本論文は、「取り巻きセンサシステムによる人の生理的行動理解に関する研究」と題し、7章からなる。本論文は、生活環境で発現する人の自然な行動を機械システムが人の生理的状態を理解するための情報伝達メディアとして利用し、自然な形をした環境が、このような行動を無拘束観察する新しい環境システムのセンサ構成法と観察された行動から人の状態に関する生理的な意味を理解する手法に関して述べたものである。 第1章「序論」では、本研究の背景と目的、および本論文の構成を述べている。 第2章「取り巻きセンサ構成に基づく環境システム」では、従来の生体計測技術の課題を整理し、この課題を解決するシステムの設計思想として、自然な行動の無拘束観察を自然な形を備えた環境で実現する環境型システムの必要性を指摘している。また、このような環境型システムを具現化する上で、日常定型行動に着目する利点を整理し、日常定型行動の観察を目的とした環境システム構成法として、取り巻きセンサ構成法を述べ、その特徴を明らかにしている。さらに、この構成法に基づいて視覚センサ、圧力センサから構成された取り巻きセンサシステムについて述べている。 第3章「生理的行動を理解するアーキテクチャ」では、身体の内部までセンサを侵襲させる侵襲計測や、センサを体表で固定してしまう拘束型計測による直接的計測とは異なり、取り巻きセンサシステムでは、計測できる体表での物理量から人の内部の生理量を推定する必要性を指摘し、このような推定を可能とする枠組として階層的人間モデルと遡及処理機能を提案している。 第4章「視覚情報を用いた睡眠時無呼吸症候群診断システム」では、構築した取り巻きセンサシステムの視覚センサを用いて睡眠中の人の胸部・腹部を観察することで、呼吸運動だけでなく、呼吸換気量を計測できる階層的人間モデルについて述べている。また、これを睡眠時無呼吸症候群診断へ適用し、診断原理と呼吸計測原理を理論的に考察している。さらに、実際の患者を対象とした実験により、無拘束に診断が行なえることを示し、構築したシステムとモデルの有効性を示している。 第5章「圧力情報を用いた体位・呼吸理解システム」では、圧力センサを用いた体位・呼吸の検出を行なう物理層と、体圧履歴を検出する生理層からなる階層的人間モデルについて述べている。本研究で提案した呼吸を計測するアルゴリズムである同位相加算法と、体位を計測するためのアルゴリズムである芯線近似法について述べ、これらの手法の有効性を実験により検証している。また、芯線近似法による体位モニタを床ずれ防止支援機能へと応用している。 第6章「遡及処理を用いた計測の連続計測化・頑健化」では、画像バッファを応用した遡及処理機能を提案し、視覚センサによる睡眠中の呼吸計測の連続保障と高精度化へ適用することで、この機能の有効性を検証している。 第7章「結論」では、これまでの各章で展開した議論を総括し結論を述べている。 以上、本論文は,生活環境で発現する自然な日常行動を情報の伝達メディアとして利用し,自然な形をした環境が行動を無拘束観察する環境システムの構成法と観察された行動から人の状態に関する生理的な意味を理解する手法を示し、それを具体的な医用アプリケーションとして、呼吸・体位モニタシステムに適用することで提案した構成法の実現可能性と手法の有効性を検証したものであり、機械工学に貢献するものである。よって、本論文は東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻における博士の学位請求論文として合格と認められる。 |