内容要旨 | | クリープ疲労相互作用は,高温構造設計において重要な研究課題である。先行研究において,改良9Cr-1Mo鋼のクリープ疲労相互作用の非線形性に着目して,損傷機構に基づくクリープ疲労損傷評価モデル(非線形クリープ疲労相互作用則)が提案された。本研究では,より一般性のある,すなわち,異なる材料に対して高精度で適用可能なクリープ疲労損傷評価法の確立を目的として,改良9Cr-1Mo鋼に対して開発された非線形クリープ疲労相互作用則を316FR鋼に対して適用・拡張した。 まず,二段二重変動波形,二段多重変動波形,過大疲労負荷挿入変動波形の3種類のひずみ波形を用いた波形変動試験を650℃,0.1Pa高真空中で実施し,316FR鋼におけるクリープと疲労の相互作用を実験的に詳しく検討した。その結果,クリープと疲労の相互作用は非線形であることが分かったが,316FR鋼の場合,先行研究における改良9Cr-1Mo鋼の場合と比較すると,その非線形性は小さいことが分かった。さらに,波形変動試験により得られた破面を観察した結果,316FR鋼と改良9Cr-1Mo鋼の大きな違いは,316FR鋼のような高延性の材料の場合,クリープによって材料内部に生じた欠陥から疲労き裂が発生・伝ぱしにくいことであることが分かった。 次に,改良9Cr-1Mo鋼に対して開発された非線形クリープ疲労相互作用則の原型モデルをそのまま316FR鋼に対して適用し,その評価精度について検討した。非線形クリープ疲労相互作用則とは,損傷力学の概念に基づく連続損傷則であり,クリープ疲労損傷機構を以下のように考えている。疲労は損傷の発生と成長の二過程より成るものであり,クリープは損傷の発生過程のみと考える。クリープ疲労の場合は,クリープ,および,疲労により発生した損傷がそれぞれ疲労により成長すると考える。疲労損傷の発生寿命,および,疲労による損傷の成長則は,人工損傷材を用いて実施した疲労試験の結果より求めることができる。また,クリープ損傷の発生則については,ひずみ波形一定の基本的なクリープ疲労試験結果より求めることができる。ひずみ波形一定のクリープ疲労試験結果,および,人工損傷材を用いた疲労試験結果から,非線形クリープ疲労相互作用則における材料定数を決定した。そして,ひずみ波形一定のクリープ疲労試験,および,二段二重波形変動試験の寿命予測を実施し,本寿命評価法の評価精度について検討した。その結果,ひずみ波形一定のクリープ疲労試験結果は,良好な精度で評価可能であったのに対し,特に,クリープ疲労型から疲労型にひずみ波形を変動する二段二重波形変動試験の寿命評価精度は不十分であった。ここで,特に寿命評価精度が不十分であった二段二重波形変動試験の結果,破面観察の結果,および,寿命評価結果について再検討し,寿命評価精度が不十分であった理由について検討した。その結果,クリープ損傷の発生,クリープ損傷の大きさの初期値,および,クリープ損傷発生則についてさらなる検討が必要であると考えた。 さらなる検討が必要であると考えられた項目のうち,まず,クリープ損傷の発生に関して,クリープ損傷潜伏期間同定試験を実施することにより詳細に検討した。クリープ損傷潜伏期間同定試験とは,クリープ疲労型ひずみ波形をどの程度負荷すると寿命に影響を及ぼすようなクリープ損傷が材料内部に発生するか,あるいは,疲労によって成長しうるようなクリープ損傷が生じるか,という点を実験的に検討するために実施したものである。試験方法は,クリープ疲労型ひずみ波形をあるサイクル数負荷した後,いったん試験を中断し,試験片表面を研摩した後,さらに疲労型ひずみ波形を破断まで負荷するという方法をとった。試験片研摩は,クリープ疲労型ひずみ波形を負荷した際に試験片表面に生じた疲労損傷を除去するために行った。その結果,316FR鋼の場合,クリープ疲労負荷条件下において,疲労によって成長しうるようなクリープ損傷が発生するまでの期間(クリープ損傷潜伏期間)が存在することが明らかとなった。クリープ損傷潜伏期間の破断寿命に占める割合は,ひずみ波形に依存し,10〜35%であった。 そして,解析検討から,モデル上,クリープ損傷潜伏期間をクリープ損傷発生寿命として考慮する,すなわち,クリープ損傷潜伏期間中はクリープ損傷が全く発生しない,と考えると寿命評価精度が向上することが分かった。そこで,クリープ損傷発生寿命を考慮することにより,非線形クリープ疲労相互作用則を316FR鋼に対して拡張した。さらに,クリープ損傷の大きさの初期値については,解析的検討,および,実際の破壊形態とモデルとの対応関係調査の結果に基づき修正した。改良9Cr-1Mo鋼の場合,クリープにより生じた材料内部の微小な欠陥から疲労き裂が発生・伝ぱしやすいためにクリープ損傷発生寿命Nccを考慮しなくても妥当な評価が可能であったのに対し,316FR鋼のような高延性の材料の場合,微小な欠陥から疲労き裂が発生・伝ぱしにくいという点を,クリープ損傷の発生寿命が存在する,という形で考慮することによってクリープ疲労相互作用の適切な評価が可能になる。拡張された非線形クリープ疲労相互作用則は,クリープ損傷発生寿命Ncc=0と考えれば,そのまま改良9Cr-1Mo鋼に対しても適用可能である。したがって,クリープ損傷発生寿命を考慮することにより拡張された非線形クリープ疲労相互作用則は,より一般性を持つものということができる。 本研究で拡張した非線形クリープ疲労相互作用則における各評価式を以下に示す。なお,応力の単位は[kgf/mm2],時間の単位は[s]である。 ここで,vfは疲労損傷面積密度,af0は疲労損傷の大きさの初期値,affは疲労損傷の大きさの疲労による増分,vcはクリープ損傷面積密度,acoはクリープ損傷の大きさの初期値,acfはクリープ損傷の大きさの疲労による増分である。 ここで,H[]はHeavisideのステップ関数であり,u>0のときH[u]=1,u0のときH[u]=0である。また,<>はマコーレ括弧であり,u>0のとき<u>=u,u0のとき<u>=0である。 |