学位論文要旨



No 113359
著者(漢字) 金井,崇
著者(英字)
著者(カナ) カナイ,タカシ
標題(和) 3角形メッシュによる自由形状モデリング
標題(洋)
報告番号 113359
報告番号 甲13359
学位授与日 1998.03.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4077号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 木村,文彦
 東京大学 教授 杉原,厚吉
 東京大学 教授 大園,成夫
 東京大学 助教授 佐々木,健
 東京大学 助教授 太田,順
内容要旨

 計算機上に3次元形状モデルを構築し利用する試みは,既に製造分野のみならず,娯楽や歴史,医学など様々な分野に広く浸透しつつある.その中で形状モデルの表現方法はそのニーズや目的により異なった形式が用いられている.娯楽産業や考古学などの分野では,精度はそれほど重要ではないものの,様々な形状,すなわち,人工物に加え,自然物などの滑らかな形状と微小な凹凸の形状が混在しているような複雑な形状を表現できることが必要になる.このような形状をここでは自由形状と呼ぶことにする.

 この自由形状を表現する方法として,平面の多角形,特にその中でも最小構成である3角形の組み合わせである3角形メッシュによる表現がある.3角形メッシュは,3次元コンピュータグラフィックスの最も基本的な形状モデリングの表現形式である.本論文は,3角形メッシュにより自由形状をいかに構築するか,ということを研究の目的としている.

 まず形状モデリングは,形状を計算機に入力することから始まる.従来のモデラによる形状モデリングでは,複雑な形状,特に実体からの形状入力は非常に困難であった.ここでは,非接触型3次元形状測定装置から得られる測定点群を入力とした,3角形メッシュで構成される形状モデルの生成方法について提案した.

 まず,複数の測定方向から得られた測定点群12∪…∪i∪…(i=1…nmes:nmesは測定方向の数)と測定方向ベクトルniを用いて,形状存在解析アルゴリズムにより初期形状モデルM0を生成した.形状存在解析アルゴリズムは以下の手順で実行される.

 1.3次元空間上に,測定点群Xを囲むような直方体の領域を作り,その中に格子を定義する.この領域にポテンシャル場を考え,格子にポテンシャル値を格納していく.

図1:3次元測定点群からの自由形状の生成結果

 2.各方向からの測定点群iと測定方向ベクトルniから,形状の存在を解析し,単面格子データiを生成する.この操作をすべての方向の測定点群について行なう.

 3.各単面格子データの論理値をもとに演算を行なって合成し,全面格子データを作る.

 4.得られた全面格子データに対し,ポテンシャル場の0曲面(ポテンシャルの値が0の点からなる曲面)として,マーチングキューブアルゴリズムを用いて初期形状モデルM0を得る.

 このようにして得られた初期形状モデルは,位相構造は正しく構築できるものの,実体モデルとはかなりかけ離れた形状モデルが出力される.そこで,XとM0を入力として,形状モデルの簡略化を行なった.

 この簡略化アルゴリズムは,初期形状モデルM0と,点列Xから,M0と位相同形でかつXに近い,少数の頂点を持つ形状モデルMを生成することを目的としたアルゴリズムである.表現の複雑性と形状の忠実性を取り引きするようなエネルギ関数Eを定義し,これを頂点の最適配置と,エッジ消去,エッジ交換,エッジ分割の3つのエッジ操作を繰り返すことで減少させていく,というものである.最初にすべてのエッジを基本操作の候補とし,その中から無作為にエッジを抽出する.抽出したエッジに対して基本操作を順に試し,エネルギ関数が減少すればその操作を更新する.そして候補となるエッジがなくなるまでこれらの操作を繰り返すことでエネルギ関数の最小化を行なう.

 以上の手法を用いて,3次元測定点群から自由形状を生成した結果の1例を図1に示す.この簡略化手法から生成される形状モデルの性質を幾何学的特徴という点からまとめると,以下のようになる:

 ・曲率の高い領域は密になり,平坦の領域はより大きな面から構成される.

 ・長いエッジが低い曲率の方向に伸び,3角形のアスペクト比が局所的な曲率に対応する.

 ・簡略化されたメッシュの稜線や頂点は,オリジナルのメッシュの鋭角の特徴に近いところに配置されるようになる.

 ・形状の簡略化とそれに伴う面の数は,形状の特徴によって大きく左右する.

 さらに,この簡略化手法を簡略化の局所的制御が行なえるように拡張した.図2に,古代人骨の頭骨モデルに適用した例を示す.この例を見てもわかるように,保存したい部分(下顎窩と上歯)が他の部分が簡略化されているにも関わらず,形状を保存されているのを確認することができた.

図2:(a)均一の重みによる簡略化結果(b)特徴付近の重みを変えたときの簡略化結果

 次に生成された形状モデルを,ユーザが望むようなモデルに変形することが必要になる.形状モデルを変形するには幾つかの方法があるが,本論文では制御線群にもとづく形状モデル変形手法を提案した.この手法は,ユーザが変形の対象となる形状に複数の制御線群を設定し,その制御線群の変形に沿って対象形状を写像によって変形させる,という手法である.変形の影響は制御線毎に設定される重み関数で調節することができる.

 制御線群にもとづく自由形状変形手法を人類学における古代人骨復元プロジェクトにおいて,人骨頭部の成長シミュレーションに用いた.そのときの成長シミュレーション結果を図3に示す.本手法は変形結果に対する物理的な妥当性はないものの,自由形状を比較的簡単に変形することができ,かつユーザが局所的な変形の修正をパラメータを操作することで行なうことができる.

図3:古代人頭骨の成長シミュレーション結果

 さらに,二つの形状モデルがあったときに,これらの形状モデルを融合する操作,すなわち形状補間という技術も,従来の形状モデリングでは不得手とする技術である.本論文では,3次元形状モーフィングを用いた自由形状の補間手法について提案した.本手法では,二つの位相同形の任意の形状モデルを補間でき,さらにユーザが行なった少数の頂点間の対応づけを考慮しながら形状全体を補間することも可能である.

 本論文で提案する二つの形状モデル間の対応づけの基本となる考えは,頂点数や面数の異なる二つの形状をある一つの同じ形状に写像することで,二つの形状間の対応づけを行なう,ということである.ここでは,調和写像を用いて形状モデルを2次元平面上の単位円内に展開する(埋め込みモデル).そして,展開した埋め込みモデルを合成することで(埋め込み合成モデル),二つの形状モデル間の対応づけを実現する.

 さらに,ユーザによる対応づけを考慮した補間手法の手順として,ユーザが対応づけの補助を行なう部分と,システムによる対応関係構築の計算部分に分ける.

 ユーザによる対応づけ補助部

 1.頂点対応の指定(図4(b))

 2.対応頂点からの補間参照モデルの生成(図4((c))

 システムによる計算部

 1.補間参照モデルの位相に従った,近似最短経路算出にもとづく形状モデルの面のグループ化(図4((d))

 2.各グループごとの調和写像を用いた埋め込みモデルの生成

 3.二つの埋め込みモデルからの埋め込み合成モデルの生成

 4.埋め込み合成モデルをもとにした補間形状モデルの生成

図4:二つの車モデル間の補間手順.(a)形状モデル(b)ユーザによる対応頂点(c)補間参照モデル(d)近似最短経路とグループ化された形状モデル

 本手法により生成された補間の例(二つの車モデル間の補間)を図5に示す.本手法により,二つの位相同形の3角形メッシュで表される形状モデル間を補間することが可能になった.さらに,ユーザが生成した対応頂点を考慮し,形状を分割して処理することで,補間の制御をユーザが行なえ,かつそれを考慮しながら形状モデル間の対応関係を構築することが可能となった.

図5:二つの車モデル間の補間結果
審査要旨

 本論文は、「3角形メッシュによる自由形状モデリング」と題し、複数回の測定により得られる大量の3次元測定点群から形状の詳細度を制御しながら安定に3角形メッシュによる形状モデルを生成する手法、制御線と呼ぶ線を変形させることにより3角形メッシュによる形状を変形させる手法、および二つの3次元形状を補間するような形状を生成する3次元形状モーフィング、などの各手法を開発し、計算機上に実装して自由形状構成に関するこれらの手法の有効性を検証したものである。

 計算機上に3次元形状モデルを構築し利用する試みは,製造分野のみならず様々な分野に広く浸透しつつある。その中で形状モデルの表現にはその目的により異なった形式が用いられている.精度はそれほど重要ではないものの,様々な形状,すなわち,人工物に加え,自然物などの細かな形状を表現したいという要求も多く、このような形状を自由形状と呼び、本研究の対象とする。自由形状を表現する柔軟性の高い方法として,3角形を連続的に接続した3角形メッシュによる表現がある。3角形メッシュは、3次元コンピュータグラフィックスなどにおける最も基本的な形状モデリングの表現形式である。本論文は、3角形メッシュによる自由形状の構築法を研究の目的としている。

 本論文は、7章よりなり、それらの概要は以下のようである。

 第1章は序論であり、自然物を含む自由形状の計算機モデル生成に関する問題点を論じ、汎用的な形状表現のモデルとして適している3角形メッシュによる形状生成手法を開発しようとする本研究の目的を述べている。

 第2章は、「形状モデルの表現とモデリング」と題し、複雑な自由形状対象物のモデリング手法の現状を概観し、第3章より第5章で詳述されるような、本研究の手法の意義と新規性を明らかにしている。

 第3章は、「3次元測定点群からの自由形状の構築」と題し、点群から3角形メッシュモデル生成の一般的手法を述べている。まず,複数の測定方向から得られた測定点群と測定方向ベクトルを用いて,形状の存在範囲を推定して頑健に初期形状を生成するアルゴリズムを構築した。このようにして得られた初期形状モデルは,位相構造は正しく構築できるものの、測定の対象となった実際のモデルとはかなりかけ離れた形状モデルが出力される.そこで,得られた初期形状モデルと測定点群を入力として,両者の間に適当なエネルギー関数を設定し、それを最小とするように位相操作を繰り返して形状モデルの簡略化を行なった.さらに,この簡略化手法を、測定点に対する重み付けを導入して簡略化の局所的制御が行なえるように拡張した。

 第4章は、「制御線群にもとづく形状モデルの変形」と題して、モデルを自在に変形するための手法を考察している。本論文では制御線群にもとづく形状モデル変形手法を提案した。この手法は,変形の対象となる形状に複数の制御線群を設定し,制御線の移動にしたがって変形形状の座標を写像により求める方法である。本手法は変形結果に対する物理的な妥当性はないものの,自由形状を簡単に変形することができ、かつ変形が及ぶ範囲を柔軟に設定できることが特徴である。

 第5章は、「3次元形状モーフィングにもとづく自由形状間の補間」と題し、二つの形状モデルに対して、それらの中間形状を生成する、3次元形状モーフィングを用いた自由形状の補間手法を述べている。本手法では,二つの位相同形の任意の形状モデルを補間でき,さらに特に指定された少数の頂点間の対応づけを考慮しながら形状全体を補間することも可能である.この手法の基本となる考えは、頂点数や面数の異なる二つの形状をある一つの同じ形状に写像することで二つの形状間の対応づけを行なう,ということである.ここでは,調和写像を用いて形状モデルを2次元平面上の単位円内に展開する(埋め込みモデル)。そして,展開した埋め込みモデルを合成することで(埋め込み合成モデル)、二つの形状モデル間の対応づけを実現する。本手法により、必ずしも3角形の数やその接続関係は同一でないが、大域的な位相が同形であるような、3角形メッシュで表される二つの形状モデル間を補間することが可能になった.さらに,指定された対応頂点を考慮し,形状を分割して処理することで,二つの形状間の局所的な対応関係を考慮しながら形状モデル間の全体的な対応関係を構築することが可能となった。

 第6章は、「自由形状の構築例と考察」と題し、上述の各手法を、人工物や自然物に適用して、その形状構成機能を検証し、有効性を確かめた。

 第7章は、結論と展望であり、本研究成果のまとめと、将来の発展の可能性について論じている。

 以上をまとめて、本論文は、3角形メッシュに基づく自由形状モデリングについて、初期形状の生成、変形、二つの形状の合成、などについて論じたもので、種々の応用に対して多様な3次元形状の構成法を提供するものであり、精密機械工学の今後の発展に対して寄与するところが大きい。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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