方を考慮している)で,各々の耐震壁はいくつかの要素(マルチスプリングモデル)に分割されている.もう1つは,せん断型のフレームモデルである.この2つの構造システムは,各フロアレベルで剛な要素によって連結され,変形は同じとなる.質量は各フロアレベルに集中させ,1階柱脚は固定とした. 層のせん断力-変形関係は,フレームについては,降伏後剛性が0となるトリリニア,耐震壁については,降伏後剛性が負勾配となり,耐力が1/10まで低下すると一定となる4折れ点をもつスケルトンカーブとした.耐震壁のスケルトンカーブは,曲げ理論と経験式に基づいた解析結果に合うように設定した.耐震壁の長さは5m,10m,15m,厚さは0.2mとし,せん断補強筋比は0.3%,側柱の引張り側主筋比は1%から2%とした. フレームの各層の履歴則にはTakedaモデルを使い,耐震壁のせん断挙動にはVallenas(1979)によって提案された履歴則を用いた. 4,8,12階建建物について解析した.フレームの耐力分布,剛性分布は,日本の耐震基準により定め,そのベースシア係数はパラメトリックに変化させる.耐震壁の耐力と剛性は全層均一とし,そのベースシアもパラメトリックに変化させる.壁曲げ変形比(単位荷重時の耐震壁頂部の弾性曲げ変形の弾性せん断変形に対する比)もパラメータとして設定する. 入力地震動としては,7つの強震記録を地動最大加速度0.8g,0.5gに規準化して用いる. 第4章「パラメータの代表値設定に関する予備解析」では,耐震壁のせん断力-変形角関係における最大耐力時以降の負勾配,壁ベースシア係数の全体ベースシア係数に対する比が変化したときの,耐震壁頂部における曲げ変形比の地震応答に対する影響を見るための予備解析を行った. 1.耐震壁の最大耐力時以降の負勾配に関しては, (a)が0.25から2.0の範囲では,壁フレーム構造の最大応答変形には,さほど影響がない. (b)が4.0より大きくなると,最大応答変形は,が2.0以下の壁フレーム構造より小さくなっていく. 以上から,耐震壁の最大耐力時以降の負勾配は,以下の解析を通して1.0に固定することとした. 2.壁曲げ変形比に関しては, (a)大きな壁曲げ変形比(>0.2)をもつ耐震壁がせん断で破壊するとき,壁フレーム構造の全体の応答は非常に大きくなる。 (b)壁曲げ変形比が小さい場合は(p=0.05),壁のせん断破壊は起こらず,最大応答変形は耐震壁の破壊の有無にかかわらず,が大きくなるに従って,徐々に減少する. (c)中低層フレーム構造の場合,壁量が0.5〜0.6以上になると,壁の曲げ変形比が大きくなるに従って,その有効性は増す. 以上のことから,以下の解析では,曲げ変形比は0.2に固定する. 第5章「壁フレーム構造の地震応答に及ぼす耐震壁の効果」では,様々なベースシア係数の壁およびフレームからなる壁フレーム構造に対して,地動最大加速度を0.8gに規準化した(予備的に0.5gに規準化した場合も行った)様々な入力地震動を用いた地震応答解析を行った.壁量の壁フレーム構造の地震応答に与える影響について,フレームのベースシア耐力に関連して議論した. フレームのベースシア耐力により,最大応答変形に2つの傾向が見られた. 1.フレームの耐力が低い場合は, (a)耐震壁のせん断破壊のため,構造物全体は大きな変形となり,耐震壁がせん断破壊する範囲では,壁量が増えても応答変形は大きいままである. (b)耐震壁が破壊しないと応答は激減する. 2.フレームの耐力が大きい場合は, 壁の破壊の有無にかかわらず,壁量が増えるに従って応答は減少していく. 第6章「許容応答量に応じた壁量の算定」では,ある規定された最大応答変形(=2,4)となる全ての組み合わせをカバーするように耐震壁とフレームのベースシア耐力を変化させ,前章と同様の仮定とパラメータを用いた壁フレーム構造の応答解析を行い,規定された壁フレーム構造の応答になるような耐震壁とフレームのベースシア耐力の関係の傾向について論じた.議論を一般的なものとするために,耐震壁とフレームのベースシア耐力がほぼ入力地震動の地動最大加速度に比例するように,構造物の部材耐力をベースシア耐力比(降伏時の水平加速度の地動最大加速度に対する比)によって決める.耐震壁要素の有効性を損傷のレベルによって判断する.主な結論は,次のようになる. 1.耐震壁を弾性曲げ変形を考慮してモデル化した場合: (a)フレームが破壊する点における必要壁耐力比wとフレーム耐力比fは,wとfが楕円上に位置する組み合わせで推定できる.これは,壁耐力比が小さい場合に有効である. (b)壁耐力比が大きい場合は,壁量が増えても,必要な壁耐力は変わらない.これに対応する包絡線は,壁とフレームの耐力比の線形な組み合わせによって推定できる.この包絡線は,弾性応答と構造物の破壊の境界線となっている. 2.耐震壁を非線形曲げ変形を仮定してモデル化した場合: (a)壁量が少ない場合の耐震壁とフレームの必要な耐力比は,1.と同様に楕円上に位置する組み合わせで推定できる. (b)壁量が中程度である場合は,耐震壁がせん断破壊しないときは,必要なせん断耐力比は,壁量が増えても一定となる傾向がある.全体の降伏耐力比は,フレーム単独の必要耐力よりむしろ小さくなる場合もある.本解析では,曲げ塑性変形が大きく,耐震壁の曲げ靭性が無限で耐震壁の曲げ破壊が起こらないとしているので,これらのケースはもっと綿密な検討が必要である. 3.弾性曲げ変形を考慮してモデル化した耐震壁の場合は,包絡線は壁フレーム構造における全体の必要な耐力比の上限を与える.耐震壁の非線形曲げ変形を考慮するとその包絡線は下に下がる傾向がある. 第7章「結論」では,各章の内容および主要な成果を総括した.本研究で対象とする壁フレーム構造に関して,ある規定された応答変形に収めるための必要な耐震壁の量を推定するのに,第6章で得られた式が有用であることを述べた. 付録Aでは,第2章と関連して,復元力・履歴特性の異なる耐震要素からなる一自由度系の地震応答をエネルギー応答に基づいて推定する略算法を提案し,その有効性について検討した.付録B〜Eでは第3章の補足として,耐震壁とフレーム構造に対し復元力モデルの特性値を設定するための事例解析,各種剛性行列の設定方法,履歴則,数値積分法などの詳細を解説した.付録Fでは数値解析結果のうち,本文で直接引用されていない図表を収録した. |