世界的に見ると、生活から発生する廃棄物の大部分は埋め立てられている。埋め立てられた廃棄物は土壌中で分解を受けるが、同時に浸出水が水系への汚染を招く恐れもある。埋め立てられた廃棄物は早期に安定化されることが望ましい。本研究は、廃棄物中の窒素成分に着目し、それらの硝化・脱窒反応による安定化とその際に生じる亜酸化窒素の生成の可能性について検討を行ったものである。 本論文は「埋め立て廃棄物の性状と通気条件が硝化・脱窒及び亜酸化窒素発生に与える影響」と題し、全7章からなる。 まず第1章では、本研究を行うに至った背景、目的、意義について述べている。その中で、とりわけ浸出水を循環する準好気性埋め立てについて、窒素の分解除去の観点からの利点を述べ、それを本研究で対象としていることを述べている。一方で、温室効果ガスとしての亜酸化窒素の重要性ついても指摘している。わが国に流入する窒素が過多となっており、それが地下水汚染や富栄養化の形で環境問題を引き起こしているが、従来廃棄物埋め立てではこの窒素の問題はあまり取りあげられてこなかった。本研究は、その窒素の問題を取りあげた点で新しく、またそこに亜酸化窒素発生の視点を入れた点に特徴がある。 第2章は、本研究で扱う廃棄物の窒素変換に関する理論的な背景についてまとめたものである。その中では、硝化・脱窒のみならず、土壌系の亜酸化窒素の生成に関する知見をもレビューしている。 第3章は実験材料と分析方法について述べた章である。本研究では廃棄物の埋め立てを対象としているが、研究を行う上では実際の廃棄物を用いることは現実に困難であり、また組成の不均一性の面からかえって問題がある。しかし一方で、たとえばグルコースのような物質のみを基質にしたのでは単純化しすぎることになる。そこで、実際のコンポストにドッグフードとでんぷんを添加したものを人工ごみとして用いるという方法を取っている。また、本研究では発生する亜酸化窒素の起源を明らかにするために、窒素の安定同位体を用いたトレーサー実験を行い、発生する亜酸化窒素中のトレーサー濃度を定量する方法を取っている。さらに、近年応用が進んでいる分子生物学的手法について、本試料に対して試みた手法を述べている。 第4章は、廃棄物層が持つ含水率が窒素変換と亜酸化窒素に与える影響を検討した結果を述べたものである。埋め立て層内の酸素濃度を10%にして含水率を40〜60%の間で変化させて実験を行い窒素成分の物質収支を詳細に検討した結果、含水率の増加に伴って、硝化のみならず脱窒の速度も増大したことがわかった。一方、この条件下で行ったトレーサー実験によって、発生する亜酸化窒素は全て脱窒起源であるという事が判明した。更に、含水率が大きければ、一旦発生した亜酸化窒素の還元・分解が進むことも示された。層内の酸素濃度をこのように見かけ上十分に保っていても脱窒が起きること、さらにそこで亜酸化窒素の発生が起きてしまうこと、さらに含水率が微環境中の酸素濃度を支配していることをこれらの実験結果は示唆するものである。また、実用的には、含水率を高く保つ方が最終的な窒素の安定化段階である脱窒が良好に進むことが指摘されている。 第5章は通気条件が与える影響を調べたものである。硝化と脱窒の比率は酸素濃度に影響されるが、酸素濃度を15%程度に保ってもなお脱窒が起きるということを示している。全体の窒素安定化としては、硝化が反応の律速となり、一方脱窒は高い酸素濃度下でも進行することから、窒素安定化の面では通気を十分に行う方が有利である、と結論づけている。しかし一方で、酸素濃度が高いほど脱窒に際して発生する亜酸化窒素の比率が高いという、極めて重要な点も本研究は明らかにしている。このことは、窒素の早期安定と亜酸化窒素の発生防止のための最適条件には相反する側面があることを示すものとして注目される。 第6章では今回の研究結果と実際の埋め立て地での条件との関連を整理している。 第7章は結論である。 本研究は、廃棄物の埋め立てにおける窒素成分の安定化という、今後重要になる問題を捉え、併せて亜酸化窒素生成防止という地球環境問題からの視点を加えて埋め立て技術を解析したものであり、今後の埋め立ての方法に対して重要な知見を提供した。よって本論文は環境工学の発展に大きく寄与するものであり、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |