最近、新しい浄水処理方法として膜分離を利用する研究が注目されている。しかし、膜分離法を浄水システムとして確立するためには、高性能膜の開発や、膜ファウリングの抑制技術の開発、洗浄排水の処理方法の開発などの問題が残されている。 膜分離型浄水プロセスより発生される排水は、主に膜濾過性能を維持するために定期的に行う揺動洗浄や逆圧水洗浄などの物理洗浄排水と、膜間差圧上昇の際に実施する薬品洗浄廃水がある。このうち物理洗浄排水の発生量は、原水処理量の5〜10%にあたり、浄水の回収率を低下させる原因となっている。また、洗浄排水中には膜濾過によって除去された浮遊物質や、懸濁物質、金属類、細菌類などが多く含まれており、適用する膜によっては微量有害物質も濃縮される可能性があるため、量的・質的な問題が懸念されている。 洗浄排水の処理方法として、再び膜分離によって濃縮する方法は、従来の重力濃縮と比較して、無薬注のまま低濁度排水の直接濃縮などが可能となり、脱水・乾燥処理への負荷変動を吸収して排水処理システム全体の高効率化が期待できる。さらに、膜の優れた固液分離特性により、排水の濃縮とともに得られる濾過水は清澄性が高く、膜濾過水を浄水としてそのまま利用できる。 そこで本研究では、膜分離型浄水プロセスから排出される洗浄排水のより効率的な処理方法の開発を目的として、洗浄排水を再び膜濾過によって濃縮すると同時に膜濾過水を回収し、浄水の回収率を向上する膜濾過濃縮装置を考案し、人工排水を用いた膜濾過濃縮実験と、実際の膜分離浄水プロセスから発生する洗浄排水を用いた実証パイロットプラント実験を行った。 考案した膜濾過濃縮装置によれば、洗浄排水への間欠的な凝集剤の添加は濁質の凝集・沈澱に効果はあるが、凝集フロックの一部が膜糸に付着して膜糸間閉塞現象(Inter Fiber Clogging)を起こす傾向が見られた。 これに対し凝集剤無添加の場合には、膜濾過に伴って濁質の濃度差による界面形成及び下降が生じ、より効率的に洗浄排水の濃縮ができた。 膜充填密度(濾過部容積あたりの膜面積)が異なる膜濾過濃縮槽を用いて膜濾過濃縮実験を行った結果、膜濾過に伴う界面形成及び下降は膜充填密度に大きく影響を受けることが分かった。 膜濾過に伴う膜濾過濃縮槽内の界面下降をモデル化しシミュレートした結果と、界面下降の測定値と比較したところ、界面下降は膜濾過に伴う水の流れに起因することが明らかになった。また、この界面下降が生じるには、一定の条件(単位容積当たりの膜面積、排水注入・排除方法など)が必要であることが示された。 提案した膜濾過濃縮装置の性能を実証するため、実際の膜洗浄排水を用いたパイロットプラント実験を行い、運転の安定性、濃縮液の濃縮性、濾過水の性状、回収率の向上などについて実用面から考察した。 その結果、提案した膜濾過濃縮装置は、凝集剤を添加せず2〜3ヶ月間連続的に膜洗浄排水を40〜100倍に濃縮することが実証され、膜洗浄排水の処理システムとして有効であると考えられる。 また、洗浄排水の濃縮とともに得られる膜濾過水は、懸濁成分である濁度、総鉄、総マンガン、総アルミニウム、大腸菌群などがほぼ100%除去され、通常の膜分離型浄水プロセスの膜濾過水と同等な水質が得られた。 洗浄排水処理の濾過水は、膜分離浄水プロセスの原水へ返送して回収する方法、あるいは、水質の安全性が確認できればそのまま膜分離浄水プロセスの浄水として利用する方法をとることができ、膜分離システム全体の回収率を99.9%以上に向上することが可能であることが示された。 |