本論文は、表面活性化による常温接合法(Surace Activated Bonding at Room Temperature,SAB)により接合したAl/-Al2O3界面について、主に透過電子顕微鏡法(TEM)を用いた微細構造解析により、SABの異種材料間の初期界面形成の動的過程を明らかにしたものである。 熱過程を全く経ない常温での接合界面形成という複雑な現象を、個々の現象に分解検討を加えた後、それらを統合することでAl/-Al2O3界面の微細構造を明らかにしていった点が評価された。 具体的には、まずSABによるAl/Al界面形成が、Al表面に存在するnmオーダーの微小突起の先端部で接合が行われ、その接合部の形状が変化していること、また接合界面付近での格子構造から、接合が単なる機械的な接触ではなく、微視的な原子の拡散および再配列を伴う動的過程を明らかにした点が評価された。 また、Ar衝撃による表面活性化処理をした-Al2O3表面を接合せずにその断面観察を行い、試料再表面が相から相に相変態していることを、高分解能TEMおよび電子エネルギー損失分光法(EELS)により発見した。これにより、表面活性化処理の-Al2O3表面への影響と接合前の試料表面の構造を捉え、Al/-Al2O3界面構造の理解を容易にした点が評価された。 次に、巨視的な粗さを持つAl表面が、接合時に加えた圧力下で-Al2O3側に押し付けられて組成変形していくことによって生じた、Al内部界面近傍の小傾角粒界網の形状および転位を明らかにすることで、粗さを持つAl金属表面の変形過程を明らかにした点が評価された。 そして、考察は界面の原子構造に移り、Al/Al界面同様、A1表面の微小突起部がAr高速原子衝撃により生じた表面-Al2O3相との接合部の原子構造を明らかにしている。具体的には、界面極近傍では、Al(111)面が双晶面の多数のmicrotwinを含む乱れた構造を持ち、このmicrotwinが、元来Alと-Al2O3の結晶方位には数度の誤差があるにもかかわらず、Alの結晶方位よりもむしろ-Al2O3の結晶方位に揃い、Al(111)[110],ア[11]‖-Al2O3(0001)[100],[110]という優先関係があることを突き止めている。また、Ar照射を行った-Al2O3にMBEによりAlをepitaxial成長させ、その界面構造の格子像解析から、界面に反応相がないこと、及び同様な優先方位があることを実験的に検証確認している。以上の観察結果により、異種材料の界面形成過程が、単なる表面原子層同士の接触による結合形成だけではなく、格子定数や結合様式などの物理/化学的な相違や表面形状の相違といった、様々な種類のミスマッチを克服するために、界面近傍の原子の再配列を伴う現象であること、しかしながらそれが母材に影響を及ぼさず極界面近傍のみの現象であることを実証しており、この点が特に評価された。 さらには、接合体を773Kで熱処理し、熱的挙動に関しても考察を行い、Al側の乱れた構造が消失し、そして-Al2O3の層がの層に層変態し、テラス状にAl側に成長するという現象を確認している。そして、結晶方位関係から、界面では結晶の対称性より電荷のバランスという化学的な要素が熱処理後の界面形成に影響していることを明らかにした点が評価された。 以上の結果より、本論文は、透過型電子顕微鏡的手法を駆使し、Al/Alの常温接合界面形成過程が単なる機械的な接触による結合ではなくAl原子の再配列より安定な構造を形成することを示した点、Ar衝撃による表面活性化処理により、-Al2O3の表面が-Al2O3の層に相変態するという影響をを明らかにした点、そして、以上のことを踏まえ、またMBEによるAl膜生成などによる界面での優先方位などの比較実験などとも比較研究をしつつ、Al/-Al2O3界面の乱れた原子構造を明らかにした点、そしてその接合界面の熱的挙動にまで考察を広げた点などを特徴としており、熱過程を全く経ずに行う常温接合法による異種材料の界面形成過程の基礎的な知見を与えるものであり、今後の常温接合法の応用ばかりでなく、広い意味での異種材料間の界面設計に大きく貢献するものであるとの評価が与えられた。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |