本論文は「ブレース型履歴ダンパーを用いた構造物の耐震設計」と題し9章より成る。 第1章「序」では、本論文が、柔剛混合構造と呼ばれる骨組の新しい耐震設計手法の実現の可能性の確認と、設計手法の明確化を目的としていることが述べられている。柔剛混合構造は多層骨組を主として鉛直荷重に対して設計し、これにエネルギー吸収要素を組み込むことによって骨組に耐震性を賦与する設計法である。骨組は地震時に概ね弾性挙動する柔要素と見なされ、エネルギー吸収要素は弾性剛性が高く、塑性変形能力に富む剛要素と見なされる。本論文では軸組筋違(ブレース)形式の剛要素が用いられる。ブレースはH形鋼材にエネルギー吸収素子を結合することにより構成される。エネルギー吸収素子としては鋼製ボルトないし、穴あき鋼板が用いられる。 第2章「履歴ダンパーを用いた柔剛混合構造の一般化と応答予測」では、柔剛混合構造に関する既往の研究成果を総括すると共に、履歴ダンパーの累積塑性変形と最大変形応答との対応関係を一般的に求め、柔要素の塑性化の応答に及ぼす影響を定量化し、より一般化された設計基本式を地震時における骨組のエネルギーの授受に着目して導いている。 第3章「エネルギー吸収素子の終局エネルギー吸収能力」では、本論文で取り挙げた2つのエネルギー吸収素子の材質、幾何形状をパラメーターとして、エネルギー吸収素子が繰り返し荷重下で破断に至る迄の終局エネルギー吸収能力の予測式を導いている。終局エネルギー吸収能力は、骨格曲線状のエネルギー吸収量とバウシンガー部におけるエネルギー吸収量に分解でき、骨格曲線は一方向荷重下の荷重変形関係と一致することに基づき理論的に求めることができ、バウシンガー部は実験式として定式化できることが示されている。 第4章「エネルギー吸収要素と設計式」では、エネルギー吸収素子を組み込んだブレース型ダンパーの構成方法が論じられ、ブレース各部の応力伝達機構に基づくダンパーの設計条件が明示される。本章では、ブレースは圧縮軸力下で座屈しないものとして定式化が成されている。本章で提案されたブレース型ダンパーは実大実験により所要の性能を発揮することが確認されている。 第5章「ブレース型ダンパーの座屈解析」では、ブレース型ダンパーの成立条件として必須の座屈防護のための条件を解析により明らかにし、実験により座屈評価式の妥当性を確かめている。エネルギー吸収素子の剛性に基づき、ブレース材としての曲げ剛性を求め、剛棒と曲げ回転バネから成るリンク機構の安定条件から座屈荷重は導かれる。 第6章「ブレース型ダンパーを有する骨組の地震応答」では、現実的なブレース型ダンパーを有する骨組についての地震時応答を解析により求め、骨組各層の最大変形発生時点迄のエネルギー吸収は主として骨格曲線でなされ、それ以後はバウシンガー部でエネルギー吸収がなされること、柔要素の多少の塑性化は骨組の全体応答に悪影響を与えないことを確認している。 第7章「ブレース型ダンパーを有する剛接骨組の耐震設計法」では、一連の実験、解析に基づいて、ブレース型ダンパーを組み込んだ剛接骨組の耐震設計法を体系化し、具体的な設計条件を明示している。 第8章「設計法の検証」では、7章の手法に基づいて設計された6層及び15層の骨組について応答解析を行い、設定された性能が実現されていることを確認し、ブレース型ダンパーを組み込んだ骨組要素について、振動台を用いた実大実験により、動的挙動の予測精度を確認している。 第9章「結論」では、本論文の成果をまとめている。 以上本論文は、新しい耐震構造であると目される柔剛混合構造の実現性をブレース型ダンパーの適用の観点からとらえ、ブレース材の座屈回避、終局エネルギー吸収能力の実験的評価、応答予測のエネルギー論的評価を通して、設計法を明確に体系化したものである。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |